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理由

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 ニコリと笑うと、カレルドも微笑み返してくれる。

 近くで指揮を任されている騎士と話していたエノワールにカレルドが言う。

「エノワール、剣貸せ。」

「え。良いですけど…どちらに?」
 こちらに来ながら腰の剣を抜きカレルドに渡す。

「いつもの所だ。」
 受け取り腰に刺す。

「…気をつけて下さいよ?」

「あぁ。」

“そう言えば、剣持ってないわね…”

 心配そうなエノワールを無視してカレルドは歩きだす。
 少し引っ張られる形で着いていく。

「いつもの所って、よくここに来られるのですか?」

「この辺通るなら、大体ここで休憩やら設営になるからな。」

「そうなのですね…」
 周りを見ると新人騎士達は手が止まり、私達を見ている。
 その中からハンナが駆け寄ってくる。

「お供いたします。」

「いや、いい。アイツらに早く準備するように言っとけ。」
 カレルドが新人騎士達に目をやる。

「かしこまりました。」

 そう言い、戻っていくハンナを見届け再び歩き出す。
「こっちだ。」

 私に歩幅が合わせられ、ゆっくり進む。

 “変わったのはロベルトだけじゃなくて、この人もよね。”
 思わず笑みが溢れる。

「何笑ってんだよ?」

「何でもありません!それで?なぜ訓練しようと思ったのですか?」

 カレルドを見上げながら聞く。

「能力の見極めと厳選をしたかったのが大きな理由だな。
 今回の訓練に参加している新人以上の騎士らは、全員お前の部隊を希望している奴らだ。
 まぁ。アイツらだけじゃないがな。」

「え…」

「少数精鋭の部隊を作るんだ。中途半端は奴らを一々審査してやる暇はないからな。
 一応、ある程度厳選し見込みのある奴だけを連れてきた。

 新人の遠征訓練でもあるが、俺の目的はお前の部隊への厳選だ。実践に出して、どうお前を守るかを見るのが1番手っ取り早いからな。
 お前が港街に行きたいと言ったのは、俺的には都合が良かったんだ。」

「え。でも、私の部隊って話は最近ですよ?その前から遠征訓練行くって言ってましたよね?」

「お前に部隊の話をするだいぶ前から、その話はあったからな。
 準備のつもりの厳選だったが、タイミングよく訓練前に募集が始まったからメンバーを組み直した。」

「何か、色々と同時進行なのですね…」

「この件に関しては丁度良かったんだ。」

「セナは希望を出さなかったから外されたのですか?」
 悔しそうだったセナを思い出す。

「いや。アイツが1番初めに希望を出した。」

「え、なら何故?」

「言ったろ。アイツには別の仕事を任せている。実力は知ってるし、どう動くかは大体わかる。」

「それは、セナは訓練に参加しなくても厳選に合格したって事ですか?」

「あぁ。…まぁな。
 ある程度絞ってやるから後は自分で決めろ。
 他の隊でも厳選が始まっているし、マルセルの所は終わったと聞いた。
 皇宮に戻る頃には全体で30人程度には絞られているはずだ。」

「もうそんなに進んでいるのですか?!」

「あぁ。
 ちなみにロベルトも希望を出してたぞ。」

「え!?嘘でしょ!?」

「全く。いけすかない野郎だ。
 着いたぞ、あそこだ。」

 薄暗い森を歩いてきたが、目の前が開ける。
 日はだいぶ沈んでいる。
 遠くの山の先はまだ赤く。空は暗くなりつつある。

 もう少し歩くと、山の頂上に近いのか見晴らしがいい所だった。

「わぁ。」

 下に見える街に灯りが灯っていく。

「どうだ?一応、考えてみたが。」
 カレルドを見上げる。

 “考える…?”

 何のことかと思った瞬間思い出す。

「まさか、牢獄塔に行く時に私が言った事ですか!?」

「あぁ。」

「確かに、場所を考えてとは言いましたけど…
 は!昼間の湖もですか!?だからあの時みたいに私と2人で馬車に乗ってたのですか!??」

 風が吹き乱れる髪をカレルドはかき上げながら笑う。
「どうだろうな。」

 “絶対そうだ!!”
「律儀ですね。でも、気に入りました!ありがとうございます。」

 カレルドを見上げ笑顔を見せる。

 チラッと私をみて景色に目線を戻す。
「よかったな。」

 私も景色に目線をうつす。

「なんだか、露店に連れて行ってもらった帰りを思い出しますね…」

 完全に山に日が隠れ、辺りは月明かりに照らされはじめる。

「同じ様にしてやろうか?お姫様。」
 フッと笑うカレルドに手を差し出される。

 手を取りつつ言う。
「ふふ。あの子達は元気でしょうか…」

 言い終わる前にふわっと地面から足が浮き上がる。

「わ!相変わらず凄いですね…
 魔鉱石をもらってから、殿下の凄さがよく分かります。」

「コレに関しては苦労したからな。」

 どんどん高く舞い上がり、太陽が沈んだ山の先の街の灯りまで見えてきた。





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