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169話

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不安そうな顔をしているレオンハルト様を見ると、今の状況がおかしい、ということが嫌でも伝わってきますわね。

カーテンを開けて窓の外を覗き込むにも、ノック出来るくらい近くに誰かが居るのであれば、ヘタに顔を出さない方がいいですし......。

とはいえ、このまま無視するのもおかしいですわよね。

そう思っている間にも、なかなか出てこない私たちを不思議に思ったのか、コンコン、というノックが再び聞こえてきましたわ。

うーん.....どうやらノックをしている人も引くつもりはないみたいですわね。

なので、仕方ありません。

不安そうな顔をしているレオンハルト様に、

「え、えっと......とりあえず開けてみますか?」

と尋ねてみると、私の言葉に覚悟を決めたんでしょう。

「そうだね......ずっと乗っている訳にもいかないし.......」

そう言って、レオンハルト様は馬車の扉に手をかけましたわ。

あら.....ここは私が行った方が良いと思っていましたが.........レオンハルト様が行きますのね。

片手はしっかりと扉の取っ手の部分を掴んでいますが、相当警戒しているのか、もう片方の手は剣に置かれている、という異様な光景ですわ。

まぁ、こんなところで襲撃にあうとは思ってもいませんが.........ですが、用心に越したことはありませんわね。

そう思った私は、念のために扉から少し距離をとりましたわ。

レオンハルト様がゆっくりと、外の様子を窺うように扉を開けると、すぐに

「レオンハルト様ぁ~!」

と言う女の人の声が聞こえて来たかと思ったら、伸びてきた手にレオンハルト様の腕がしっかりと掴まれてしまって、引きずり降ろされるような形で馬車を降りて行きましたわ。

私は、というと驚きのあまりレオンハルト様を引き寄せることはおろか、声を出すことも出来ず呆然と馬車の中で立ち尽くしてしまいましたわ。

その間にも、馬車の外では

「やっとお会い出来ましたわ!」

「は、離れてください!」

という女の人の声と、レオンハルト様の声が聞こえてきましたわ。

え、えっと.......一体なにが起こっているんでしょう?

レオンハルト様は誰かに引きずり降ろされましたわよね?

ですが、令嬢の力でレオンハルト様を引きずり下ろすなんて相当な力がないと無理のような気が.......。

なんて考えていたせいで、この状況を理解するのに時間がかかってしまいましたが

「だ、大丈夫ですの!?レオンハルト様!」

と私が顔を出したときには掴まれていた腕が解放されていました。

私の問いかけに、レオンハルト様はホッとしたような表情をしながら

「あぁ、僕は大丈夫だけど........」

と答えてくれましたが、すぐ近くにはドレスが汚れるにも関わらず床に座り込んでいる令嬢がいて

「もうっ.....でも、そういう乱暴なところもいいですわよね」

そう呟く表情は、恋をしている令嬢といいますか........とにかく普通ではない顔をしていましたわ。

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