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都会は田舎と何もかもが違う。
隣近所との付き合い方、人の多さ、ゴミ出しのルールに至るまで。
櫻木隼人は、この春、田舎であるK県から上京してきたばかりの新妻だ。
新妻というと女性を思い浮かべるだろうが、隼人はれっきとした男であり、隼人の夫である櫻木充も男である。
充とは地元が同じの幼馴染であり恋人同士でもあった。
昔ながらの凝り固まった風習が色濃く残る田舎。
世間体を気にする石頭の両親にゲイをカミングアウトしたのが三年前。
両親は隼人の言葉に激昂し結婚は大反対されたが紆余曲折あってようやく両親が折れ、晴れて充と夫夫になる事ができた。
充の転勤先である都会への引っ越しは、まだゲイ夫夫への理解が少ない田舎から脱出できるとあって隼人は少しホッとしていた。
団地内は自分たちと同じゲイ夫夫ばかりだし、人の目を気にする必要はないからだ。
しかし、生まれてから一度も地元を離れた事がなかった隼人にとって大都会での生活は驚く事ばかりだった。
まずとにかく人が多い。
小さな集落でひっそりと暮らしていた隼人は一度に千人単位の人間を見た事がなかった。
引っ越し初日、電車が遅延して駅から溢れる人のかたまりを見た時は充に「何のお祭り?」と訊ねたくらいだ。
最近ではようやくその人の多さに慣れはじめてきたが、隼人には未だにどうしても慣れないことがあった。
「また断れなかったのか?」
充は汗にまみれたシャツを脱ぐと半ば呆れ気味に隼人を見つめた。
逞しく鍛え抜かれた胸板や腹筋を惜しげもなく晒す充に着替えを渡しながら、隼人は頬を膨らませる。
「だって、あの人たち何かグイグイ来るし…5分だけとか言うから…」
「隼人がそんなどっちつかずな態度見せるから相手がつけあがるんだろう?いらない、帰れ、二度と来んな!ってスッパリ言ってやれ」
消防士という職業柄と元々の明け透けな性格のせいか、充はなんでもはっきりと物事を言い切ることができる。
充だって田舎暮らしが長かったのにも関わらず、彼はあっという間に都会暮らしに馴染んで、今では友達や知り合いもどんどん増えていっている。
しかし隼人はまだ戸惑うことの方が多い。
元々、引っ込み思案なところもあって自分から何か行動を起こしたりはっきり意見を言ったりするのは苦手だ。
地元にいる時もいつも充の後ろに隠れているような感じだった。
知った土地でさえもそんな有様だったのだから、土地が変われば尚更で、隼人はこの団地に引っ越して来てから頻繁に家を訪ねて来る「セールスマン」には未だに圧倒されているのだった。
彼らはとにかくこちらの隙に潜り込むのが上手い。
隼人が少しでも言葉に詰まるとそこにスルリと入り込み言葉巧みに誘導していく。
今はまだ話を聞くだけ、というところで何とか踏ん張っているのだが、これで相手が強く押し切って来たらいつかとんでもない高額なものを購入させられるかもしれない。
そもそも扉を開けなければいいのだが、彼らも何かしら抱えるものがあって一生懸命外回りをしているのかと思うと、話だけなら聞いてあげようかなという気持ちに毎回なってしまうのだ。
要は情だ。
隼人はそういう情にひどく絆されやすい質なのだ。
隣近所との付き合い方、人の多さ、ゴミ出しのルールに至るまで。
櫻木隼人は、この春、田舎であるK県から上京してきたばかりの新妻だ。
新妻というと女性を思い浮かべるだろうが、隼人はれっきとした男であり、隼人の夫である櫻木充も男である。
充とは地元が同じの幼馴染であり恋人同士でもあった。
昔ながらの凝り固まった風習が色濃く残る田舎。
世間体を気にする石頭の両親にゲイをカミングアウトしたのが三年前。
両親は隼人の言葉に激昂し結婚は大反対されたが紆余曲折あってようやく両親が折れ、晴れて充と夫夫になる事ができた。
充の転勤先である都会への引っ越しは、まだゲイ夫夫への理解が少ない田舎から脱出できるとあって隼人は少しホッとしていた。
団地内は自分たちと同じゲイ夫夫ばかりだし、人の目を気にする必要はないからだ。
しかし、生まれてから一度も地元を離れた事がなかった隼人にとって大都会での生活は驚く事ばかりだった。
まずとにかく人が多い。
小さな集落でひっそりと暮らしていた隼人は一度に千人単位の人間を見た事がなかった。
引っ越し初日、電車が遅延して駅から溢れる人のかたまりを見た時は充に「何のお祭り?」と訊ねたくらいだ。
最近ではようやくその人の多さに慣れはじめてきたが、隼人には未だにどうしても慣れないことがあった。
「また断れなかったのか?」
充は汗にまみれたシャツを脱ぐと半ば呆れ気味に隼人を見つめた。
逞しく鍛え抜かれた胸板や腹筋を惜しげもなく晒す充に着替えを渡しながら、隼人は頬を膨らませる。
「だって、あの人たち何かグイグイ来るし…5分だけとか言うから…」
「隼人がそんなどっちつかずな態度見せるから相手がつけあがるんだろう?いらない、帰れ、二度と来んな!ってスッパリ言ってやれ」
消防士という職業柄と元々の明け透けな性格のせいか、充はなんでもはっきりと物事を言い切ることができる。
充だって田舎暮らしが長かったのにも関わらず、彼はあっという間に都会暮らしに馴染んで、今では友達や知り合いもどんどん増えていっている。
しかし隼人はまだ戸惑うことの方が多い。
元々、引っ込み思案なところもあって自分から何か行動を起こしたりはっきり意見を言ったりするのは苦手だ。
地元にいる時もいつも充の後ろに隠れているような感じだった。
知った土地でさえもそんな有様だったのだから、土地が変われば尚更で、隼人はこの団地に引っ越して来てから頻繁に家を訪ねて来る「セールスマン」には未だに圧倒されているのだった。
彼らはとにかくこちらの隙に潜り込むのが上手い。
隼人が少しでも言葉に詰まるとそこにスルリと入り込み言葉巧みに誘導していく。
今はまだ話を聞くだけ、というところで何とか踏ん張っているのだが、これで相手が強く押し切って来たらいつかとんでもない高額なものを購入させられるかもしれない。
そもそも扉を開けなければいいのだが、彼らも何かしら抱えるものがあって一生懸命外回りをしているのかと思うと、話だけなら聞いてあげようかなという気持ちに毎回なってしまうのだ。
要は情だ。
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