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第二十二話 第一級麻薬
しおりを挟む「エリシャ、痛いところはないか?」
「ええ、お兄様……問題ありません」
「一体、何をされた?」
何を……そう、お嬢さまには魔法耐性があり、睡眠や魅了、毒、混乱などの状態異常は起こらないはずなのだ。しかしここで眠っていたということは、何らかの方法で眠らされたのだろうが……
「あれは恐らく、エフラン草から抽出した麻酔薬かと……。独特の匂いがしましたから」
「エフランか……状態異常の耐性があってもその間をすり抜けるよう作られている医療用の麻酔か……」
「学園内でエフランを使うとは、いい度胸をしているな」
エフランエーテルは、国内でも使用制限が徹底されている第一級魔薬だ。
使用すると、気分の高揚や幸福感などが得られるため中毒性がある。しかし、薬物の作用に体がなれてしまうため、快感を得るのに必要な量が増え、使用量が増える。薬が切れると様々な状態異常が起こるのだが、幸福感がどうしても味わいたいと、使用をやめることが難しい。
密輸や密造をしている者がいて、裏では高額で取引されている。
それこそ、貴族が薬に溺れてしまったら、家も爵位も失うほどにのめり込んでしまうから、使用は広く禁止されているのだ。
正規の使用法としては、大怪我などで危険な状態の患者に麻酔として使われるため、きちんとしたルートで流れているものは医術局で厳重に管理されている。
「エフランなら中和薬がありましたわ」
「えっ、ここにか?」
「お兄様、生徒会室には、ありとあらゆる物が揃っているのですよ?」
「そ、そうなのか? 私がいた頃は中和薬なんて置いていなかったと思うが」
「叔父上が色々用意させているんだ」
「えっ、王弟殿下が、ですか?」
「ええ。よくしていただいていますわ」
「ああ、なるほど……」
そう、グイスト王弟殿下が学園長になってから少しした時、お嬢さまと再会した学園長は、お嬢さまが健やかに過ごせるようにと無いものはないのではないかというくらい、学園内の設備や物品を充実させた。
それは、今回のように「いつ使うんだ?」と思うような中和薬だったり、わかりやすいような食事メニューだったり、購買部にお気に入りのブランドの文房具を置いてみたり、お嬢さまは球技が苦手なので球技大会を廃止してみたり、筋肉男子がいくら暑い暑い言おうとも、学園内の設定温度は華奢な女子にあわせて夏は28度、冬は18度だ。いや、お嬢さまは自分の周りの温度は自分で操作しているんだけどな。
そんな王弟殿下の尽くした甲斐あってか、即座に回復したお嬢さまは、バッとエドガー様に向いて慌てて言った。
「お兄様っ!」
「な、なんだエリシャ」
「ジオラルド様の戦いは!?」
「なっ、ジオラルド?」
「どうなったのです?! まさか初戦敗退なんてことには……」
「安心しろエリシャ嬢。一回戦突破だ。まだヤツの魔装を見るチャンスはある」
「まあ! ありがとうございますギザーク様!」
「エリシャ……」
眠らされ連れ去られ、閉じ込められていたのに、もしかしてこの人は自分も大会に出るつもりだろうか。
いや、出る気だろうな。
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