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1章

8.

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俺たちは、エレベーターを使い2階まで降りる。


2階のフロアは一つ、この大規模な人数を収容するための空間になっている。


扉を開ける前に義樹は俺に言った。


「唯都、耳塞いでおけよ。」


「?」


訳が分からないが深刻そうな義樹の表情に、言われた通り耳を塞ぎながら食堂にはいった。


「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」」


耳を塞いでいるのに聞こえてくる歓声、いや悲鳴に近いかな… 


「平良様よ!!」


「刈谷様までいらっしゃるなんて!!僕幸せ!!」


「平良様ぁー抱いてぇ///」


「光ちゃん、抱きてー!!」


ここ、男子校だよな・・・と考えているとそいつらは俺の存在に気づいたのかささやく。


「一緒にいるやつ、誰?」


「きもっ。オタクだよ。」


「俺、初めてオタクみた~」


「オタクは秋○原にかえれー!」


ここって男子校だよな?思わず2回も考えてしまった。


ふむ、今の格好はオタクというのか。


・・・好きでこんな格好をしているはずがない。


いつも隠密の任務に出ている時はスプレーで黒くしていたから、今回もそれでいいかと思っていた。


でも、父さんが
「‘だめ!そんな格好でいったら!コレをつけてきなさい’」
って言うから、仕方なくこんな格好をした。


このカツラ、正直セットをするのが面倒だ。


「ごめんね。」


と突然光が謝ってきた。義樹も罰の悪そうな顔をしている。


「何が?」


何故謝るのかわからない。


「僕達といるせいで、唯都がひどいこと言われている。」


ああ、なんだ。そのことか。


「二人は格好いいし、可愛いかもしれないけど、何故皆は二人を見てこんなに騒ぐの?」


空いている席に座り聞くと、義樹は苦い顔をする。


「この学校って、山奥だし、全寮制の男子校だから外との関わりもない。
それにほとんどの生徒が初等部からの上がり組だ。
だから女子がいないここは男に向けられる。
ようするに同性愛者が多いってこと。」


「だから、義樹や光は容姿が良いから皆からそういった目で見られている、っていうこと?」


なるほど…面倒な所に来てしまったな。


「そうだ。でも俺たちはそんな目で見てこなかった唯都とは友人でいさせてほしい。」


まぁ、二人は大丈夫そうだし、一緒にいる“メリット”もあるな。


「うん、こちらこそ、よろしくね。」


そう返事をすると、光のお腹からグゥーーっと音が聞こえてきた。


「ありがとぉ。・・そろそろご飯頼もー?僕お腹空いちゃったぁー。」


光がお腹を押さえて笑う。


「そうだな、唯都注文方法わかるか?
このタッチパネルを使って、メニューを決める。んで、ここのスキャナーにカードキーを通せば注文完了だ。あとはスタッフが持ってきてくれるんだよ。」


なるほど。簡単に注文ができるのか。


俺はメニューを見て、サンドイッチとスープのセットを頼んだ。


「えー?ゆいっちそれだけでいいのー?」


「え・・・ゆいっち?」


思わず呟く。ゆいっちってなんだ?


「うん!唯都だからゆいっち!!かわいーでしょ!」


「すまない、唯都。光は気に入った相手にはあだ名をつける癖があるんだ。」


諦めろと、メニューを注文しながら義樹が俺の疑問に答える。


「そだ、親衛隊には気をつけてね、ゆいっち。」


料理を待ちながら、光が言う。


「親衛隊?」


問い返すと、光はうん、と答える。


「そっ、人気者には必ずファンがいるでしょ?一種のファンクラブみたいなものだよ。でも、過激な所もあるから気をつけてね。」


もっと厄介なのは親衛隊で、下手に人気な人に近づいて情報を集めようものならそいつらに制裁されるってことか…。


それなら問題ないな。


「お待たせしました、ご注文の品です。」


タイミングよくスタッフの人が、俺たちの注文した料理を持ってきた。


「ありがとう」


お礼を言うとスタッフは驚いたそぶりを一瞬見せたが、すぐに笑顔を見せる。


「いえ、ごゆっくりどうぞ。」


スタッフが去り、俺たちは料理を食べる。


「光、よく食べるね・・・」


「そふ?そんふぁ・・こと、ふぁいけど(そう?そんなことないけど)」


もぐもぐ食べる光の前には大量の料理。


「光はよく食べるんだ。俺でも見ているだけで腹一杯になるよ。」


光の食べっぷりに驚きながら先ほどの話で気になっていたことを訪ねる。


「そういえば、二人にも親衛隊がいるの?俺がいて大丈夫なの?」


「いる。俺たちの親衛隊はまだ温厚な奴が多いから大丈夫。それに俺たちが唯都といたいんだよ。」


「そうそう!!あ、僕らの親衛隊が温厚だからって、絶対に一人になっちゃだめだよ!!」


「ありがとう。」


そう言ってほほ笑むと二人はなぜか赤くなる。


「あ、あとはっ、生徒会の親衛隊には注意してね!」


風邪か?と思案していると、光が何か誤魔化すように話しかける。


「ん?生徒会?」


「そう。学院を取り纏め、統率する組織が生徒会。ちなみに風紀って呼ばれる人もいるけど、風紀は学院の警備等を行なっている組織だよ。」


「そっ。ちなみに僕もよっしーも風紀の一員だよ!僕は風紀の情報管理をしてるんだぁ。」


義樹と光が簡単に説明をしてくれる。


「ふぅん。風紀は警察みたいなものってことか。じゃあ、学院内で一番強い人が風紀の長か。」


「長?そうだな、生徒会・風紀委員はランキング戦で決定しているから、それに選ばれた人は強いっていう方程式になってるな。」


義樹が補足説明をしてくれるが、また知らない言葉が出てくる。


「ランキ(「キャァァァァァア!!!」・・・」


ランキング戦について問い返そうとしたが、食堂内に響き渡る悲鳴によって阻まれる。


「きゃぁぁぁぁ!!」


「珍しいね!!こんな所に風紀の方がいらっしゃるなんて!!」


「みんなにも知らせないと!!」


「今日は運がいいね、僕たち!」


「写真、写真!!」


「いや~ん!僕今日メイク薄いのにぃ~~」


最後の言葉おかしいだろ・・・ん?さっきの会話にあった、風紀か?


思案していると、歓声がこっちの方に近づいてきた。


背後に気配が二つ。


義樹と光が、俺の背後を見ると、嬉しそうに声をあげる。


「五井先輩、飯山先輩!!」


「おぅ!!平良に刈谷、お前たちも飯か?」


この声、そしてこの気配は・・・。


「この人、…噂の外部生…?」


兄貴口調と、控えめな声が聞こえる。くるりと振り返るとアイツらがいた。


「珍しいですね、風紀役員がいるなんて。五井先輩なんか、副委員長の一人なのに。」


流石にこの姿の俺に気づかないだろう。


アイツらにしか分からない程度の殺気を放ってやる。


「噂の外部生が見たかったのさ。って!!!あ、…ひ…ぐはっ…」


しゃべっている途中に気づいたのだろう。


もう一つの呼ばれたら困る名を呼ぼうとしたからとりあえず足を思いっきり踏みつけた。


「お久しぶりですね、七瀬に呂姫。」


口元だけの笑顔を作って言う俺。


「お久しぶっっ!!…久しぶり、…」


敬語で話そうとしたナナをもう一度踏んづける。


「久…し…ぶり、‘今回は任務で?’」


ロキも嬉しそうに言う。


あとの言葉は俺達、風華組が使う話し方だ。


ほとんど口を動かさず、声も発しないから分かる人はいない。


「この学校にいたのですね、会えて嬉しいです。‘そう。ナナにロキ、あとで俺の部屋に来い。0602室だ。’」


「あっ、あぁ…‘承知しました、姫′」


ぎこちないナナ。


ふとナナがおし黙ったのは俺が一瞬だけナナに先ほどよりも強い殺気を向けたからだ。


「どうしたのですかぁ~?五井先輩?」


光が心配そうにナナにたずねているが、義樹はこっちを驚いてみている。


さすがに気付いたか?
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