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5.夜会で再会

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「ベアトリーチェ。貴様のような悪逆な女を、妻に迎えることなど出来ない」

 はっと気がつくと、ルーベンス殿下が憎々し気に私を睨みつけていた。

(ここは?)

 きょときょとと辺りを見回す。

 着飾った人々。王宮の広間。

(ここは、あの時の夜会)

「っつ!」

(セストはどうなったの? そうだ、魔女は──?!)

 見ると、ルーベンス殿下の腕に顔を隠し、伏し目がちにこちらの様子をうかがっているニコレ嬢。
 繊細な伯爵令嬢の演技中、の、ように見える。

 つまり丸ごと巻き戻ったということだろうか。

(よりにもよって、こんな場面に! もっとたくさん、時間が戻れば良かったのに!)

 そうすれば、ルーベンス殿下との婚約自体なかったことに。
 いえ、アルジェント国の建国さえ阻めるくらい前なら、魔女を阻止することだって──。

(セスト。セストは?!)

 今の私は、ルーベンス殿下や夜会どころではなかった。

 古城で別れたセストの姿が忘れられない。

 砂がかかった瞬間に、セストが私を見た眼差しが切なくて。
 金色の虹彩が、蜜のように私の心を絡めとった。

 百年間の情愛が、瞳を通じて伝わった。

(私はセストが、好きだったのだわ)

 今はもう、確信していた。 

 セストとは互いに慕い合っていた。だからオーロが滅びる日、彼は私を逃がそうと魔獣の力を得て、人の姿を失った。
 私の、ために。

(すぐにセストに、会いに行きたい!!)

 古城に行けば、彼に会える? まだ彼は無事? なら、こんな時間はもったいない。


「公爵家との婚約は破棄だ!」

 ルーベンス殿下が声高に宣言する。
 シンと静まりかえる広間をよそに、私は口早に応じた。

「婚約破棄ですね? 承知しました。お受けします!」

「……は?」

「では仔細は後日ということで、私は退席させていただいてよろしいでしょうか?」

 ルーベンス殿下とニコレ嬢があっけにとられたように目を丸くしているが、そんなことはどうでもいい。
 私は古城に戻るため、走り出す勢いでドレスの裾を摘み上げた。

 と、ひとつの声が騒ぎを遮る。

「突然申し訳ないが! ベアトリーチェ嬢の先約が消えたなら、ぜひ彼女に婚約の申し込みをさせていただきたい」

(はいィィ??)

 前回はなかった展開に驚いて声のほうを見ると、貴族たちの中から長身の青年が歩み出て来る。

 壮麗な身なりの美形。落ち着いた雰囲気が好ましい。
 アルジェント王室より何段も上質な絹と宝石で仕立てた礼装を着こなしている貴公子は、この国の貴族ではない。

(? 誰?)

 外国からのお客様?

 いぶかる私をよそに、ルーベンス殿下が慌てている。

「これは……、ディアマンテの王陛下……!」

(大国ディアマンテの王って)

 アルジェント国を囲みこむように成る大国から、賓客まで招いていたらしい。

 正直、こんな小さな夜会に参席されるような立場の相手ではないはずなのに、来てた?

(えっ、あれ? でも前回の婚約破棄の場には、いらしてなかったような)

 目をしばたたく私に、優雅な足取りでディアマンテの王が並び立つ。

「私はかねてよりベアトリーチェ・パルヴィス公爵令嬢に惹かれていました。けれど貴国の王子妃になる方ゆえ、思いを告げることなく諦めていた。その婚約がなくなったのなら、私が彼女に申し込んでも何ら問題はないはず」

「いやっ、あの、しかし、ベアトリーチェは」

 当惑した様子のルーベンス殿下。
 私にもわけがわからない。

「あの……?」

 小さな声で見上げたら、初めて会ったはずのディアマンテの王にウィンクされた。
 そのままひそりと耳打ちされる。
「姫殿下、再びまみえて光栄です」

(! 私を"姫殿下"と呼ぶ、彼は)

 茶目っ気たっぷりな金色の目。それにこの口調。

「まさか、セスト?!?」
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