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こねこねするのも楽じゃない

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 旅行も終わり、俺達はまたいつもの日常に戻った。

「桃太、んっ…… 完成したか?」

「ああ、結構良い出来じゃないか?」

「んっ…… おぉ、これなら女性人気も出そうだな…… んんっ!!」

 俺は今、輝衣の提案で新たな商品を開発中で、その商品とは輝衣の実家から送られてくる果物で甘いソースを作り、白玉にかけるフルーツ団子だ。

 とりあえず大量に送られて来たという、リンゴとイチゴとみかんを使い作ってみた。

「おい、食べ辛いからちょっと……」

 おお、ごめんごめん、つい……

「桃太は本当に生地をこねこねするのが好きだなぁ、試食したら好きにしていいから、ちょっと待ってろ」

「すいません……」

 そして輝衣がフルーツ団子を一口……

「んー! 美味しいよ、桃くん!」

「千和!? お、おかえり…… 気付かなかったよ」

「フルーツの酸味で甘過ぎなくて食べやすいし、白玉のモチモチが最高だよ! ……きーちゃんをずっとモチモチしてただけあるね」

 ひぃっ! い、いつから見てたんだ!? それと、そんなにずっとモチモチはしてないぞ? 多分……

「ちい、おかえり! ……うん、美味い! じゃあ次はカットしたフルーツを乗せて練乳をかけた団子を……」

「うん! 練乳とフルーツ、それに団子が合わさるととても美味しいですね! さすが桃太さんですね…… 練乳と白玉は美味しいですから」

「美鳥も!? お、おかえり…… ビックリするから横からいきなり現れるなよ」

「うふふっ、学校帰りの千和ちゃんと待ち合わせして、一緒にちょっとお買い物に行ってたので…… 楽しそうにモチモチしてましたね」

 ひぃぃっ!! 千和も美鳥も、笑顔が少し怖いよ? 

「「…………」」

 じ、じゃあ千和と美鳥も失礼して……

「んっ! ……えへへっ」

「ひゃん! ……うふふっ」

「へへっ、じゃああたしは……」

 ああ、もう、三人がより積極的にスキンシップを求めてくるようになって大変だ、こねこねするのも楽じゃない。

「あっ、そうだ! きーちゃんの分も買ってきたからね?」

「おお! サンキュー、へへへっ……」

「何を買ってきたんだ?」

「うふふっ、それは……」

「夜のお楽しみだよ、桃くん」

 ……ああ、そういう感じ? うん、分かったよ。
 
 旅行の時のように羽目を外すわけにはいかないから色々買ってきたんだろう。
『おだんご』を美味しく食べるためのものを。
 

 あの旅行以来、俺達四人の仲はより深まったように思う。
 それこそ三人はまるで姉妹かのように仲が良くなってるし、俺もそんな三人と一緒にいるのが当たり前になりつつある。

 だからこそ……

「それじゃああたし達はそろそろ学校に行く準備をするか、それで…… 帰りに頼んだぞ、桃太」

「ああ……」

 もうすぐ学校に登校するのは最後になり、あと登校する日は卒業式だけだ。

 そして輝衣の当初の予定では、田舎に帰って卒業式の日だけ戻って来るつもりだったらしいのだが、それでは輝衣と離れ離れになってしまう。

「桃くん、頑張ってね!」

「輝衣ちゃんも頑張って下さい!」

「へへっ、大丈夫だよ、多分」

 だからこそ、卒業後も『吉備団子店』の店員として働いてもらうために、輝衣の両親を説得しなければならない。

 それで今日の学校終わりに、遠くに住む輝衣の両親とテレビ電話で話しをする時間を作ってもらって、そこで俺が輝衣の両親にお願いをする予定だ。

「駄目だって言われたら、最悪『太ったから帰れない』って言うからさ! あははっ」

 それだけは何としてでも避けたいから、俺が頑張って頼みこむしかない!

 千和や美鳥も連れて行こうかと思ったが、輝衣も含め三人を侍らせてテレビ電話をするなんて印象が悪くなってしまうから止めておいた方が良いと思い、俺一人で輝衣の一人暮らしする家に行く事になっている。

「本当に太るかもしれないしね」

「もしかしたら私達も太るかもしれないですけどね」

「へへっ、みんなで太れば怖くない! ってな! あははっ」

 ……説得、頑張ろう。
 もし、後々『太って』いたのが分かったとしてもその時は…… 誠心誠意謝って許してもらうしかない。


 ◇


 そして学校が終わり、輝衣の家へと向かうために二人で並んで歩いていると、突然輝衣が俺の腕にしがみついてきた。

「あぁ、あたしはもう何日か通わないと単位が足りないなぁ…… 桃太は真面目に通って偉いな、はぁ……」

「一日でも早く単位を取って団子屋に専念したかったからな、行ける時は昼間も行ってたぞ」

「あーあ、遊び歩いてなければ余裕だったんだけど…… まあ、そのおかげで遠回りだったけど桃太達と知り合えたから、結果オーライかな? へへへっ、でも一人で学校行くのは寂しい…… きっとあたしが学校に行っている間にちいとみいは…… はぁっ、ズルいなぁ……」

 ちょっと…… 夜だし暗いから目立たないけと、どさくさに紛れて俺の手を掴んで桃を触らせようとするなよ。

「へへっ、でも温かいだろ? 桃」

 うん、温かいけど…… 輝衣が寒いだろ。

「大丈夫、大丈夫! すぐ温かくなるから遠慮するなって!」

 遠慮してる訳ではないんだけどなぁ。
 
 そんな事をしながら歩いていると、一軒の古いアパートの前に着いた。

「んっ…… こ、ここがあたしの住んでるアパートだ、早く中に入るぞ……」

 輝衣がバッグから鍵を取り出し、鍵を開けて部屋の中に入る、すると……

「な、なぁ…… もうお腹ペコペコで限界なんだ、おだんごちょうだい!」

 部屋に入った途端、輝衣が抱き着いてきておだんごを欲しがってきた。

「いや、ご両親とテレビ電話で話をするために来たんだよな?」

「まだ時間あるから大丈夫だ! おだんご食べたいんだよ、ほら早く出せ!」

「ちょ…… 強引におだんごを取り出そうとするなよ」

 どんだけお腹空いてるんだよ、ちょっと落ち着けって。

「そうは言ってるけど、しっかりおだんごの準備してくれているな…… へへっ、じゃあちょっと味見を……」

 …………

「んっ、美味い…… もっとぉ……」

 そんな美味しそうにされると、もっと振る舞いたくなるから! ああ、もう! 時間の心配もしなきゃいけないし……

「あっ! ……桃、太?」

「ここじゃ食べ辛いだろ? ……あっちに行くぞ」

「ひゃっ…… こ、これが噂で聞いていた、お姫さまだっこってやつか? へ、へへっ、なんか照れるな…… ひゃん!」

 そして、食べやすい格好にさせた俺は、輝衣のお腹が満たされるように、一生懸命おだんごを食べさせた。



 ◇


「は、初めまして! 吉備桃太です」

『あらぁ! あんたが桃太くんかい? 初めまして、輝衣の母です』

「よろしくお願いします……」

『こちらこそ、輝衣が色々とお世話になってるみたいで…… ところで輝衣はどうしたんだい?』

「あ、あぁ、その……」

「んっ、ぷはっ! おっ母、久しぶり!」

『あんた、どっから出てきたのさ? いきなり画面の下から出てきたからたまげたよ』

「へへっ、ちょっとテーブルの下に落とし物をしちゃってさ! なかなか見つからないんだよ…… どこかなぁ……あむっ」

『まったく、あんたはせわしないんだから…… ごめんなさいね、桃太くん』

「っ! ……いえいえ、輝衣の明るさと元気さにはいつも助けられてますから…… っ、ははっ」

『ひょっとして緊張してるのかい? ははっ、ほら、お父さんも挨拶しなさい』

『……初めまして桃太くん、早速聞きたい事があるんだが』

「は、初めまして…… っ、な、何でしょうか?」

『……責任は取ってくれるんだろうね?』

「……へっ?」

『……ダブルピースの責任だよ』

 ダブルピース!? えっ、いや、ま、まさか! あの旅行中の写真…… ご両親で見られていたのか!?

 ちょっと輝衣! 今、大事な話をしてるんだから、っ! おだんごの味見は止めなさい!!
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