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1章

20.回想

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―・―・―・―・―・―
『〇〇様、本日はこちらの方々が祈祷に参られます。』


毎日、同じことを繰り返す。


起きて、支度をして、人と面会をし、治癒を施していく。


御簾ごしで人の影しかみえないが、病や怪我に対して薬をつくって渡す日々。


歴代最強な癒しと製薬の力を持って生まれた“僕”は両親から引き離され、穢れが伝染らないようにと、一族からも隔離された。


僕を育ててくれたあの人は、僕が役目を引き継ぐと亡くなってしまったため僕は一人ぼっちだ。


受け継がれた薬の作り方は役目を受け継ぐ者にしか口頭でしか伝授されない。



そう、“自身の血”を混ぜ作った薬だとは知られてはならない。



そんな生活の僕に一筋の光を与えてくれた人がいた。


同じ境遇にもかかわらず明るい、歴代最強の力をもつあの人。


「お前、名前は?」


僕の屋敷に迷い込んできたあの人は、僕を外の世界に連れ出してくれた。


「○○ー!遊ぼうぜ!」


「まっ待ってよ~」


「よし、力使わずにあそこまでかけっこだ!今度こそ勝ってやる!!」


「僕を誰だと思ってるの、○○。かけっこで僕が負ける訳がない!!」


「言ったなぁ~」


よーい、どんっ


足を蹴りだした少年達は軽やかに駆けていく。


「はぁはぁ…やっぱり○○には勝てないや。
さすが風の民。」


「かけっこは僕が勝つけど、武術は○○のが上じゃん!強さも違うし。そこは火の民のがいい!!」


「お互い様だね。」


二人は顔をあわせてくすくす笑いあう。


「そうだ、○○、いつか俺はお前のきしになる!」

 
その台詞に俺はどれだけ救われてきたのだろうか。


今はもう…


―・―・―・―・―・―



ずいぶんと懐かしい昔の記憶。


こんな普通の夢はめったに見ない。


体を包みこむ感覚にふっと目を開けると見慣れない部屋。


自分の下になっているのは今の‘俺’が生まれた花。


悪夢を見なかったのはこれのせいか。


「‘僕’だけ残すなんて酷いよ……ルーグ。」


俺は花に頬を擦りつけるようにまた眠った。




Side:李都

部屋を覗くと、花は開いたが唯はまだ寝ていた。


そっとしておこうとドアを閉めようとした時、唯の声が聞こえた。


「‘僕’だけ残すなんて酷いよ……ルーグ。」


唯の境遇は封印が解かれた際に教えてもらった。


だからこそ、声をかけることはできない。


これは過去の話、唯が乗り越えなければならない。


俺はそっと扉を閉めた。
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