上 下
84 / 88

83話 フレグリッドside

しおりを挟む
きっと、執務室の中の辺境伯たちは、俺がこの話を聞きながら、心の中で父上のことを責め続けているなんて思ってもいないだろうな。

まぁ、辺境の戦いが多い土地にいるにも関わらず、俺が盗み聞きしているのに気付いていない時点で、こいつらは大したことがないんだ。

つまり、父上がここまで必死に引き留めているのも無駄だし、全く意味のないことをしている。

それに気付くことが出来ないなんて、父上もバカだよな。

なんて思っていると、

「な、なら何でも好きな物をやろう。金か?宝石か?それとも兵士か?」

という声が聞こえてきて、反射的に執務室の中を覗いてしまった。

本当は中の様子を見るつもりなんてなかったし、話を聞いてバレないように立ち去ろう、くらいで考えていたんだが、あまりにも必死な父上の声と、そして重たい圧力をかけている辺境伯のことが気になって、のことなんだが....。

別に、何でも好きなものを送る、という話に食いついたわけではないぞ。

なんて思いながらそっと中を覗き込むと、なんと、そこには辺境伯らしき男たちが3人、椅子に座っているんだが、父上は床の上で這いつくばるような形で座っているではないか。

仮にも国の王なのに.....なぜこいつらにここまでして.......。

そう思った俺は、何を思ったのか宰相の方をチラッと見ると、どうやら宰相は俺が話しを聞いていることを知っているようで、俺のことをジッと見つめてきた。

まるで、邪魔をするな、とでも言われているような気分だ。

まぁ、元々邪魔なんてするつもりがなかったが、そうやって視線を向けられると少し思うことがあるというか.....。

なんて思っていると、

「そんなの貰っても何になるんですか?また金食い虫だ、と貴族たちに言われるだけですよ」

辺境伯の中でも一番若い男性が笑いながらそう言うと、父上の方がビクッと大きく揺れたのがわかった。

この言葉.....俺があのパーティーでアリスティアに発した言葉だ。

まさか辺境伯たちは本当にあのパーティーでの発言を全て知っていて、それが原因でこのようなことを?

そう思った俺は、なんだか急に申し訳なくなってきて下を向きながら耳だけ会話に意識を集中させた。

すると、その時辺境伯の中でも一番年上らしき、髭の生えた老人が

「まぁまぁ、だったら1つ儂の我儘を聞いてもらおうかのう」

というと、父上の顔がパァっと明るくなったが、次の言葉でせっかく明るくなった顔が、一気に強張った。

「あのパーティーでアリスティア嬢をバカにしていた子息令嬢を辺境で兵士として送ってもらおうか」

「それは.........」

バカにしていた子息令嬢、ということは俺を含めた奴らということだろう?

い、いやいやいや........辺境に俺たちが行ったところで何になるというんだ。

自分で言うものなんだが、本当に役に立たないだろうし、邪魔になるだけだ。

それに、剣術は別に問題はないが、田舎で暮らさないといけないということだろう?

そんなのは絶対に嫌だ。

そう思った俺は、執務室の外から必死にこの願いが通らないよう祈った。

「なんだ?なんでも儂にくれるんじゃろう?さっきの発言は嘘だったということか?」

「いい我儘ですね。私も同じものを頼んでいいですか?」

「確かにな。こっちも2人と同じく、だ」

という3人の辺境伯から圧をかけられているが、父上ならきっと実の息子を差し出すようなことはしないはずだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生まれたときから今日まで無かったことにしてください。

はゆりか
恋愛
産まれた時からこの国の王太子の婚約者でした。 物心がついた頃から毎日自宅での王妃教育。 週に一回王城にいき社交を学び人脈作り。 当たり前のように生活してしていき気づいた時には私は1人だった。 家族からも婚約者である王太子からも愛されていないわけではない。 でも、わたしがいなくてもなんら変わりのない。 家族の中心は姉だから。 決して虐げられているわけではないけどパーティーに着て行くドレスがなくても誰も気づかれないそんな境遇のわたしが本当の愛を知り溺愛されて行くストーリー。 ………… 処女作品の為、色々問題があるかとおもいますが、温かく見守っていただけたらとおもいます。 本編完結。 番外編数話続きます。 続編(2章) 『婚約破棄されましたが、婚約解消された隣国王太子に恋しました』連載スタートしました。 そちらもよろしくお願いします。

妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。 だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。 しかも新たな婚約者は妹のロゼ。 誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。 だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。 それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。 主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。 婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。 この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。 これに追加して書いていきます。 新しい作品では ①主人公の感情が薄い ②視点変更で読みずらい というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。 見比べて見るのも面白いかも知れません。 ご迷惑をお掛けいたしました

パーティー中に婚約破棄された私ですが、実は国王陛下の娘だったようです〜理不尽に婚約破棄した伯爵令息に陛下の雷が落ちました〜

雪島 由
恋愛
生まれた時から家族も帰る場所もお金も何もかもがない環境で生まれたセラは幸運なことにメイドを務めていた伯爵家の息子と婚約を交わしていた。 だが、貴族が集まるパーティーで高らかに宣言されたのは婚約破棄。 平民ごときでは釣り合わないらしい。 笑い者にされ、生まれた環境を馬鹿にされたセラが言い返そうとした時。パーティー会場に聞こえた声は国王陛下のもの。 何故かその声からは怒りが溢れて出ていた。

婚約者のいる側近と婚約させられた私は悪の聖女と呼ばれています。

鈴木べにこ
恋愛
 幼い頃から一緒に育ってきた婚約者の王子ギルフォードから婚約破棄を言い渡された聖女マリーベル。  突然の出来事に困惑するマリーベルをよそに、王子は自身の代わりに側近である宰相の息子ロイドとマリーベルを王命で強制的に婚約させたと言い出したのであった。  ロイドに愛する婚約者がいるの事を知っていたマリーベルはギルフォードに王命を取り下げるように訴えるが聞いてもらえず・・・。 カクヨム、小説家になろうでも連載中。 ※最初の数話はイジメ表現のようなキツイ描写が出てくるので注意。 初投稿です。 勢いで書いてるので誤字脱字や変な表現が多いし、余裕で気付かないの時があるのでお気軽に教えてくださるとありがたいです٩( 'ω' )و 気分転換もかねて、他の作品と同時連載をしています。 【書庫の幽霊王妃は、貴方を愛することができない。】 という作品も同時に書いているので、この作品が気に入りましたら是非読んでみてください。

『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……

Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。 優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。 そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。 しかしこの時は誰も予想していなかった。 この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを…… アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを…… ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。

これでも全属性持ちのチートですが、兄弟からお前など不要だと言われたので冒険者になります。

りまり
恋愛
私の名前はエルムと言います。 伯爵家の長女なのですが……家はかなり落ちぶれています。 それを私が持ち直すのに頑張り、贅沢できるまでになったのに私はいらないから出て行けと言われたので出ていきます。 でも知りませんよ。 私がいるからこの贅沢ができるんですからね!!!!!!

私のことが大嫌いらしい婚約者に婚約破棄を告げてみた結果。

夢風 月
恋愛
 カルディア王国公爵家令嬢シャルロットには7歳の時から婚約者がいたが、何故かその相手である第二王子から酷く嫌われていた。  顔を合わせれば睨まれ、嫌味を言われ、周囲の貴族達からは哀れみの目を向けられる日々。  我慢の限界を迎えたシャルロットは、両親と国王を脅……説得して、自分たちの婚約を解消させた。  そしてパーティーにて、いつものように冷たい態度をとる婚約者にこう言い放つ。 「私と殿下の婚約は解消されました。今までありがとうございました!」  そうして笑顔でパーティー会場を後にしたシャルロットだったが……次の日から何故か婚約を解消したはずのキースが家に押しかけてくるようになった。 「なんで今更元婚約者の私に会いに来るんですか!?」 「……好きだからだ」 「……はい?」  いろんな意味でたくましい公爵令嬢と、不器用すぎる王子との恋物語──。 ※タグをよくご確認ください※

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

処理中です...