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第95話 楽しみが出来ること

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午前9時
 遅めの朝食を伸二さんと食べていると、新聞から顔を上げた伸二さんに話しかけられた。

 「俊隆、なんだか眠そうだな?もしかして、ベッドが合わなかったか?まぁ、久しぶりにちゃんとしたベッドで寝たんだからしょうがないか!」

 「いや、単純に夜更かししたんですよ。OOさんじって言うVTuber企業の動画が結構面白くて。」

 「・・・・にじさんじって確か、今上場中の会社じゃなかったか?いちOOって名前だっけか?まぁ、面白かったんなら良かったよ!」

 今日はこの後、民事裁判関係で頼りになる人物が居ると言うので、そこに向かうらしい。特に用事が無ければ、ドラフト会議で七人全員から指名を受けたと言う、和葉と言う人の動画を観たかったんだがな。

 「それじゃあ、30分後ぐらいに出掛けるから準備しといてな!」

 そう言って伸二さんは、台所に食器を置いた後、自室に向かった。

 「30分後か、あんまりゆっくりしてる暇は無いな。取り敢えず、食器を洗わないと。」



午後1時
 約1時間掛けて向かった弁護士事務所では、一切の成果を得られなかった。
 何故なら、今回伸二さんが頼った弁護士の久和田と言う男が、突然『今回の件はお断りする!!お願いだから早く帰ってくれ!!』と、一方的に追い返されてしまった為だ。
 これには伸二さんも、困惑の感情が半分、約束を破られたことに対する憤慨の気持ちが半分といったところだろう。顔にも出ていたしな。
 裏切られたような気持ちのまま帰ろうとした時、何処から沸いたのか分からない報道陣が押し掛けて来たせいで、まっすぐ家に帰ることも出来ず、ストレスが溜まる一方だった。

 「散々な目にあったな!!俺の勘だが、久和田も誰かから圧力を受けているのかもしれないな。一体誰が・・・。取り敢えず、今日はこれで終わりだから、これ持って部屋に戻ってても良いぞ!」

 牛丼が入ったビニール袋を渡しながらそう言われた為、言われた通り部屋に戻る。

 「あー、疲れた。最近余計な疲れを感じるようになったな。18歳がピークって話は本当だったのかも。」

 軽く体を伸ばしながら椅子に座り、近くに置いてあったタブレット端末を手元に引き寄せ電源を付ける。

 「えーと、和葉和葉、これかな?先に切り抜きの方からチェックするか。」

 牛丼をビニール袋から出して、紅ショウガの子袋から紅ショウガを取り出し、牛丼の蓋に乗せる。牛丼を食べる時、紅しょうがは別皿に出して置いて、ちょこちょこと摘まみながら牛丼を食べるのが、俺のスタイルだ。他の人から見ると、変かもしれないけどな。


(伸二視点)

 リビングのソファーに座りながら、これからの打開策を考える。先程、久保田からメールが届き、『本当にすまん!!こうでもしないと、裁判の時に不利な証言をしなければいけなかったんだ!!本当に申し訳ない!!』と書かれていた。まぁ、あの行動は、あいつなりの親切だったんだろうな。
 それよりも、朝起きた時はびっくりしたぜ。
 いつからか分からないが、俊隆の感情の起伏が、ほとんど無くなっていることに気付いた。笑うことは少なくなったし、基本的に俺以外の奴と話す時は、目を伏せていたり、目を合わせないことがほとんどだった。それが、今日の俊隆は、若干ではあるものの生き生きしていたような気がする。おそらく、OOさんじと言う楽しみを見つけたことが原因なのは、簡単に推測可能だ。
 今の俊隆に必要なのは、癒しだ。それも、動物や音楽と言った抽象的な物ではなく、人柄が分かりやすい人が良いだろう。その点で言えば、VTuberと言う表裏が分かりやすい人は大事だろう。今の時代、配信者の裏事情と言うのは、簡単に炙り出される世の中だから、さらに安心だ。

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