上 下
31 / 89

30話

しおりを挟む

お母様のおかげで、すぐにメイドが駆けつけてくれて、なんとか夕食の時間に間に合いましたわ。

私が食堂に行くと、まさか部屋から出てくるとは思っていなかったようで、お父様もお兄様も驚いた顔をしています。

.......私だって、頭が働いてくれなかっただけで本当なら来たくありませんでしたわ。

なんて心の中で思いながら、妙に視線を感じる中、いつも通りの自分の席につきました。

お兄様の隣、お母様の前の席ですわ。

お兄様の顔が見えない、という理由で席を変えるように毎回お願いしていましたが、今日は顔が見えなくて良かった、と心から思います。

私がそんな風に思う時が来るなんて思っていませんでしたわ。

なんとなく、気まずい空気の中、メイド達が運んできてくれた料理を口に運びますが、なんでか味がしませんの。

味をつけるのを忘れたんでしょうか?

そう思いながら、何も話すことはなく黙々と食事を口にしていると

「シャルロット、明日から学園は行けるのか?休むなら連絡しておくぞ?」

この静かな空気に耐えられなかったのかお父様がそう話しかけてきましたわ。

そうですわね.......逆に家の中にずっといると嫌なことばかり考えてしまうような気がしますわ。

それに.....今はお兄様と同じ家にいたくありませんし。

そう思った私は、心配そうに見つめてくるお父様に

「明日は行きますわ。心配をかけてごめんなさい」

と言って微笑むと、お父様は何か言いたそうにしていましたが

「まぁ、その方が良いと思うわ」

というお母様の言葉に遮られて、何を言おうとしたのかまではわかりませんでしたわ。

なんだったんでしょう?

思わずお父様の反応に首を傾げていると、目の前に座っているお母様が

「そんなことよりもシャルロット、婚約者はどうするつもり?」

と私に聞いてきましたわ。

まさか、このタイミングで聞いてくるとは思わなくて固まっていると

「なっ!お前っ」

お父様も驚いたみたいで、そう言って目を見開いています。

お兄様の方は見ていないのでわかりませんが、きっと驚いていると思いますわ。

そんな中、お母様は

「ブレイドのことは、決まったものだし仕方ありませんわ。そうやって落ち込んでいる間にもシャルロットには沢山の求婚の手紙が来ているのよ」

私にそう言ってきました。

確かに、今日届いているだけでも結構な数がありましたわよね。

私がハッキリと決めないせいで、今も申し込んでくれた人たちは返事を待っているんです。

ですが、なぜでしょう?

胸のあたりが締め付けられたようにぎゅっとしますわ。

なんとか

「.......そう.....ですわね」

と絞り出した声も、かすれてしまいましたわ。

別にお母様を責めるわけではありませんわ。

だって、普段は優しいお母様が厳しく言ってくるときはなにかしらの理由がありますもの。

そう思っていると、お父様は

「そ、そんなに焦らなくても良いんだぞ?もう少ししてからでも.......」

と言って私を見ています。

まだお兄様のことが好きな状態で他の人と婚約しても上手くいく気がしませんわ。

ですが、それは私が甘えているだけでこのままズルズルと落ち込んでいても何もないまま時間が経つだけです。

するとお母様は

「嫌いな相手とも結婚する人が沢山います。でもそれは貴族に生まれてしまった以上、仕方のないことtお前に教えたわよね。甘い考えは捨てなさい」

そう言って手に持っていたナイフを置きました。

確かに、その通りですわね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

事情があってメイドとして働いていますが、実は公爵家の令嬢です。

木山楽斗
恋愛
ラナリアが仕えるバルドリュー伯爵家では、子爵家の令嬢であるメイドが幅を利かせていた。 彼女は貴族の地位を誇示して、平民のメイドを虐げていた。その毒牙は、平民のメイドを庇ったラナリアにも及んだ。 しかし彼女は知らなかった。ラナリアは事情があって伯爵家に仕えている公爵令嬢だったのである。

【 完結 】「平民上がりの庶子」と言っただなんて誰が言ったんですか?悪い冗談はやめて下さい!

しずもり
恋愛
 ここはチェン王国の貴族子息子女が通う王立学園の食堂だ。確かにこの時期は夜会や学園行事など無い。でもだからってこの国の第二王子が側近候補たちと男爵令嬢を右腕にぶら下げていきなり婚約破棄を宣言しちゃいますか。そうですか。 お昼休憩って案外と短いのですけど、私、まだお昼食べていませんのよ?  突然、婚約破棄を宣言されたのはチェン王国第二王子ヴィンセントの婚約者マリア・べルージュ公爵令嬢だ。彼女はいつも一緒に行動をしているカミラ・ワトソン伯爵令嬢、グレイシー・テネート子爵令嬢、エリザベス・トルーヤ伯爵令嬢たちと昼食を取る為食堂の席に座った所だった。 そこへ現れたのが側近候補と男爵令嬢を連れた第二王子ヴィンセントでマリアを見つけるなり書類のような物をテーブルに叩きつけたのだった。 よくある婚約破棄モノになりますが「ざまぁ」は微ざまぁ程度です。 *なんちゃって異世界モノの緩い設定です。 *登場人物の言葉遣い等(特に心の中での言葉)は現代風になっている事が多いです。 *ざまぁ、は微ざまぁ、になるかなぁ?ぐらいの要素しかありません。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。 だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。 しかも新たな婚約者は妹のロゼ。 誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。 だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。 それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。 主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。 婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。 この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。 これに追加して書いていきます。 新しい作品では ①主人公の感情が薄い ②視点変更で読みずらい というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。 見比べて見るのも面白いかも知れません。 ご迷惑をお掛けいたしました

パーティー中に婚約破棄された私ですが、実は国王陛下の娘だったようです〜理不尽に婚約破棄した伯爵令息に陛下の雷が落ちました〜

雪島 由
恋愛
生まれた時から家族も帰る場所もお金も何もかもがない環境で生まれたセラは幸運なことにメイドを務めていた伯爵家の息子と婚約を交わしていた。 だが、貴族が集まるパーティーで高らかに宣言されたのは婚約破棄。 平民ごときでは釣り合わないらしい。 笑い者にされ、生まれた環境を馬鹿にされたセラが言い返そうとした時。パーティー会場に聞こえた声は国王陛下のもの。 何故かその声からは怒りが溢れて出ていた。

目の前で始まった断罪イベントが理不尽すぎたので口出ししたら巻き込まれた結果、何故か王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
私、ティーリャ。王都学校の二年生。 卒業生を送る会が終わった瞬間に先輩が婚約破棄の断罪イベントを始めた。 理不尽すぎてイライラしたから口を挟んだら、お前も同罪だ!って謎のトバッチリ…マジないわー。 …と思ったら何故か王子様に気に入られちゃってプロポーズされたお話。 全二話で完結します、予約投稿済み

姉の物を奪いたい妹と、等価交換の法則に従って行動する姉

マーサ
恋愛
年齢不相応に大人びた子供だった姉イレーナと無邪気に甘える妹ハンナ。どちらを両親が可愛がるかは火を見るより明らかだった。 甘やかされて育ったハンナは「姉の物は自分の物」とイレーナの物を奪っていくが、早くから社会経験を積んだイレーナは「世の中の真理は等価交換」だと信じ、ハンナの持ち物から等価値の物と交換していた。 物を奪っても上手くいかないハンナは、イレーナの悔しがる顔見たさに婚約者を奪い取る。 「私には婚約者がおりませんから、お姉様お得意の等価交換とやらもできませんわね」 王家主催のパーティで告げるも、イレーナは満面の笑顔で「婚約破棄、承知いたしました」と了承し……。 ★コメディです ★設定はユルユルです ★本編10話+おまけ3話(執筆済み) ★ざまぁはおまけ程度

婚約者に冤罪をかけられ島流しされたのでスローライフを楽しみます!

ユウ
恋愛
侯爵令嬢であるアーデルハイドは妹を苛めた罪により婚約者に捨てられ流罪にされた。 全ては仕組まれたことだったが、幼少期からお姫様のように愛された妹のことしか耳を貸さない母に、母に言いなりだった父に弁解することもなかった。 言われるがまま島流しの刑を受けるも、その先は隣国の南の島だった。 食料が豊作で誰の目を気にすることなく自由に過ごせる島はまさにパラダイス。 アーデルハイドは家族の事も国も忘れて悠々自適な生活を送る中、一人の少年に出会う。 その一方でアーデルハイドを追い出し本当のお姫様になったつもりでいたアイシャは、真面な淑女教育を受けてこなかったので、社交界で四面楚歌になってしまう。 幸せのはずが不幸のドン底に落ちたアイシャは姉の不幸を願いながら南国に向かうが…

処理中です...