ビバリウム

結城由真

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 それから半年ほど、私達は仲睦まじく生活を送っていた。
 ミクがいることで夫婦の絆も深まり、良好な関係が続いている。
 悟は相変わらず仕事が忙しく、家に帰ってくることは少なかったが、ミクが居るから寂しくなんてなかった。
 欲しいものはなんでも手に入り、家でミクとゆっくり過ごすことができる日々は、私にとって幸福そのものだった。

 ただひとつ、叶えたい夢が芽生える。

「ねえ悟、たまにはミクを外に連れていってあげない?」

 久しぶりに早く帰ってきた悟に、意を決して提案する。

「ずっと家に閉じ込めておいたら可哀想だよ。外の景色も見せてあげたい。せっかく可愛い服たくさん持ってるのに」

 悟はあからさまに不快感を露わにして、難色を示した。

「だから言ってるだろ。ミクは外の世界が怖いんだ」

 それでも私は諦めずに反論した。

「大丈夫。私がついてるから。最初は近所の公園とかにして、徐々にならして……」
「だから無理だっつってんだろ!」

 突然響いた怒号に身体がびくついた。
 彼がこんなふうに声を荒らげるのは初めてで。

「二度と馬鹿なこと言うんじゃない。わかったな」

 冷ややかな眼差しの悟に狼狽し、頷くしかなかった。

「わん……」

 どこか悲しそうな声で鳴き、私に擦り寄るミク。
 ……ミクを外に出したくない理由があるってこと?
 訝しく思うも、悟の豹変が怖くてそれ以上詮索できない。

「……あとさ、お前家事さぼってない?」

「え……?」

 悟は心底呆れたような表情で言った。

「飯はまずいし、家も汚えし、最悪だな。全く安らげない」

 ショックだった。
 結婚当初は家事なんて面倒で消極的だったけれど、ミクと暮らしていくうちに何気ない暮らしの幸福を知って、精一杯家事に専念してきたつもりだ。
 料理も勉強しているし、床にはちり一つ落ちていない。

「……ごめんなさい。もっと頑張る」

 それでも口ごたえはできなかった。
 この穏やかな暮らしを失うのが怖い。
 悟に捨てられたら、私はもう生きていけない。

「あー。俺、ちょっと実家帰るわ」

 そう言って、すぐに出て行ってしまう悟。

「わん……」

「……大丈夫よ」

 心配そうに私を見上げるミクの頭を撫でて、引きつった顔で精一杯微笑んだ。
 
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