シングルパパ

谷川流慕

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冬の章

きよしこのよる

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 クリスマスイブの夕方、約束の時間よりかなり早くユリカ先生がやって来た。そして子供たちと一緒に部屋の飾りつけをしてくれた。そして、いよいよ乾杯という時になって、玄関のベルがピンポンと鳴った。伍代だった。ユリカ先生は逆三角形の目で実兄を睨む。
「お兄ちゃん、何しに来たの!?」
「いや、クリスマスディナーを彼女にドタキャンされてさ、一人で過ごすのもなんだし。……って訳で上村さん、上がってもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
 ユリカ先生は不満気だが、大勢いた方が子供たちも楽しそうだ。とその時またピンポンと鳴る。今度は桑田だ。
「なんでお前まで!」
「上村一人じゃ心配だからな。援護射撃だ」
「いらないし!」
 ともあれ、賑やかなパーティーとなった。皆で「きよしこのよる」を合唱し、宴もたけなわという頃、ユリカ先生特製のグリューワインで伍代と桑田は酔い潰れて寝てしまい、子供たちはDVDを見始めた。するとユリカ先生が台所で後片付けを始めたので、僕は慌てて引き止めた。
「ここはいいですから、ゆっくりして下さい」
「慣れていますから、気になさらないで下さい」
「でも……」
「途中で変な乱入者はありましたけど、今日は本当に楽しかったです。お招きありがとうございました!」
 その微笑みがこの世のものとは思えないほど美しかった。告白するなら今だと思った。
「ユリカ先生、大事なお話があります」
「……はい」
 ユリカ先生は取り乱すことなく僕と向き合った。
「僕はユリカ先生のことが好きです! どうか結婚を前提にお付き合い下さい!」
 ユリカ先生は驚いた顔になり、ダッと駆け出した。勇み足だったか、と思ったが、彼女は子供たちのところに言って話しかけた。
「あのね……私、ハヤテ君とツムジ君のママになってもいいかな?」
 すると子供たちは嬉しそうな顔でウンと頷き、ヤッターとはしゃぎまわった。ユカリ先生は僕のところに戻り、そっと耳打ちした。
「子供たちをダシにするの、私は悪くないと思いますよ」
 そうして鼻歌交じりにユリカ先生は食器洗いを再開した。

おわり
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