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18.「バルシュミーデの後継者だったよな??」

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三代前に王弟がいることから、バルシュミーデ公爵邸は貴族街の中でも王宮にほど近いところに在り、威厳を保つには充分な造りの荘厳なる屋敷だった。
そんな屋敷の一室で、高貴な公爵家の跡取り息子が父親に向かってとんでもないことを言い出した。


「私はアイブリンガー家に婿入りしますので、家はマルクに継がせてください。」

「なんだと?」


バルシュミーデ公爵は、自分の耳を疑った。幼い頃から次期公爵として教育を受け、何でもそつなくこなす優秀な長男が、何をどうしたら他家に婿入りするなどと言い出すのだ、と。


「婿入り、と言ったか?」

「そうです。」

「アイブリンガー家?」

「はい。」

「お前は、バルシュミーデの後継者だったよな??」

「そうですが、そこを変更願います。」


いつもは威厳たっぷりのお父さんも、びっくりし過ぎて目が点になっている。ついでに、当事者になるからと連れてこられていた次男マルクの目も点になっている。


「待て、理解が追いつかない。順を追って説明しろ。」


ルトガーは説明した。

先日アイブリンガー侯爵に会ったら、婚約破棄になるから結婚相手を探さなければいけないと聞いたこと。
その時、自然と口から結婚相手は自分が、という言葉が出てきたことで、自分はシュテファニのことがずっと好きだったと自覚したこと。
さらに、婚約継続を望んで非人道的な手段に出ようとしたバーデン家のこと。
ついでに、王には私的にだが、もう婚約と報復の許可を取っているということ。


「なのであとは、父上が、後継者はマルクにすると。そしてフェーベとは、マルクが婚約を継続していくと、そう言ってくれればいいのです。」

「いいのです、ってルトガーよ……。」

「それで障害はなくなります。」

「家督を継ぐことと、フェーベとの婚約を障害とか言うな?」

「私とシュテファニが結婚するためには、その二つが邪魔なのです。」

「邪魔って……。いやお前さっき報復って言った?」

「報復? ええ。シュテファニを脅かしたバーデン家には報復します。」

「え、ええー……。」


きっぱりはっきりそう言った息子はどうやら本気のようで。昔から、一度決めたことは突き通すという頑固な面はあった。これは説得も無駄か、と思ったが家督継承や婚約は簡単なことではない。すでに王に許可はもらったと書面で見せられては反対することも難しいが、公爵は一応、思いとどまるよう切言を試みる。


「報復はまあ、いい。しかし、そうだな、シュテファニ嬢に我が家に嫁いでもらうことはできないのか? それなら、婚約者の変更だけで済む。」

「シュテファニは、素晴らしい女性です。自領にしても、鉄道事業にしても、彼女なくしては成りません。」

「いやお前も我が家にとってなくてはならない者だぞ?」

「ありがとうございます。しかし、婚約解消となれば面倒事が増えるだけかと。フェーベもバルシュミーデも家同士の縁を望んでいるのだから、婚約者変更ならば問題はないでしょう。」

「まあ、うん。……えー。」


ルトガーが言い出したことこそがもうすでに面倒事なのだが、自分のことは棚上げしたらしい。次男のマルクも優秀な男であるし、フェーベ家さえ云といえば問題も起きないだろうと、ほかの案は受け入れず我を通そうとする。


「こちらにそのことを記した書面があります。サインしてください。」

「よ、用意がいいな。」

「さあ。」

「……わかった。受け入れるしかないようだな。マルクもそれで、いいな?」

「はい。異存ありません。」

「ありがとうマルク。」

「はい、兄上。」


バルシュミーデ家の三兄弟は、貴族では珍しく仲の良い兄弟だった。
長男が特出して優秀だったため、次男三男も続けとばかりに勉強や稽古に励んできた。
結果、仲良し優秀三兄弟が出来上がったのだ。
なので、ルトガーが好きな人と結婚したいならそうすればいい、とマルクは思った。自分には婚約者も想う人もいないのだから。突然過ぎる気もするが、話を聞けば急に婚約破棄となったのだ、それも仕方ないこと。

好機を逃すまいとする兄に協力できるなら嬉しいと、家を継ぐことと婚約を結ぶということを受け入れた。




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