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断章 悪魔の誕生
2話 女勇者の末路
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神妙な面持ちで皇帝に告げた女勇者は明らかに他の勇者とは雰囲気といい、態度といい違った。
まるでこの場にいる全員を見下しているのだ。
「儂らが招いた結末、だと……き、貴様、名を名乗れ!!」
「私の名前はリリー・スワラです。この場にいる転移者の方々と一緒ですが」
「は、貴様が勇者とはな。女風情に何ができる?」
「どうやらこの世界は男尊女卑のようですね。さて、同じく転移者の皆様はいかが思いますか?」
リリーはそう皆に投げ掛けた。
しかし帰ってきた答えは至極当然の答えだった。
この場にいるのは男性ばかり、そればかりか女性はリリー以外誰もいなかったのだ。
「おい女、俺たちは勇者なんだぜ! この世界で好き勝手しようが関係ねぇだろ?」
自分勝手な発言をしているのは、日本から来たという高校生――ケント・アマサキ。普段から身体作りをしているのか、両腕の筋肉は発達している。
使用武器は槍、固有スキルなどは不明だが、この中では圧倒的強者と言えるだろう。
「確かに僕達には関係ありませんね。やっと親からも解放されて好き勝手できるんです。楽しみましょうよ」
メガネを掛けたこの少年は少し大人っぽい。
いかにも頭が良さそうな雰囲気を醸し出しているが、実際のところはよくわからないままだ。
名前はソラ・タカダ。
恐らく彼も日本人なのだろう。
使用武器は弓、こちらも固有スキルは不明だ。
「ふん、つまらん。所詮、魔王といってもオレたちには敵わなかった。報酬は弾めよ、皇帝さん」
何事にもあまり興味がなさそうな男は手を組んで柱にもたれ掛かっている。眼帯をしているのが特徴的だが、前世での影響だろう。
そんな彼の名はユウジ・カンガサキ。
使用武器は刀、固有スキルは同じく不明。
よって勇者はリリーを合わせて4人召喚されたわけだ。だが、そんな3人を見てもリリーは決して怯えることはなかった。
リリーは気の強い男勝りの女性だからだ。
「で、勇者リリー。貴様はこの帝国のあり方を否定――」
「ええ、もちろん。私は知っていますよ。一見、安心安全な場所だと語っていたとしても、この城の地下には何10人もの人が拷問を受けています。それにすべてが女性。これは一体どういうおつもりで?」
「ぐぬぬっ……」
「やはりでしたか。噂で耳にしたので鎌を掛けてみたのですが、こうも上手くいくとは思いませんでした」
「報酬は十分出す。だから勇者諸君、その女を捕らえて殺せ!」
空気がピリピリし始めた。
リリーは直感でわかっていたのだ。この場にいる他の勇者3人同時に相手にするのは明らかに無理があることを。力の差はもちろんどんなスキルを使ってくるのかもわからない相手に対処の仕様がないことを。
だとするならば――――。
「私は失礼します」
リリーはその俊足を活かして、城から逃げ出した。分が悪い時は無理せず、逃げ出すのが一番だと幼い頃から両親にさんざん聞かされていた。
ここで捕らえられてしまっては、自分の正義感がどうこうって話すらも叶わなくなる。
そんな決断だった。
しかし帝国を脱出すると、そこはユウジと魔王が戦いに明け暮れていた崖の側だった。いや、戦いのさなか大きな大地変動が起き、覗いても底が見えない崖ができた、というのが正しいのかもしれない。
「このままでは追手が……」
リリーの先には逃げ道などはない。
方法があるとすれば、この深い崖を飛び越えることぐらいだろう。
「助走をつければ……なんとか」
少し後ろに下がる。
走る体勢を整えたその時だった。
背中からズキッとした痛みを感じたのは。
そしてリリーは何をされたのかすら理解できないまま、足を滑らし崖の底へと落ちていったのだ。
まるでこの場にいる全員を見下しているのだ。
「儂らが招いた結末、だと……き、貴様、名を名乗れ!!」
「私の名前はリリー・スワラです。この場にいる転移者の方々と一緒ですが」
「は、貴様が勇者とはな。女風情に何ができる?」
「どうやらこの世界は男尊女卑のようですね。さて、同じく転移者の皆様はいかが思いますか?」
リリーはそう皆に投げ掛けた。
しかし帰ってきた答えは至極当然の答えだった。
この場にいるのは男性ばかり、そればかりか女性はリリー以外誰もいなかったのだ。
「おい女、俺たちは勇者なんだぜ! この世界で好き勝手しようが関係ねぇだろ?」
自分勝手な発言をしているのは、日本から来たという高校生――ケント・アマサキ。普段から身体作りをしているのか、両腕の筋肉は発達している。
使用武器は槍、固有スキルなどは不明だが、この中では圧倒的強者と言えるだろう。
「確かに僕達には関係ありませんね。やっと親からも解放されて好き勝手できるんです。楽しみましょうよ」
メガネを掛けたこの少年は少し大人っぽい。
いかにも頭が良さそうな雰囲気を醸し出しているが、実際のところはよくわからないままだ。
名前はソラ・タカダ。
恐らく彼も日本人なのだろう。
使用武器は弓、こちらも固有スキルは不明だ。
「ふん、つまらん。所詮、魔王といってもオレたちには敵わなかった。報酬は弾めよ、皇帝さん」
何事にもあまり興味がなさそうな男は手を組んで柱にもたれ掛かっている。眼帯をしているのが特徴的だが、前世での影響だろう。
そんな彼の名はユウジ・カンガサキ。
使用武器は刀、固有スキルは同じく不明。
よって勇者はリリーを合わせて4人召喚されたわけだ。だが、そんな3人を見てもリリーは決して怯えることはなかった。
リリーは気の強い男勝りの女性だからだ。
「で、勇者リリー。貴様はこの帝国のあり方を否定――」
「ええ、もちろん。私は知っていますよ。一見、安心安全な場所だと語っていたとしても、この城の地下には何10人もの人が拷問を受けています。それにすべてが女性。これは一体どういうおつもりで?」
「ぐぬぬっ……」
「やはりでしたか。噂で耳にしたので鎌を掛けてみたのですが、こうも上手くいくとは思いませんでした」
「報酬は十分出す。だから勇者諸君、その女を捕らえて殺せ!」
空気がピリピリし始めた。
リリーは直感でわかっていたのだ。この場にいる他の勇者3人同時に相手にするのは明らかに無理があることを。力の差はもちろんどんなスキルを使ってくるのかもわからない相手に対処の仕様がないことを。
だとするならば――――。
「私は失礼します」
リリーはその俊足を活かして、城から逃げ出した。分が悪い時は無理せず、逃げ出すのが一番だと幼い頃から両親にさんざん聞かされていた。
ここで捕らえられてしまっては、自分の正義感がどうこうって話すらも叶わなくなる。
そんな決断だった。
しかし帝国を脱出すると、そこはユウジと魔王が戦いに明け暮れていた崖の側だった。いや、戦いのさなか大きな大地変動が起き、覗いても底が見えない崖ができた、というのが正しいのかもしれない。
「このままでは追手が……」
リリーの先には逃げ道などはない。
方法があるとすれば、この深い崖を飛び越えることぐらいだろう。
「助走をつければ……なんとか」
少し後ろに下がる。
走る体勢を整えたその時だった。
背中からズキッとした痛みを感じたのは。
そしてリリーは何をされたのかすら理解できないまま、足を滑らし崖の底へと落ちていったのだ。
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