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私は誰でしょう?

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    ふわふわと優しい魔力の波動。
    
    うっすらと目を開けた私が見たのは、血のように紅い瞳…長い黒髪を鬱陶しそうにかき上げて、私の意識が戻った事に気がつくと、引き結ばれた精悍な口元を緩め、ふっと笑いました。

「こ…こは…」
「無理に喋るな。怪我は治したが、熱もあったし消耗しているだろう」

    もう一人いた青年が、湯気の立ったカップを傍らに置き、スプーンで掬い、中身を飲ませてくれようとしたので、少し口を開く。
「…!熱…苦い、です…」
「ふっ…グレンも気がきかないな。ふーふーして冷ましてやれ」
「嫌ですよ…ですが、苦いのは我慢して下さい、身体が暖まります」

    薬草のスープか…確かに、お腹の中からぽかぽかしてくる。
「あの…ここは、あなたは…」
    見た所、山小屋のようだ。グレンと呼ばれた人は、きっちりとした服を着て、剣も下げているけど、この方は只の作業着のようだ。なのに、グレン様は敬語を使っている。

「その前に一番不思議なのは君だがな。どこかの令嬢?元着てたのはボロボロだけど、ドレスだよな?」
「私…うっ!私は…誰でしょう?」
「は?いや、聞いてるのは俺だけど?」

    壁にかかっているのは、ブルーのドレス…ただし、あちこち切れていて、もう廃棄するしかないだろう。
    今、私が着てるのは簡素なシャツ。

「あの…私、この服は」
「いや、あの場合仕方ないだろう?君は川を流されてきたんだ。それにこの小屋には女性もいないが…どう見ても成人前だし?人助けだ。俺は悪くない」

「はあ…だとしても言い方ってものがあるでしょうに。ジーク様、子供でもレディに対してそれはちょっと」

    私…子供でしょうか?…何かを思い出そうとすると、酷く頭が痛みます。
「それで?名前位は聞いてもいいよな?」
「失礼しました…ですが、何も思い出せなくて…すみません。あの、助けて頂きありがとうございました」

「記憶がない?おいまさか…」
「装っているようには見えませんが。間者の類いにしては随分お粗末ですし」
「確かにな。俺に差し向けるなら、これはない」

    良く分からないですが、そこはかとなく馬鹿にされているような…?
「事故か事件か。少なくとも名前も分からないんじゃな…おい、適当に名前言うから、引っ掛かったら言えよ」

    名前から愛称から、色々と言って下さった。
「あ!…多分、マリーでしょうか?何か懐かしい気がします」
「んー…愛称みたいだけど、まあいいや。いずれ分かるだろう」

「それで、どうするのですか?」
「どうするって…置き去りには出来ないだろう?俺が拾ったんだし、面倒は見てやる」
「ありがとうございます、ジーク様」
    ふらつきながらもカーテシーを…やはり無理がありましたわ。
「いいから寝てろ。動けるようなら、明日には出るからな」

    今は昼間のようです。状況がまだいまいち掴めませんが、取り敢えず命に別状はないようです。

    ジーク様とグレン様は、釣りに出掛けたようです。
    ここには息抜きと趣味を兼ねて来ているそうで、お二人はとても仲が良さそうです。

    夕ご飯にと渡されたのは、魚の串焼き。正直、どうやって食べたらいいか困っていたら、ジーク様が頭からかぶりついた。

    頭はちょっと…グレン様は、背びれを取って背中から食べているようなので、そちらを真似して食べてみました。
    食事自体が久しぶりだったのもあって、とても美味しく頂きましたが、カトラリーの類いはないのでしょうか?
    けれど、こうして食べるとより美味しく感じるのは不思議ですわ。




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