79 / 193
王都編下
第79話 烏は光り物がお好き
しおりを挟む両方の黒幕ぶん殴ると決めた私です。
まず最終目的は『王子誘拐の真犯人を探し出すこと』『その証拠を入手すること』の2つが大事でしょう。
そのために必要な物は、そう、協力者。
・犯人が私ではないと証明してくれる者(中立)
・情報提供者
・アリバイ証明者(第三者)
・クアドラードの者だという証明者
更にそこに条件を加えるのなら、身元がはっきりしている人、というものが必要になってくる。だって、怪しいよね。どこの犬の骨だか猫の骨だか分からない人間だと『犯人』の共犯者だと思われてしまう。
情報提供者というのはこれから挑む事件解決に向けて探る目処を立てるのに必須。伝手もなければ情報網も無い。そんな私では探るに限度があるし。
犯人が私ではないと証明してくれる者とアリバイ証明者では少し意味合いが違う。
私が実行犯ならばアリバイ証明者だけで済むが、私が裏で手引きした黒幕だという疑惑は晴れない。だから犯人、正確に言うと犯行一味では無いという証明が必要なのだ。
そして私が犯人だと疑われている最大の要因は『女狐』であるということ。別名『トリアングロ王国の幹部だと思われている事』である。
めんどくせ~~~~~~!!!
淑女に有るまじき格好で大の字になって寝転びたい。全てを投げ出したい。
誰だよこんな面倒臭い案件持ってきたの! 私を巻き込んだの!
一体私が何をした!?
……いや色々やらかした自覚はあるけど。残念なことに無いとは言えないのが辛い現状。
「なぁ、リィンどうすんの?」
ペインがナッツをつまみながら首を傾げた。
「オレ、お前がウソついて無いって証明は出来ねーよ?」
「んーー、とりあえずギルド。それとグリーン子爵。この2つに頼るが吉と言うですか」
今のところの話だけど、冒険者ギルドは中立組織だろうしグリーン子爵なら発言に信用があるだろうからバックアップとして期待出来る。
「あ、でも冒険者大会優勝ぞCランク冒険者ならいけるでは無きです?」
「………………そう来たか」
「そんっっなに関わるがいや!?」
「ぶっちゃけ王宮? 王族? まァ、オレお偉いさんとかに関わりたくねーし。助けてはやるけど、直接はちょっとなァ……」
遠慮しておきます、と言いたげに手のひらを向けられる。
こいつを、こいつを無理矢理巻き込みたい!
どうしたら巻き込める……? 共犯者とかそういう感じに冤罪を被せたり遺書とか捏造させてペインの名前を出させたら巻き込めるかな……?
そうなると逃げそうな気がするけど、多分『馬鹿が下した判決が冤罪』って結果がめちゃくちゃ嫌いだと思うんだよね。プライド高そうだし。
プライド高いって言うか、目的のためなら泥水すすろうが何しようがプライドを捨てることが出来るけど、最終的に自分の手のひらの上で転がした結果じゃないと納得出来ない終局的なプライド激高男って感じはある。
こうなったらギルドの強制依頼とか使って……。
「あれ、皆早いやん」
大欠伸をしながらサーチさんが部屋から降りてきた。おっちゃんスープ、と注文を入れ、そしてペインの隣に座る。
「リーダーちょい耳貸しや」
「ん?」
「あんたが昨晩勝手に出てった話なんやけど」
ピキっと体が固まるペイン。ざまぁみろ。
「バレてんじゃねぇか」
ライアーが性事情筒抜けなパーティーリーダーの無様な姿を見つめてそう言った。
「王子サマやってきたんやろ? その間にラウトとリーヴルと一緒にクライシス見張っとったんやけど、接触は無かったで。ちゅうか、ラウトが宿の裏道使うんやったら俺も連れていかんか、やて」
「うっへぇ……」
ボソリとサーチさんが耳打ちすればペインは青いトマトを間違えて食べてしまったみたいな顔をしていた。
「聞こえるすた?」
「いいや残念ながら」
「お前ら2人共他人の弱味を握ることに積極的すぎてドン引きなんだけど」
弱味は握るもの。弱点は晒すもの。
悪意を利用し善意を疑え。
幼少期のパーフェクト言語教室から逃がしてくれた双子の姉に感謝したらそこに待ち受けていたのはパーフェクト体力教室だった。肉体言語は聞いてない。
「まあ細かいことはパーティーの秘密なんやけど、クライシスのことやで」
「オレがいなかったら寂しがるから」
監視がいる手前言葉を誤魔化しているけど何やらかすか分からないのでってことだね。
私じゃなくてもろトリアングロの幹部いるんだけどそっち疑ってくんないかなぁ!?
──ゴーン ゴーン
「鐘が鳴ったな」
「んじゃライアー、ギルドにでも行くですか?」
「なぁ思ったんだけど俺お前に巻き込まれただけなんじゃねぇか?」
「行くですよアイボー! よっ、一心同体! 背中は任せるした! 地獄に落ちるが時は一緒ぞ! 仲良くわけっこ!」
「おまっっっっ、くそ、お前こういうのを巻き込むためにコンビの約束交わしたな!?」
口喧嘩をしながら宿を出ようとする。
ペインが笑顔で手を振っていた。私たちの監視が無くなるからだろう。いつか痛い目を見ろ。
そして扉を開け──
「来た! 準優勝のリィンだ」
「お初にお目にかかります。私はリチュオル男爵からの遣いでまいりまし」
「おい邪魔するな、初めましてお嬢さん。良かったら俺の主さんのところで話聞いてくんないかな? 悪い話じゃないんだけど」
「そこのコンビ! 良かったらパーティー入らないか!」
「いや貴族の遣い多すぎ……」
「ところで今信仰している神などいらっしゃいますか?」
「クアドラード魔法連盟の……!」
「そこの魔法職の少女よ我々と共に魔物の素晴らしさを説きませんか」
──閉めた。
1秒だった。硬直したその1秒に詰め込まれてしまった。その一瞬を記憶できる自分の脳みその出来がにくい。
「──それが毎年恒例。冒険者大会出場冒険者の勧誘強化月間です」
振り返れば変装を終わらせたペインがいた。
「冒険者の母数があるのに16組しか出んのおかしい思わんかった? 王都の冒険者はそれがよう分かっとるから、あんまり出ないんや。賞金目当てとか名を広げる意味ではこぞって出るんやけど」
「んじゃオレらほとぼり冷めるまで日帰りが難しい依頼こなしてくるから元気でな!」
すちゃ、と2人は手を上げて逃げ出した。
「は、ぇ! 他の3人は!?」
「人数多いのに一緒に移動するわけねーじゃん! 大丈夫大丈夫、1週間経つかどこかの貴族の養子に行けば落ち着くって! オレは貴族になるのオススメ!」
元々貴族なんだってばっっ!
睨むも何処吹く風。というか本当に風みたいに2人は厨房の奥へと駆け込んで行った。
従業員用の裏口か……!
「ふふふ……」
吹き抜けのホールの上。
2階の手すりに持たれたリーヴルさんが見下ろしながら笑っていた。オタクのリーダーなんですけど。
後ろにラウトさん達2人もちゃんといる。
「リィンちゃんの髪色は目立つから、注目集めやすいのかもしれないわね」
「リーヴルさん」
「ペインは普通に平凡な髪色しているから適当に服装変えるだけで平気なんだけど」
もしかしたら過去にも出場経験があったのかもしれない。
それくらいには対応が慣れていた。
「上から見てたけど……それにしても貴族の勧誘が多いわね……」
顎に手を当ててふむと考え込む。
しかし答えは出なかったのかゆっくりと微笑んだ。
「ライアーちゃんが何かやらかした、とか?」
「生憎心当たりは…………無いな」
「迷いますたね?」
「冤罪の事があるだろ。ただ、たとえ貴族に漏らしたとして貴族連中が押し掛ける必要があるのかが謎だがな」
まあ接触は悪手所の話じゃないと思う。
「とりあえず冒険者ギルド、ギルマスとサブマスに会うです」
「だな。あいつらこの状況が分かってて進めたとしかおもえない」
「何か裏ぞある気がする」
純粋に実力を確認するだけかと思っていたけど、何かほかにも理由がありそう。もしかして彼らから女狐の情報が漏れたのかもしれないし、どっちみち急ぎめで行かないと。
「力になってやれないが、まあ頑張れ」
ラウトさんがリーヴルさんの後ろから微笑んでそう言ってくれる。善人っぽいけどペインの色々に付き合えるくらいだから多分彼も一筋縄じゃいかない人なんだろうな。
「ライアー上行くですぞ上」
「……もしかして」
「正確に言うすると空」
「やっぱりか!」
部屋の窓から逃飛行しよう。物理的に。
まあ向かう先が冒険者ギルドで目的から考えるとカチコミなんだけど。
「そういうすれば」
「俺はもうその言い方に首を突っ込まねぇからな」
箒に乗るのを断固拒否したライアーが屋根を飛び跳ねながら走るので、そんな人間離れは出来ないからと箒に乗る私が問いかけた。
「ラウトさんとリーヴルさん、もしくはペインとサーチさん出来てるのですかね?」
「やめろ知りたくない!」
女好きの悲痛な叫びだった。
0
お気に入りに追加
288
あなたにおすすめの小説
【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する
影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。
※残酷な描写は予告なく出てきます。
※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。
※106話完結。
辺境で魔物から国を守っていたが、大丈夫になったので新婚旅行へ出掛けます!
naturalsoft
ファンタジー
王国の西の端にある魔物の森に隣接する領地で、日々魔物から国を守っているグリーンウッド辺境伯爵は、今日も魔物を狩っていた。王国が隣接する国から戦争になっても、王国が内乱になっても魔物を狩っていた。
うん?力を貸せ?無理だ!
ここの兵力を他に貸し出せば、あっという間に国中が魔物に蹂躙されるが良いのか?
いつもの常套句で、のらりくらりと相手の要求を避けるが、とある転機が訪れた。
えっ、ここを守らなくても大丈夫になった?よし、遅くなった新婚旅行でも行くか?はい♪あなた♪
ようやく、魔物退治以外にやる気になったグリーンウッド辺境伯の『家族』の下には、実は『英雄』と呼ばれる傑物達がゴロゴロと居たのだった。
この小説は、新婚旅行と称してあっちこっちを旅しながら、トラブルを解決して行き、大陸中で英雄と呼ばれる事になる一家のお話である!
(けっこうゆるゆる設定です)
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
私を裏切った相手とは関わるつもりはありません
みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。
未来を変えるために行動をする
1度裏切った相手とは関わらないように過ごす
底辺召喚士の俺が召喚するのは何故かSSSランクばかりなんだが〜トンビが鷹を生みまくる物語〜
ああああ
ファンタジー
召喚士学校の卒業式を歴代最低点で迎えたウィルは、卒業記念召喚の際にSSSランクの魔王を召喚してしまう。
同級生との差を一気に広げたウィルは、様々なパーティーから誘われる事になった。
そこでウィルが悩みに悩んだ結果――
自分の召喚したモンスターだけでパーティーを作ることにしました。
この物語は、底辺召喚士がSSSランクの従僕と冒険したりスローライフを送ったりするものです。
【一話1000文字ほどで読めるようにしています】
召喚する話には、タイトルに☆が入っています。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる