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第六話 俺様を傷つけた女

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「ねえギース様、私いつまで待てばいいの?」

「んん? なんのことだ?」

「こ ん や く は き」

「ああ、エリシャのことか」


しな垂れかかってくる俺のかわいい人、ピオミルを抱きしめながら、忌々しいあの女の顔を思い浮かべる。思わず口元がだらしなく垂れそうになるが、頭を振って浮かんだエリシャの顔を振り払った。

エリシャ・エストルム。ピオミルと同じく、シュトルポジウム侯爵の娘だ。ほかに兄が二人いる。

俺はギース・ジャビウス、ここジャービー国の第二王子だ。エリシャは俺の婚約者。プラチナブロンドのサラサラした髪に透き通るような白い素肌、紫ががったサルビアブルーの吸い込まれそうな瞳に長くしなやかな四肢、磨き上げられた凹凸のある体がたまらないが、憎むべき相手だ。


なぜかって?


忘れもしない、あれはエリシャと初めて会った時のことだ。

婚約者が決まったといわれ、母上に連れられてエストルム邸に行った。相手は国内有数の有力貴族である騎士団長の娘だという。楽しみにしていたんだ。俺と同じ歳で、えらい美少女という評判を聞いていたから。


「エリシャ・エストルムです。第二王子殿下にご挨拶いたします」

「…………」


開いた口が塞がらなかった。

なんなら涎も出ていたかもしれない。

目の前で、妖精と見まがうような美しい少女が、きれいな所作でお辞儀してくれていたのだ。

俺は一目見てエリシャを気に入り、大人たちが話している間ふたりで庭園を回ってくればいいと言われたので、さっそく二人きりになる機会を得て舞い上がった。

それで……


「なに、を」

「エリシャ、君は俺の婚約者になったんだ。つまり、君は俺のもの。ほら、もっとこっちに来て……」

「っ!」


-シュッ

-パン!


庭園にあるベンチで隣に座ったエリシャの肩を抱き寄せたとき、辺り一面から殺気を感じた。なんなら何か飛んできて頬をかすった気がするがそれどころではない。妖精から平手打ちを食らい、嫌悪感をあらわにした青い瞳で睨まれていたのだ。


「え、エリシャ……?」

「…………きもちわるい」

「っ!?」


ショックだった。

13歳だぞ? そろそろ性に目覚める年頃だ。女の体に触れたいと思って何がいけないんだ? しかも婚約者だぞ? 婚約したんだ、俺がしたいことは率先して叶えていくべきだろう。王子だぞ? 敬われ大切にされて当然だろう。それを気持ち悪いだなんて! あの女に、俺のハートはズタズタにされた。絶対に許さない。

その後は、月に一回は茶会を義務付けられたので渋々顔を出していた。そして婚約して一年が経つとき、一年記念の会だといって母上が張り切っているからこれまた仕方なく参加したエストルム邸のお茶会で、ピオミルと出会った。

見た目はまあ、ほんとうに姉妹か?というくらいエリシャとは違うが、きれいな金髪だし体つきは悪くない。初対面の時からでっかい胸をぐいぐい押しつけてきていたしな。あの時はまだ13だったか? しかしいい感触だった。ピオミルはあいつの妹だというし、乗り換えてもいいだろう。母上が欲しいのはポジウム侯爵の後ろ盾みたいだからな。

好きなだけ好きなことさせてくれるし、好きなだけ、好きなことしてくれるピオミルは、傍に置いておいて損はないだろう。「王子様にご奉仕するのは当たり前でしょ?」とか言っていたな。さすがだ。わかっている。ほかにも何人か手付きの女がいるが、一番馴染んでいるのはピオミルだ。だから結婚してやってもいいだろう。侯爵家の娘だしな。
それに、婚約破棄されて新たに婚約するのが妹……それが一番、エリシャにダメージを与えられるだろう。


「ギース様ぁ?」

「ああ、わかっている。婚約破棄は、卒業パーティでド派手にかましてやろう」

「まあ、卒業パーティで? ふふっ、それは楽しみです!」

「フン、それよりピオミル、もう一度ここをこうこう……」

「はいはい王子様、仰せの通りにっ」


ほんとうに、ピオミルは従順で可愛いヤツだ。

ああ、俺との婚約が破棄されるとなったら、あの女、エリシャは一体どんな顔をするんだろうな。



ああ……ほんとうに楽しみだ。




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