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夏休み

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    いよいよ夏休みだ。ここから一番近い港は、隣国トレナットの王都にもなっていて、海岸近くの小島には、ダンジョンもあるそうだ。

    そのせいもあってか、王都に入るだけでもひと苦労だ。
「ダンジョンがある王都なんて、凄いね!」
「ふふっ。主の好みを考えたら、ここしかないと思った」
「ヤブラン、メイだよ?」
「…!あ」
    そしてヤブランは中性的ではあるけど、大人の男の見た目。
     まあ、誰も聞いてないと思うけどね。

(中に入れたら、まずは買い物したいな)
(王都なら、品物も充実しているかもしれないな)
    そう。それが狙いだったりする。海産物は勿論だけど国が違えば売ってる品物も違うだろうし、何か珍しい物もあるかも。

    やっと順番が来て、ギルドカードの提示と水晶に触れるだけで門をくぐる。
    ここは東京か?と思うほど人がいる。…まあ、東京に行った事なんて数回しかなかったけど。
    瞬間、頭上でランスとヤブランの静かな争いがあった。

「俺の方が抱き慣れているし、もふもふの耳も触れる」
「危険察知なら負けない」
    は?何の争いかと思えば、お子様抱っこをどっちがするかって事?

「いやさ、ならシュガーも抱っこしてあげたら?」
「要らないにゃ」
「私も一人で…」
「「却下!」」
    …そうですか。でも私がどこに行こうと二人には分かるはずだ。パスが繋がっているんだから。

「じゃんけんで決めたらいいにゃ?じゃなければ、にゃーが抱っこするにゃ!」
    いやいや。絵面的にそれはちょっと…
「じゃんけんね?ただし、それでも交替して、仲良くね!」
    二人で高速じゃんけん。どっちも動体視力はいいからね。

    でも、気になる店を見つける度に降ろして交替してたから、二人共疲れたと思う。
「やった!海苔発見!」
    少々穴あきだけど、韓国海苔みたいで食感が面白いだろう。それにこれでおにぎりが食べられる。

    ワカメもどこのお店でも安い。でもこれだけ安いって事は、ダンジョンの浅い階層で採れるのかもしれない。

「ダンジョンの情報は調べなくて良いのか?」
「分からない方がいいって事もあるじゃん?」
    ゲームだって、攻略本をじっくり眺めてやるのは2週目以降だ。最初はやっぱりワクワクしながらやる方がいいよね。

    スマホ農園も、かなりやり込んだゲームだったから、全く同じじゃない所が逆にいい。
    でも、農業体験のゲーム感は抜けない。草むしりや肥料、害虫や連作障害、ありがちな心配は全く必要ないからね。
    そのお陰で一人でもなんとかやっていけてるけど、全てを一人で毎日やるのは無理だ。

    釣りは嫌いじゃないけど、海に潜って直接狩った方が効率的だし、カニとか釣れないのも手に入る。カニ重要。
    でも、泳いで行く訳だからそんなに遠くまでは行けないし、全ての魚が手に入るとは思えない。

    この金魚みたいな魚は食べられるのかな?

    鑑定    赤金魚    甘味のある魚で、煮付けにすると美味

    うわ…本当に金魚なんだ。そう考えると食欲なくすけど、美味しいなら挑戦してみたいな。

    鑑定    青金魚    淡白な味で、身は柔らかい

    おおう…熱帯魚みたいに派手な魚だな…微妙なネーミングだけど。

「お嬢さん、買ってくれるのは嬉しいが、腐らないうちに食べてくれよ?空納に仕舞い忘れたら大変な事になるからな」
「…え?普通その前に空間把握を覚えるんじゃ?」
「いや、俺は魔法の事は分からないが、そんな話を聞いたからな」

    収納系の魔法を覚えたら絶対覚えるって訳でもないのか。ネリーの教え方が上手なんだな。
    よく小説だとリストが見えたりするけど、ここではそういうのは無いからな…

    空納は、時間も経過するから食べ物を入れるなら収納庫だよね。

    いつもの事ながら、食べ物屋さんばかり廻ってしまう。

    じゃあ、海苔も?
    海岸の方に行ってみたら、海苔は養殖しているみたいだ。
    
「明日からダンジョンに入るのだろう?今日は休んだ方がいい」
 「その前にご飯ね!」
    きっと美味しい海鮮料理が食べられるだろう。
    みんな少しずつ頼んだつもりだったけど、一つの量が多い。ホタテなんて顔位の大きさがあって驚いた。
    残念なのは、塩のみの味付けだった事。それでも美味しかったけど、やっぱりバター醤油で食べたいよね。

「結構余ったけど…」
「問題ない」
    大食いの人は痩せてる人が多かったな…こっちの世界にも大食い大会なんてあったら、ヤブランが優勝間違いなしだね。

    亜空間に戻ってフレイムにもご飯をあげた。
「フレイムを連れて歩いたら目立つよね」
「止めておいた方が無難だな」
(ボクはいいよ。ボクのせいでメイに迷惑はかけられないのー)
「私がフレイムを連れていても周囲にどうこう言わせない位強くなって、ランクも上げればいいのかな?」
(ボクが進化して、人の姿になれればいいと思うのー…でも、どうすれば進化するのか分からないの…でも、気にしないで!いつものダンジョンで、人がいない時はメイが欲しい物を手に入れられるの!)

    いい子だな…フレイムは。我慢させちゃっているのに。
    指先で撫でてやると、嬉しそうに頭をすり寄せてくる。
    順番待ちしてるにゃんこシュガーとわんこランスも撫でてやると、ヤブランは面白くなさそうに寝床に横になる。

「ふっふっふ。この特製の柔らかいブラシで磨けば鱗も傷つかずにピカピカになるよ?」
(む…我の鱗には余程の事がない限り傷はつかないが)

    そうなのだ。ただし、身体から抜け落ちた鱗は別。途端に強度が下がり、加工もしやすくなる。
    肌に纏って魔力を流す事で、傷一つつかなくなる。
    普段、こうして寝転んでいる時は別だけど。少しひんやりしてて、触り心地がいい。

    ブラシで最初は頭周辺を撫でてやる。心地いいのか、姿勢を変えて次の場所を要求する。
    こうしてお腹を見せて寝転んでいる姿は、竜の威厳も何もないけどね。
「ヤブラン、明日からは初めて潜るダンジョンだし、期待しているよ?」
(無論だ)

    すっかり機嫌は良くなったみたいだ。
    ドラゴンで強いけど、分体として生まれてまだ数ヶ月だ。まだまだお子様だね。
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