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第二十五話の裏側 揉め事

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ピオミルが拘束され、その場はいったん解散となった。ギースはギザークに、彼女の拘束を解くよう嘆願していたが受け入れられず、そのまま連れて行かれる彼女を見ていた。そして、「ち、父上にっ! 父上にお願いする!」と言って走っていった。

私は、間もなく始まる魔装戦準決勝を観戦することにした。ギースが使っていた部屋から出て、一番近くで見れる実況席へ向かっていると生徒会役員のクイース伯爵令嬢が慌てた様子でやってきた。


「学園長!」

「ああ、フィリアン・クイース。お疲れさま」

「今大丈夫ですか? すみません、私の手には負えないことが……」

「そうか……案内してくれ」


魔装戦には近隣諸国からも貴人が観戦しにやってくる。それもあってか、どうしても生徒では対応できないこともあるのだ。

例えば、以前ある国から来た王家に連なる者が、他国の上位貴族の夫人に手を出したということがあった。それはやっちゃ駄目だろうという国家間での大問題行動だ。生徒ではとても対処できないが、私だってそこに呼ばれても、王弟だという身分で話を聞くくらいしかできなかった。夫人は、夫との関係が冷めきっていて、夫には愛人もいるし子供も独立していて寂しかったのだという。相手の男はただの女好きだったが、夫人にとっては、久しぶりに好意を向けられて嬉しかったとかなんとか。知らんがな。

聞けば、今回の問題は兄の正妃の生国モッラーロからの客人が問題とのことだ。生徒会役員であるハマメル・エーコラとモンド・ダックスの前情報であったモッラーロの公爵夫人とモッラーロの第一王子の側妃がもめているらしい。


「お二人は姉妹で、姉の公爵夫人は元々第一王子と政略的な婚約をなさっていたのですが、実の妹と第一王子が恋に落ちて恋愛結婚したという理由で姉妹仲は最悪だそうなんです」

「陛下の正妃の兄だ、事情は聞いたことがあるが……」


来場時に、ギザークが迎えて王族観戦席で観ていたはずだが、公爵夫人が観戦中先に帰るということで馬車乗り場に向かったらしい。それを、第一王子が追っていって騒ぎになり、さらに王子妃が追ってきて収拾がつかなくなっているという。

私たちは学園入口の馬車乗り場へ急いだ。


「アッ、よかった。ガクエンチョウきたヨ、ハマメル様」

「ヨかった、たすかったヨ」

「エーコラ、ダックス、お疲れさま」


未だ言い合っているご婦人たちと横でオロオロしている第一王子。私はとりあえず生徒会の二人に話を聞いた。

要約すると、姉の公爵夫人は第一王子にまるで未練がなく、むしろ妹と幸せになってほしいと思っている。第一王子のほうが、公爵夫人に未練があり二人きりになるチャンスだと思って部屋を追って出て話していたところ、王子妃になった妹が「お姉様はまだ未練があるのね!」とひとりわめきだした。公爵夫人はそのまま学園を後にしようと馬車乗り場へ向かっていただけなのだが、第一王子も王子妃もついてきて、二人でやんややんやしているらしい。


「だから! 私たちは恋愛結婚なの!」

「ああ、落ち着いてクリステル……」

「知っているわよクリステル。私は納得しているし、あなたには幸せになってほしいと思っているわ」

「ああ、そんな強がりを言って……なんていじらしいんだディアーヌ」

「ひとりで帰ろうとするなんて思わせぶりよ! 気にしてくださいって言っているようなものだわ!」

「そうは言っても……コンスタンと約束しているのよ。彼は仕事でこちらには来られなかったから、夕食はエリゼのレストランで食べようって予約しているのよ」

「コンスタンも来ていたのか? てっきり君だけだと――」

「しっ、知らないわよそんなこと! しかもお姉様、私を差し置いてコンスタン様とディナーだなんてっ……連れて行ってちょうだい!」

「えっ、クリステル、わ、私は??」

「あなたは殿下と一緒にいるんでしょう?」

「あっ、そ、そうだよね?」

「エリゼのレストランなんてずるいのよお姉様!」

「ま、まあ、我が国にもその名が届くほどの名店だから気持ちはわかるけどね?」

「…………クリステル、貴女の席はないわ」

「そうだ、ほら、私たちは王宮に招かれているから――」


第一王子が完全に無視されているのが気になるが、ここは、そうか。まだどちらも立太子していないから第二王子が次のモッラーロ王になる可能性もあるのか。妃を御しきれていないようだし、少し頼りないウジェーヌ王子の継承は怪しいのかもしれない。


「失礼、いいか?」

「「「!!」」」

「久しいなウジェーヌ殿」

「グイスト殿……?」

「ああ、今はここの学園長をしている」

「そうでしたね。……お見苦しいところを」

「少々、声が大きかったようだな」


軽くたしなめると、王子は肩を竦めて女性二人に目をやった。


「これは、グイスト王弟殿下。ご無沙汰しております」

「バダンテール公爵夫人、もうお帰りか?」

「ええ、夫と約束がありまして」

「いやすまないな。少し時間が押してしまったようだ」

「いえ」


エリシャの件があって、少し大会時間が押している。
待ち合わせをしていた夫人には申し訳ないことをしてしまった。


「少し騒がしいと報告があったのだが、問題か?」

「いえ、問題ありません。お騒がせして申し訳ありませんでした」

「ウジェーヌ殿は、問題ないか?」

「はい……、おさめられずご迷惑をおかけしました」

「ちょっとウジェーヌ様! 問題は大ありですわ!」

「黙るんだ、クリステル。問題はあるが、他国の、しかもこのような公衆の面前で話すことではない」

「そっ…………」

「さあさあクリステル。レストランに行きたかったのよね? 席はなんとか用意していただくよう頼んでみましょう」

「お、お姉様……」

「そうそうクリステル。行っておいで。私は王宮でゆっくりさせていただくから」

「は、はい……」


問題が大きそうな王子妃をとにかく退場させようと、公爵夫人とウジェーヌ王子は彼女をさっさと追いやった。
見たところ、かまってほしい妹と呆れながらも相手をする姉、それほど仲が悪いようには見えないな。


「解決したか」

「騒いで、すみませんでした……」


最後に王子妃がこちらに頭を下げ、夫人はきれいな礼をとってくれた。
そして、姉妹は馬車に乗り去っていく。


「ご苦労だな」

「はい……あっいや、まあ……」


冷静になれば場をおさめることもできるようだな。ただの無能ではないことを祈ろう。
義理の、兄になる。他人ではないからな。


その後、ウジェーヌ殿と共に観戦席に戻ったが、すでに準決勝、エリシャの戦いは終わっていた…………。


「まあまあまあまあジオラルド様の氷魔装ですわっ!!」

「お嬢さま、騒ぎすぎですから」

「だってリノ! ああ、ああなんてきれいなんですの……!」

「まあ、わかりますけど」

「でしょう?! だったらあなたももっと応援しなさい!」

「ああ、はい」

「素敵ですわー! ジオラルド様ー!」

「素敵ですわー」

「きゃー! いけっ、やれっ、そこですわー!」

「お嬢さま……淑女の被り物は置いてきちゃいましたか? 控え室です? 取ってきますか?」

「リノ……なんてこと言うの。いいのですわ、こういうお祭りは騒いだもの勝ちですから」

「…………俺も使えますよ、氷魔法」

「知っていますわ。あなたが全属性いけるのは」

「すごいです?」

「ええ、すごいすごい、すごいですわー…………っ! 見ました?! 今のアイスランス捌き!!」

「見ましたけど―。俺もできます―」

「ジオラルド様! 剣も見たいですわー! 白金剣!」

「………………」


少し下に目をやると、すでに戦いを終え一般観戦席でやたらとはしゃぐエリシャと、なぜかハーティシャーと張り合っているエリシャの護衛が目立っていた。仲いいな……。


「あっ、ファルミアさん!」

「ミスりましたね、お蝶令嬢」


決勝戦は、ファルミア・マクラーレン令嬢とジオラルド・ハーティシャー伯爵令息の戦いだった。
なかなかいい戦いだったが、さすが学園始まって以来の魔法使いだ。ハーティシャーに軍配が上がった。

私も、エリシャの戦いが観たかったし、エリシャと一緒に観戦したかった。



…………護衛は、もう募集していないのか?




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