132 / 244
第129話 沙也加
しおりを挟む城東さんを席に座らせ、ビールをジョッキでもう一杯頼む。
「ふぅぅぅ、まずは、詳しい話を聞かせて貰っても良いですか?どんな理由でお金を借りたいのか分からないと、俺も判断が出来ないんで。」
「・・・そうだな。何処から話せば良いのか。」
ビールで軽く口を潤した後、今回の経緯を話してくれた。
まず、城東さんには、沙也加さんと言う妹が一人居るらしく、現在は会社近くの病院に入院中で、今日も会いに行っていたようだ。多分、ほぼ毎日出掛けているのは、妹さんに会いに行っていたのだろう。
「大腸癌・・・。進行状態は?」
「幸いなことに、レベル1。初期症状が現れ始めたくらいだ。」
どうやら、手遅れになるような事態にはならなそうだが、問題はここからだった。
数年前まで俺と同じようにアルバイトを転々としたり、個人勢Vtuberとして活動したり、色々な方法で生活費を得て生活していた城東さん。そのような不安定な仕事で稼げる額は、良くて一人分の生活費。それを、城東さんの場合、妹さんの分まで稼ぎ二人で生活していたらしい。普通に凄いと思う。
ただ、ここで疑問に思ったのは、城東さんの年齢は大体22か23、余程、歳が離れていないのなら、沙也加さんの年齢は16~21ぐらいだと考えられる。だとしたら、城東さん一人に家計を任せなければならない程の、問題を抱えていると考えて良いのだろうか?もし、何か問題を抱えているのなら、誰か家族に頼ることは出来ないのか?
などなど色々と考えてみたが、『既に親族が亡くなって頼る人が居ない』とか言われたら反応に困るし、他の家族の問題に首を突っ込んで良いのか分からない部分もある。
そんな風に、次の言葉を言い出せずにいた俺の気を使ったのか、俺が質問しづらかった話までしてくれた。
「ちなみに、親父は俺が3歳の頃、母さんは17歳の頃に死んだよ。親父はまだしも、母さんには迷惑ばかり掛けたなぁ。あの頃は他に頼れる親族も居なくて、沙也加を何とか支える為に仕事を探し回ってたよ!自業自得だよ本当。」
そう言いながら、日本酒を飲むその目には、悲しさと後悔が渦巻いているよな気がした。
しんみりとした空気のまま話が進まないのは、俺も困る為、本題に入ることにした。俺もそろそろ、酔いが回って来そうだ。
「それで、妹さんの入院費とか手術費用が足りなくて、俺に頼んで来た感じですか?」
「いや、手術費用等は何とか間に合ったんだが、生活費が足りなくなってしまってな?俺は別に残飯でも何でも食べて過ごせば良いんだが、妹の衣服や生活必需品は揃えてやりたいからよ。特に、最近は沙也加の方も上手くいってるらしいからな・・・。」
何故この人は、沙也加さんの名前を出す時に、後悔しているような顔をするのだろう。そう感じた俺は、心の疑問を思わず聞いてしまっていた。
「さっきから気になったんですけど、妹さんとの間で何か事件でもあったんですか?」
喧嘩 城東。
ブラックハッカーからの流出情報で、暴行、窃盗などの経歴が明らかになり、炎上したことは知っている。だからこそ、その事にも何か関連しているのではないかと、俺は無意識の中で、感じ取っていた。
一瞬、城東さんから、殺気のようなものを感じ鳥肌が立ったが、深呼吸の後、自分の過去について話し出した。
「・・・・・・・・沙也加は・・・・・・両足を失ってしまったんだ。・・・・・・・俺のせいでな・・・・。」
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
Vママ! ~中の人がお母さんでも推してくれる?~
ウメ
青春
「こんマリ~! メタライブ0期生、天母(あまも)マリアですぅ」
個性豊かなVTuberを抱える国内最大の運営会社メタライブ。マリアはそれを発足時から支える超有名VTuberだ。
そんな彼女の大ファンである秋山翔は、子離れできない母を煙たがる思春期の高校一年生だった。
しかし翔はある日、在宅ワークをする母の仕事部屋を覗き、マリアとして配信する姿を目撃してしまう。推しの中の人は、自分のウザい母だったのだ!
ショック死しそうになる翔。だが推しを好きな気持ちは変わらず、陰から母(推し)をサポートすることに。そんな事情を知らず、母はお風呂配信やお泊り配信の仕事を約束してしまい……
――中の人が母だと知った息子を中心に織りなす、VTuber母子コメディ開幕!
(※本作は【切り抜き】がきっかけで物語が進みます。また、第1話はキャラ紹介が中心になっています)
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
祭囃子を追いかけて
壺の蓋政五郎
大衆娯楽
鎌倉の小さな町に四百年続く例大祭がある。戦時中の一時期には中断されたが町の復興と共に再開されずっと続けられている。その小さな町に生まれ育った子ども等は必然的にこれを継いで行かなければならない。選択肢はなく消防と氏子という親達の繋いできたやりかたでこの町を守り繋いでいく使命がある。北川賢治もその一人である。しかし大事な時期に酔っ払い運転を二度続け半年の実刑となった。北川家は今年の例大祭の当番である。これだけはきっちりとやりきらなければならない。お祭りに掛ける男達とそれを支える女達、そして祭の主役に憧れる子供たちが祭囃子を追いかける。笑いと涙の物語です。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
切り抜き師の俺、同じクラスに推しのVtuberがいる
星宮 嶺
青春
冴木陽斗はVtuberの星野ソラを推している。
陽斗は星野ソラを広めるために切り抜き師になり応援をしていくがその本人は同じクラスにいた。
まさか同じクラスにいるとは思いもせず星野ソラへの思いを語る陽斗。
陽斗が話をしているのを聞いてしまい、クラスメイトが切り抜きをしてくれていると知り、嬉しさと恥ずかしさの狭間でバレないように活動する大森美優紀(星野ソラ)の物語
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる