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8話
しおりを挟む声を荒らげた人物はマージェン夫人だった。
まさか夫人が止めてくれるとは思わなかった、というのと息子が1番、みたいな考えの人がなぜ?という、驚きと疑問が同時に頭の中に浮かんできた。
すると、マージェン夫人は急に私に
「シエラさん...息子がごめんなさい」
と頭を下げた。
さっきのと今ので驚きが2倍になってしまった。
だってさっきは旦那と一緒に私が他に好きな人出来た、とか騒いでた人ですよ?素直を頭を下げるなんて思わないじゃないですか。
私が無言で戸惑っていると夫人は
「確かに当主と勝手に名乗ったのは申し訳なかったわ」
目を伏せながらしゅんとした様子でそう言ってきた。
皆さん、お気付きでしょうか?今夫人は、当主と勝手に名乗ったのはって言いましたよね?
つまり、マノン様が浮気をしていたことは悪いと思っていない、ということですわ。
お父様のこめかみからピキっと音がした気がします。
隣のお母様なんて、あらまぁ...と言いながら微笑んでいますわ。......目は全く笑っていないけど。
まだギャーギャー言い合っている3人はこっちの様子を気付く訳もなく
「アンタなんて、こっちから願い下げよ!シエラ様!この人は返すわ!当主じゃないならお断りよ!」
急にそう言ってリリーは部屋から出て行こうとした。
「リリー・アバズレー男爵令嬢。慰謝料を請求させてもらう。それから屋敷の物をだいぶ壊したみたいだな。それも請求するから男爵に伝えておくんだな」
お父様がリリーの背中に向かってそう言うと、はぁ!?意味わかんないんだけど!と騒ぎ始めた。
いや、当たり前よね。色んな物に八つ当たりしてたみたいだけどそれは全部我が家の物だもの。
マージェン家でやっていたら違ったかもしれませんけど。
その後すぐに、お父様が我が家の兵士にリリーを追い出すように命じたので、引きずられるように部屋を出て行った。
「ほら!やっぱりマノンの相手はシエラさんしか居ないのよ。だから離婚なんて言わないで頂戴?」
リリーが出て行くと、マージェン夫人は満面の笑みでそう言った。
すると、それを聞いたマノンは
「シエラ!すまない!ほんの出来心だったんだ!元々愛しているのはシエラだけだ!」
そして、マージェン元伯爵は
「そ、そうだ!シエラ嬢。今回のことは水に流してこれからいい関係を築いていこう!」
とそれぞれ言ってきた。
ありえない。
マノン様の相手は私だけ?マージェン家に要らないから押し付けただけじゃない。
愛してるのは私だけ?じゃあなぜ初夜すらも共にしなかったの?
出来心って何年も前から同じ相手にお熱をあげていてそれで済むわけがないでしょう?
水に流せ?今まで私がどういう扱いを受けていたのか知っていて言ってるの?
良い関係なんて築きたくないし、築けるわけもないわ。
私がニッコリと微笑むと3人は、ぱぁっと顔を明るくさせたが
「お義母様?お義父様?私は貴方達からマノン様は優秀で誠実な方だと伺っておりました。でも蓋を開けるとどうでしょう?領地のことは全くわからない。お金に無頓着。仕事はいつまで経っても手伝う程度にしか出来ない。挙句の果てには浮気ですよ?」
と私が言った途端、顔色を悪くさせた。
なぜ離婚されないと思ったんでしょう?
これは今までずっと自分の胸の中で抑えてきたことだ。勿論お父様とお母様にもまだ言っていなかった。
その証拠にお父様とお母様は目を大きく見開いて驚いている。
私は、もう限界ですわ、と区切ってから
「マノン様、離婚しましょう?」
今日1番の...いや、今までで1番の笑顔でそう言った。
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