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14.「キモかったのか……。」
しおりを挟むアイブリンガー邸からすぐの路地に止まるバルシュミーデ家の馬車の中で、ザビは思案に暮れる。護衛の身で仕える家の事件内容をペラペラ話していいのか、と。
学生時代から、この男が主人を気にかけていたのは知っている。
シュテファニが教師にセクハラされていた時さりげなく助けに入ったり、何が気に食わなかったかどこかの令嬢が昼休みに食堂でお茶をかけてきた時には、すかさずやってきて冷ややかに対応していた。
護衛としてついている自分は、お茶を代わりにかぶったり、セクハラ教師と主人の間に物理的に無理やり割り込むというように盾になることはできても、相手が貴族ならば文句を言える立場にない。
そんな時、公爵令息であるルトガーが表に立つことで、シュテファニをさりげなく守っていたのは知っている。
そして、セクハラした教師が辞職に追い込まれ再就職もままならず実家に帰って引きこもりになったという話を聞いた。お茶をかけてきた令嬢は、婚約者に逃げられ新しい相手も見つからず、このままだと家では邪魔な小姑扱いになるなどという現状も聞いた。
ルトガーに対して、絶対あんた何かしたでしょう! と思ってしまう。要所要所でシュテファニのためとはいえ、黒いオーラを放出する相手を敵には回したくない。
「まあ、あんたには話してもいいのかもしれないけど、あんまり面白いもんじゃないですよ。」
「そうだろうね。だからシュテファニには聞かなかった。」
「なるほど。」
主人に対する気遣いを感じたところで、ザビはルトガーは知っていてもいいと判断し、先日フーゴが押し入って来た時のことを話始めた。
帰ってきたぞと門前に立つも、門兵に止められてしまったフーゴ。仕方ないので屋敷を囲う外柵を外して敷地内に侵入し、玄関にも兵がいたのでまた止められては面倒だと外から二階の執務室までよじ登った。そして、痴漢撃退に使われる、怪我をしない程度の衝撃弾を発射する魔道具を改造したものを使って窓を破壊して邸内に入り、シュテファニを手篭めにして結婚するしかない状況に追い込もうと、服を脱ぎながらお粗末なものをひけらかして迫ったという話だ。
「……ほんとうに…………ほんとうに間に合ってよかったよ、ザビ君。」
「まあ、そうですね。よかったです。」
「バーデン令息は、そんなに頭の悪い男だったのか……。」
「まあ、そうですね。あん時はさらにものすごいキモかったですね。」
「キモかったのか……。」
「まあ……。」
思い出したくないモノを思い出してしまったザビは、襲ってくる吐き気と戦った。
シュテファニを襲ったあと、捕縛されたフーゴは王都警備隊に突き出された。今は牢屋に居るだろうが、おそらくバーデン家の権力と財力ですぐに出てきてしまうだろうとザビは語った。
すべてを把握したルトガーは、フーゴに対する報復を決意するのだった。
「シュテファニにそんな思いをさせるなんて……どうしてくれようか。ねえ?」
「やめてくださいよ、そのオーラ……。そして俺はあくまでただの護衛なんで、巻き込まないでください。」
「そうか? 君もあの男には腹が立っているだろう。」
「そうですけど。主の傍にいて守るのが仕事なんで。」
「ほんとうに、君は出来た護衛だね。」
「……どうも。」
話は済んだとザビは馬車を後にする。
ひとりになったルトガーは、フーゴに対する報復を考えて悪い顔になったり、まだ見ぬシュテファニとの新婚生活を妄想してにやけたりしながら帰っていった。
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