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深夜
しおりを挟むカレルドは、両手をヒラヒラとさせるだけで何も言わなかった。
「なんだか、母さんに怒られてる気分になるね。」
マルセルは軽く笑い、カレルドと同じ様に両手を上げる。
集まってきたみんなの笑い声が微かに聞こえた瞬間、コルンがまた豪華に笑う。
「はははは!皆、お嬢様には敵いませんな!」
夜も深くなり、侍女と女騎士のハンナとイリスとテントで過ごす。
一つのランプだけが灯る、薄暗いテントの中。
膝を抱え、横で寝ているエマの寝顔を眺めながら、サラッとエマの髪を撫でる。
『周りの者達も辛い思いをする。』
コルンの言葉を思い出す。
“ごめんなさいね。”
心の中でつぶやく。
「もぉ…お嬢様より先に眠るなんて。」
ニーナが近づき小声で言いながら、布団をかける。
「ふふ。いいのよ。疲れてたのよ。」
笑いながら言う。
「お嬢様も、お疲れでしょう…
お身体大丈夫ですか?」
不安そうなニーナ。
「アレくらいなら、何ともないわ。大丈夫よ。」
魔鉱石を貰った日に倒れて以来、ニーナは私が魔鉱石を使うと異常に心配する。
「水柱に氷の剣までお作りになったのに、アレくらいなのですか?」
イリスが聞いてくる。
「えぇ。多分だけど、相性があるのよ。
水や氷はさほど疲れを感じないわ。」
「不思議ですね。」
「ですが、氷を扱える方は珍しいのですよね?
やはり、お嬢様は凄いですね…」
話を聞いていたハンナも言う。
「どうなのでしょうね。
それこそ、相性の問題だったりするのかもしれないわね。」
「…相性が良くてもダメです!
ささ、横になって下さい!」
ニーナが私に布団を被せようと持ってくる。
「ふふ。わかったわ。」
“私が眠らないと、ニーナも眠れないだろうしね…”
横になり、布団がかけられる。
「ランプ消しますね。おやすみなさいませ。」
イリスに言われ、返事をする。
「えぇ…。おやすみなさい。」
テント内が暗くなる。
目を閉じる。
が、色々考えてしまって寝付けなかった。
数十分後ニーナが布団に入る音がし、さらに数十分後寝息も聞こえてきた。
“眠れない…”
横になっていると、色々思考が巡り逆に目が冴えてさしまう。
起こさない様にゆっくり起き上がる。
「お嬢様?」
横で護衛をしてくれているイリスが声をかけてくる。
しー。っと口元に人差し指をあてる。
「眠れませんか?」
小声で聞いてくる。
「えぇ。…色々考えちゃって。」
私も、小声で話す。
「ありますよね。そう言う日って。
…少し外の風に当たられます?」
イリスの提案に驚く。
「いいの?」
「ちょっと待って下さいね。」
そう言い、イリスはテントの入り口から外を確認し外にいるハンナと少し話し、戻ってくる。
「先ほど外を確認しましたし、コルン様が外で焚き火を眺めていらっしゃるので、その辺りなら。」
“コルン…か。”
「…お願いしようかしら。」
立ち上がり、羽織物を肩にかけ2人でテントから出る。
「カレルド殿下に何か言われたら、私がどうしてもって聞かなかったって言ってね。」
振り返り、ニコリとイリスとハンナに言う。
「お気遣いありがとうございます。」
頭を下げる2人。
イリスだけを連れ、焚き火の横に座るコルンの元へ行く。
気配がしたのか、すぐに立ち上がりコルンは私に、お辞儀をする。
近くに行くと、不思議そうな顔をするコルンが言う。
「どうされましたか?」
「眠れなくて。
外にコルン様がいらっしゃると聞いて、出てきてしましたした。」
ニコリと笑顔を見せる。
「はは。そうでしたか。」
コルンの近くにお酒の入ったビンと、グラスが置いてある。
“1人の時間を過ごしていたのかしら…”
そう思い聞く。
「お邪魔でしたか?」
「いいえ。いつもは隊の者らと囲むので、寂しく思っていた所です。
まぁ。どうぞ。」
そう言い、座っていた小さな椅子を私に譲る。
嘘か誠かわからない言葉だったが、甘えて座らせてもらう。
「ありがとうございます。」
コルンは横に座り、一口お酒を飲む。
「私が悪人なら、この一瞬で連れ去っていますよ?」
私を見て言う。
後ろにいるイリスの事を気にしてか、言葉を選ぶ。
「ふふ。それは今じゃなくて、先程のテントの中で2人になった時できたでしょう?
それに、それをするなら今じゃない。
わざわざ殿下お二人が近くにいる時にはしないでしょ?」
「ははは!その通りですな。」
そう言いながら立ち上がるコルン。
後ろから足音がし、私も振り向く。
「こんな深夜に出歩く、悪い子発見。」
ニコニコと近づいてくるのは、マルセルだった。
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