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地位向上編

46話 俺、不安になる

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 あの大きな戦から2週間ちょっと。
人族ヒューマンは魔国からの宣戦布告により同族同士の争いを止めた。
 声明によって世界に緊張が走ったのだ。

 それも当然だろう。
 今まで音沙汰すらなかった魔国が声を上げたのだから。
 しかし誰しもが大きな勘違いをしている。

 言ってしまえば宣戦布告をする意味、それは魔国には各国を落とすだけの戦力が蓄えられているという、そんな都合のいい解釈をしてくれてる各国には感謝でしかない。

 だって俺、魔王に就任して相変わらず何もできないし、もうやってることが一国の王とはほど遠いことばかりで……これ、いつか絶対反乱が起きるぞ。 

 結局のところ力はあったって、政治力、それに野望がなければ意味がない。それにこの戦う力は、言ってみれば元は姉ちゃんのもんだ。
 それに最近は魔王を支えるはずの四天王とやらに喧嘩を売られる始末でもう本当に泣きそうです。

「魔王様……いえ、人族の紛い物め。お前に魔王など務まるはずがない」

 そうやって真っ先に喧嘩を吹っかけてきたのは、四天王の中でも最強の戦士と称えられる〈赤血セッケツ〉のビレネだ。
 外見は俺みたいな人族とそう変わりない。しかしその紅き邪眼は敵対する者を石化するという。それに最強の戦士だと言われるだけあって剣の腕もなかなかのものらしい。
 
 一度、手合わせをお願いされたが、怖かった俺はすぐに逃げ出した。足ガクガクで手がブルブルよ。 
 そんなビビリチキンの俺にどう戦えと?

 魔王の力を使ったところで経験の差からフルボッコ確定じゃん。それに人族で言う剣聖の域を超えてるって冗談じゃない。勝てる気がしない、それ以前に俺の肉体、精神の両方が死ぬわ!

「聞いているのか、この腑抜けめ」

 腑抜けだの、陰では雑魚だの、こいつはほんとに言いたい放題だ。
 だが少し卑怯な手ではあるが、ある方法を使えば最強の戦士ビレネであろうと静かになる。

「おーい、姉ちゃん聞こえてる?」
「う~ん? なになに?」
「今すぐ謁見の間に来て」

 念話で姉ちゃんを呼び出した。

「はぁ……ネオ君どうしたの? ケガしたの? それともお姉ちゃんと励むの?」
「何を励むんだよ!!」
「それは……もう~やだやだ。お姉ちゃんの口から言わせる気」

 いつにも増してデレデレ姉ちゃんの登場だ。
 それによって謁見の間はもうドス黒いオーラが漂い始めた。殺伐とした空気、それを醸し出しているのが、そう姉ちゃんなのだ。

 それを感じてか、ビレネはすぐに跪いた。
 でも姉ちゃんは知っている。さっきまでの俺に対する態度を。
 だからこそこんなドス黒いオーラが漏れ出ているのだ。

「これはリリス様。お久しぶりでございます」
「楽な姿勢で構わないわよ」

 姉ちゃんはふらふら~と宙を浮遊している。
 いい加減降りてきて欲しい、そんでもって俺の隣に来て欲しいところだが……まあ、でも今回はいっか。突然呼び出したのもこっちだし。

「進言いたします。リリス様が魔王――」
「ええ、あなたが言いたいこともわかるわよ。えっと……君の名前は…………誰だったっけ?」
「我の名はビレネでございます」

 うわ、姉ちゃん最低だ。
 配下の名前すら覚えてないとか、もうこの国崩壊寸前だったんじゃないか?
 いやでも、学園長が今まで魔王代理だったし問題はなかったのか。

「でしたら、なぜ? 我には到底この者が魔王の器であることが理解できません」
「そうなの、で?」
「で、と言われましても……」
「お姉ちゃんが認めたからいいのよ。四天王如きにとやかく言われる筋合いはないんだけど」
「しかし魔王の名に相応しいのは、決してこの人族ではなく、リリス様であって――」

 ビレネは間違いなく地雷を踏んだな。
 姉ちゃんは一見おおらかそうに見えて、実際はかなりの頑固者だ。それに最近は俺への愛情が強すぎて、部屋にまで忍び込んで来る、悪い意味で覚醒しているのだ。

 そんなヤンデレ化してる人に否定的な言葉を言ってみろ。
 何をされるか……考えるだけで恐ろしい。

「ねぇ、ネオ君のことバカにしてる?」

 気づけば姉ちゃんの姿はビレネの背後にあった。
 この速さには正直驚きだ。
 姉ちゃんは誰よりも強いっていうのは理解してたつもりだ。でも、まさかここまでの力量を見せられるとは……やっぱ俺、めっちゃ弱いかもしれない。

「不例をお詫びいたします。決してネオ様を愚弄するつもりは――」
「ネオ様じゃないよね。魔王様じゃなかったっけ?」
「失礼しました……」
「次はないからね。これはお姉ちゃんからの最後の忠告だからね!!」

 姉ちゃんが声を荒げると、今まで姿を隠していた四天王がこぞって姿を見せた。透明化の魔法かなんかを使ってコソコソしてたようだ。
 盗み聞きとはけしからん奴らめ。

「で、姉ちゃん他の四天王の名前は?」
「もちろん配下の名前くらいお姉ちゃんだって……」
「じゃあ……言ってみて」
「え!?」

 やっぱり今の反応からして覚えてすらないようだ。

「あ! ネオ君そろそろ講義の時間!」
「マジか!? て、話そらすなよ」
「でも、本当に時間が……」
「はぁ……わかったよ」

 俺は四天王の前で姉ちゃんと手を握った。

「四天王諸君、俺が留守の間魔国を任せたぞ」

 ちょっと魔王っぽくは言ってみたけど、これ結構恥ずかしいかもしれない。

「お姉ちゃんね、ネオ君の言うことを聞けない子はお仕置きしないといけないの。だから、わかるよね」

 ビレネ含めた四天王全員が思わず苦笑い。
 どうも納得いかない様子だ。
 それを最後に俺と姉ちゃんは屋敷に転移した。

 しかし四天王にここまで反感持たれては、これから先とてつもなく不安になる。

――――――――
本日から2章が始まりました!
以前にも書いた通り2章はネオ自身がさまざまな分野で地位を固める話となります。
引き続きリリスとの掛け合いや新キャラが登場しますので、楽しんでいただけたらと思います。

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