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熱交換の煉瓦

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    それから数日後。商業ギルドから、学校を通して呼び出しがあった。
    何だろう?また鑑定かな…急用じゃなければ、たまに行った時に言ってくれればいいのになぁ。

    商業ギルドにはシュガーを連れて行っても仕方ないので、遊んでいて欲しいとお願いした。
    じゃないと、危険なんてないのに暇させちゃうからね。


「お待ちしていましたよ、メイさん。実はあの雪を溶かす煉瓦の魔道具の件で、領主様がいたく気に入られまして、大々的に主要道路に設置する事になりました。それで、メイさんにもお会いしたいとの事です」
「…はい?」
    最後の一言が意外過ぎる。

「平民の錬金術師に、領主様が会ったりするんですか?」
「それだけ煉瓦の魔道具が気に入られたのでしょう」
「…おじいちゃんの発明でも?」
「ご存命ならお祖父様に会われたでしょうが…それにお孫様とも友人のようですし」
    ソフィーリアさんは関係なくない?それに、煉瓦の魔道具じゃなくて熱交換の魔道具なんだけどな…

「…ええと、着ていく服がありません」
「そのままで結構ですよ。領主様は心の広い方なので、マナーもそれほど気にしなくても良いかと」
    あ、先に言われた。

    貴族って面倒なイメージしかないんだよね…ソフィーリアさんはいい子だけど、ボードはあんなだしね。

「会わないと…だめかな?」
「何に対して躊躇っているか分かりませんが、メイさんにとっても鑑定のお客様ですし」
    それもそうか。…お陰でお金には不自由していない。
    
「分かりました」
「では、今週末に」
    げ。また今週も帰れないのか…

    ソフィーリアさんを見ていて思ったけど、平民の子は全然声をかけない。
    失礼な事をして、町に居づらくなったりするのだろうか?まあ、町に住んでいない私にはあんまり関係ないけど。

    ちょっと胃が痛いな…役に立つ魔道具だと思うからこそ、私が四歳だからいいように利用されるんじゃないかな…まあ、別にそれでもいい。そんなに難しい魔道具じゃないし、製作者はおじいちゃんて事になってるし、製作者の権利とかも要らないから、行かなくていい…って事にはならないよね。

「さあ、行きますわよ?メイさん」
「ふえっ?!い…一緒に?」
「少し位早く行ってもいいじゃありませんの」
「こ…心の準備が」
「…やっぱりにゃーも行くにゃ?」
    私の不安を感じたのだろう。でもシュガーは呼ばれてないから、行ったら怒られるかもだし。

「別にシュガーさんも一緒でもよろしくてよ?でもメイさんはお仕事で呼ばれたのだから、錬金術が出来ないシュガーさんが来てもお祖父様は会って下さらないでしょうね」

「にゃ…エレンと剣の練習してるにゃ」
    話しをしに行くだけだし、大丈夫。うん。

    町中を走っている辻馬車よりはましだけど、下は煉瓦だし、車輪にはタイヤなんて付いてないから、結構揺れる。
「馬車に乗るのは初めて?」
「乗り合い馬車に、一度だけあるけど…クッションがあっても結構揺れるね」

「それでも、何でもない事のように振る舞うのが淑女の嗜みですわ」
    そんな事言っても、辛いのだろう。澄ました表情が固まっている。
「淑女か…平民の私にはあんまり関係ないよね」
「野生児と呼ばれる事が嫌なら、こういう所から改善するべきですわ」
「そっか…ありがとう、ソフィーリアさん」

「わ、私は別に…あなたの為に言った訳では」
    それにしても、見事な二つの縦ロールだ。
    こんな感じのバネを馬車に付けたら、揺れもましになるんじゃないかな…

    非常時には砦にもなる領主の館の外壁は、堅牢な造りだ。
    深淵の森にも近いこの町は、森から出てくる魔物にも対処出来るようになっているのだろう。

    メイドさんが迎えてくれたけど、残念ながらホワイトプリムじゃなくて、ボンネットの中に髪をまとめている。
    ネリーがゴスロリだから、そういうのがあってもいいと思うんだけどな?
「行きますわよ、メイさん」

  ソフィーリアは外に出て行く。庭も見事だ。春の花がたくさん咲いている。
「今日は良い天気ですし、外もいいでしょう」
    ガゼボの中の椅子に座ると、間もなく綺麗なお菓子とお茶をメイドさんが用意してくれた。
「わ…可愛いお菓子だね。ありがとうございます」
    笑顔で頭を下げて下がるメイドさんに、ソフィーリアは無反応だ。

「メイさん、メイド達は仕事でやっているのだから、お礼を言う必要はなくてよ」
    そうかもだけど、メイド喫茶は入った事ないからちょっと緊張して…例の儀式はやったり…しないよね。やっぱり。

    ソフィーリアさんは私にお茶会のマナーを教えてくれるみたいだ。助かる。この後領主様に会うんだから、お行儀良くしないとね。
    相変わらずツンツンしてるけど、やっぱり優しいな。

    領主様は、イケオジだった…じゃなくて、とても有用性のある魔道具なので、国中に広めたい事、ゆくゆくは雪の積もらない地域以外には広まっていく事などを話して、とても褒めてくれた。

    こちらが子供だからと舐めてかかる事もなかったし、正直拍子抜けした。
    私、慎重になりすぎかな?

「安心したようじゃな。商業ギルドを敵に回すようなことはせんよ。それに孫の大切な友達のようだしな」
「えっ…ソフィーリアさんがそんな事を?」

「大概の子供が7~8歳で入ってくる中、リアはまだ5歳じゃ。自分が一番下だというのも面白くなかったんじゃろ」
    じゃあ、私が一番年下だな。私だけだと年齢的に早いけど、シュガーを一人で学校に入れるのも嫌だったから。

    付け焼き刃のマナーだったけど、嫌な顔はされなかったし、ソフィーリアさんに教わったと話すと嬉しそうにしていた。

    美味しい夕食をご馳走になって、学校まで送ると言うのを丁寧に辞退した。シュガーが来ているのが分かったからだ。
「ソフィーリアさん、今日はありがとう」
「リアでいいですわ…親しい者はそう呼びますの。それに、鑑定の事とか、メイさんは本当に凄いのに、もっと誇ってもいいと思いますわ」

「そういうのはちょっと…私は平民だし」
「その割には…いいえ。これからも同じように接してもらえると嬉しいですわ」
「?うん…じゃあまた、学校で」

    路地に入ると、シュガーが待っていた。
「ごめんね?シュガー…みんなの所に行こうか」
    誰の視線もないのを確認して、亜空間に入った。



    
    
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