ビバリウム

結城由真

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「おえええ……」

 バスルームに散らばるミクの身体を見て何度も吐いた。
 鼻がもげそうな悪臭に気を失いそうになる。
 マスクをした悟は、黙々とグラインダーを使い骨や筋を切断し、包丁で肉を削ぎ落としていく。
 
「お前も手伝えよ」

 ニタリと目を細める悟にゾッとして、後戻りできないことを思い知る。
 私は泣きながら吐きながら、必死になって熟れた果実のようなミクの肉片をかき集め、ビニール袋に入れていった。
 頭がくらくらする。吐きすぎて鼻と喉の間が痛い。
 ただの肉の塊と化したミクから今も「わんわん」と鳴き声が聞こえる気がして、気が狂いそうだった。

 ミクの子宮には、子供はいなかった。
 今となってはそんなことすらどうでもいい。
 悟の残忍性が私に向かないか、それだけが不安だった。

「……安心しろ。ミクは14歳の時に誘拐されて、とっくに死亡したことになってる。今更バレる心配もない」

 淡々と惨いことを呟く悟。

「……あなたが誘拐したの?」

 悟は笑って首を振った。

「違うよ。その後業者から俺が買ったんだ」

 悟はミクの頭部を両手で持ち上げ、愛おしそうに自分の顔に近づけた。

「……可愛かったなぁ。俺のペット。……だけどさ、本当はお前のことを観察してたんだ」

 悟はじっと私を見つめ言った。

「浅はかで馬鹿な女がどうやって破滅してくか、それをじっくり観察してみたかったんだ」

 今まで感じたことのないような屈辱がこの身を支配した。
 ……飼われていたのは、私だったっていうの?

「お前は最高だよ。だから次のペットは、……香織に決めた」

 優しく頭を撫でられ、私は本当の地獄を知る。

「香織は犬ってより猫だな。にゃあって鳴いてみろよ」

「………………」

 震えて声が出ない私を、悟は思いきり殴りつける。

「鳴けよ!」

 バスルームいっぱいに怒鳴り声が響き、私は振り絞るように「にゃあ」と鳴いた。




 

 
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