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302話
しおりを挟む不安を抱えながら家に到着した私は、一番最初に目に入ってきたその光景に思わず言葉失ってしまいましたわ。
だって馬車がお屋敷の中に入る前に止まったので何事か、と思って外を見ると、門の前に数台の荷馬車が止まっていたんですもの。
しかもただ荷台があるだけだったらまだしも、
「そっちの荷物は玄関の方に置いて欲しいそうだ」
「それは割れ物だから気を付けて」
「おい!それは最後に荷台から降ろすように言ったはずだろう!」
そんなやり取りがお屋敷の前で繰り広げられていましたわ。
......何が起こっているのか理解するのに少し時間がかかってしまいましたが、今私の目の前では大きな荷台に大量に積んである荷物をお屋敷の中に次々と運び込まれている、という異様な光景が広がっています。
当然ですが、私が荷物を運ぶように言った記憶もありませんし、こんなに大量の荷物どこから持ってきたのかもわかりませんわ。
まぁ......誰が頼んだのか、は想像がつくのでそれに関しては問題ありませんが......とりあえず、どうにかしてこの作業を止めないと。
そう思いながらも、どの人がこの作業の責任者なのかわからない私はただただ呆然と立ち尽くすような状況になってしまいましたわ。
流石にユーリもこの異様な光景を見て、言葉を失っていましたが、少しの間の後にハッと我に返ったようで
「お、お嬢様......」
と心配そうな顔をしながら、私と同様にこれをどうするべきか、と悩んでいるみたいですわ。
うーん.......今すぐに手を止めなさい!と言っても、私は依頼主ではありませんし、そう簡単に止まってくれませんわよね。
とはいえ、この家は私の家ですし、勝手なことをするのは許せません。
お父様達との思い出も詰まっていますし、この家で雇っているメイド達にも迷惑をかけてしまうことになってしまいますからね。
とりあえず、責任者を探すよりもこれを依頼した人を探すのが一番早いと思うんですが.......。
そう思いながら辺りを見渡してみますが、ここが門の前だということもあって、依頼した人はおろか、メイド1人も見当たりませんわ。
これは.....とりあえずお屋敷の方に向うのが一番手っ取り早そうですわね。
なんて思っていると、荷物を運んでいた男性の1人が私の近くに立っていたユーリに対してドンっ、とぶつかってきましたわ。
しかも、それだけならまだしも
「邪魔だ!そんなところに突っ立っているな!」
なんて暴言を吐いて、ユーリのことを思いっきり押しのけてきましたの。
そのせいで、ユーリは
「きゃっ!」
と悲鳴を上げて地面に座り込んでしまうようなことになったにも関わらず男性は謝罪もせずその場を後にしましたし、それを見ていた周りの男性も眺めるだけで誰も謝罪にきません。
それを見た私は流石に堪忍袋の緒がプツンと切れて
「ちょっと!何をして.........」
そう叫ぼうと思ったときでしたわ。
「おー、帰っていたのか」
そんな呑気な声が私たちの耳に聞こえてきました。
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