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断章 悪魔の誕生

5話 魔国の状況

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 リリーはリリスとの約束を果たすため、まずは魔国が存在したとされる場所まで向かった。
 空を飛べるようになり、目的地に着くまでそう時間は掛からない。

 そして、しばらく飛び続けると、

「あれ、でしょうか?」

 目にしたのは、ジーレアス帝国の何倍も広い領地だった。その中心に構えるのが、恐らくリリスが住居としていた根城に違いない。
 その根城の周囲には石で積み上げられた壁が設置され、誰一人として侵入者を許さない設計だ。

 そして、壁の外には居住区。
 魔国民が住居を置く場所だ。大通りはもちろん路地までもが露店や構える店などで賑わっている。

 しかしここでリリーは二つほど疑問に思った。

 まず一つ目は、これほどまでに発展した国がなぜ弱小国家と言われているのだろうか。

 二つ目は、リリスはなぜ少数精鋭、おまけに一国の王でありながらもジーレアス帝国に侵攻したのか。

 それら二つの疑問がリリーを困惑させる。

 リリスが平和を望んでいた、人族と魔族の差別を失くそうと本当に考えていたのならば、自らジーレアス帝国に向かったのには納得もできる。
 だとするならジーレアス帝国の見解はおかしい。魔王軍は領土拡大のため侵攻した、この主張は紛れもなく嘘になる。

 その証拠として、こんなにも民がいて戦力も整っている。

 リリーの頭の中はぐちゃぐちゃになっていた。

 勇者と呼ばれる英雄は人族絶対主義を貫く道具だったのだ。

 今、色々と考えては埒が明かない。

 そう思ったリリーは早速魔国に足を踏み入れることにした。すると、リリーの姿を見るに皆が跪いた。これが魔族の中でも王という絶対的存在だったのだ。
 そのまま大通りを進み続けると、リリーの前に一台の馬車が停まった。そこから現れたのはセリーヌという悪魔の一人だった。

「あなたが……新たな魔王かしら? 魔王様と人族の匂いが混じっている……そう、そういうことなのね。あの、魔王様が……」
「私の元の名はリリースワラ。今はリリスという名を継ぎました」
「魔王様が人族に魔族の運命を委ねる、あなたに共感するところでもあったのでしょうね」
「私にはイマイチ。ですが、意思は継ぐと約束してこの力を得ました。何年掛かろうとも必ず、この世界を差別のない平和な世界に。」
「ふふっ、いいでしょう。しかし民はわたくしのように寛大ではないわ。それなりの証明、所謂信頼の証を見せてもらいましょう」

 それが後に語り継がれる大災厄。
 【第二次魔帝交戦】の始まりとなった。

 それはあまりにも残酷で平和とは、あまりにも掛け離れていた。しかしこのような忌まわしき出来事があったからこそ人族と魔族の緊張が長年に渡り続き、お互いに手を出せずにいたのだ。

 ここから語られるのは、リリスの名を継いだリリーの決断と魔族の運命である。
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