上 下
6 / 44
0章

3.

しおりを挟む
Side:北悠

姫―主(総長)の弟である風華唯都(カザカ ユイト)―の部屋は本邸から離れた小さな別邸にある。


人の気配に敏感な姫にたくさんの人の気配が出入りする本邸では安心できないだろうから、と彼の父親が四方を堀に囲まれたこの別邸を特別に用意したそうだ。


さらに、普段から人の出入りができないように、姫が張った結界があるため、特定の人しか入ることを許されていない。


この別邸には、姫の居住スペースとナンバーズと呼ばれる特殊な任務を行う者達が姫に会うための部屋しかない。


俺は姫の寝室に入ることを許されている数少ない人だ。


姫の執務室から繋がっている私室の扉の前に立ち、声をかける。


「姫、湯殿のご用意ができました。」


ノックをしてそっと話かけるが返事がない。


失礼します、と声をかけ必要最低限しか置かれていない部屋に入る。


「姫?」


しかし、部屋の主の姿が見当たらない。


部屋の隅々まで見回すと、大きなソファの上でクッションに埋まって寝ている人影を見つけた。


「すぅ…すぅ……」


とても安心しきった可愛い寝顔。


私と家族以外寝ている姫に近いたら起きてしまう。


いや離れの近くに来ると、が正しいか。


俺は長年にわたる努力の結果、姫に信頼されて頂いた数少ない一人だ。


姫に近づいても彼は眠っている。


こうして姫の寝顔を拝めるのも、苦労したかいがあったというものだ。



玄関先ではフードを被っていた姫だが、今は外れていた。


綺麗な金のラフショートの髪。総長曰く、触るととてもふわふわしているらしい。


今は閉じたられているが、目をあけると澄んだ碧い瞳が見える。


姫自身は自分の髪と瞳を嫌っているが、俺はとても綺麗で可愛いと思う。


俺が姫と呼ぶのは、彼の二つ名からもあるが、人形のように可愛いからだ。


姫に言うと怒られそうだから口には出さないが、姫の姿をみた風華組全員がそう言うし、ほぼ全員こっそりと‘姫’と呼んでいる。


「向こう(任務先)ではあまり眠られていなかったのですね…」


顔色が良くなさそうに見えるから、ずっと寝かせてあげたい。


だが、姫の部屋に来る前に彼の父親である羅都(らと)様に命じられたことを姫に伝えなければならないので、俺はそっと近づいてクッションに埋もれている姫を起こす。


「姫、姫。起きて下さい、こんな所で寝ていたら風邪をひきます。」


「ん……」


小さく身動ぐと姫は目をあけた。


碧い目が俺を映すが、その眼に感情は無い。


この瞳に感情がやどる所を見たいと思っている俺の気持ちを知らない姫は、小さく欠伸をすると身を起こした。


「ふぁ・・・ホク?」


ホクは俺の愛称みたいなものだ。


姫が幼い頃、(と言っても姫と会ったのは5年前だが。)につけた俺の名前。


最近は呼ばれたことがなかったが、寝ぼけていたのだろう。


「こんな所で寝ていたら風邪をひきますよ、姫。湯殿のご用意ができております。」


「ん、ありがとう。」


まだ醒めきっていない姫は目をこすりながら立ちあがった。


「湯殿に行かれた後でいいから私の所に来るようにと、羅都様からの言伝を預かっております。羅都様は現在、椿の間にいらっしゃいます。」


「ん、分かった。一人で行く・・・。」


「はっ。失礼致します。」


姫はふらりと立ち上がると着たままだったコートを脱いだ。


黒のスキニーパンツと黒いシャツという出で立ちから、姫のほっそりとした体型がわかる。


たくさんの任務をこなしてきている姫だが、がっちりとした体形ではない。


本人曰く、筋肉がつきにくい体質らしい。


女に間違えられるほどの可愛い容姿をあまり姫は自覚していない。


目の前で着替え始めようとした姫を止めて、慌てて部屋を出た。


「(肌白すぎだ・・・これ以上姫の裸体を見せられたら、俺の理性がもたねぇ…)」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

強制結婚させられた相手がすきすぎる

よる
BL
※妊娠表現、性行為の描写を含みます。

悪役令息の兄には全てが視えている

翡翠飾
BL
「そういえば、この間臣麗くんにお兄さんが居るって聞きました!意外です、てっきり臣麗くんは一人っ子だと思っていたので」 駄目だ、それを言っては。それを言ったら君は───。 大企業の御曹司で跡取りである美少年高校生、神水流皇麗。彼はある日、噂の編入生と自身の弟である神水流臣麗がもめているのを止めてほしいと頼まれ、そちらへ向かう。けれどそこで聞いた編入生の言葉に、酷い頭痛を覚え前世の記憶を思い出す。 そして彼は気付いた、現代学園もののファンタジー乙女ゲームに転生していた事に。そして自身の弟は悪役令息。自殺したり、家が没落したり、殺人鬼として少年院に入れられたり、父に勘当されキャラ全員を皆殺しにしたり───?!?!しかもそんな中、皇麗はことごとく死亡し臣麗の闇堕ちに体よく使われる?! 絶対死んでたまるか、臣麗も死なせないし人も殺させない。臣麗は僕の弟、だから僕の使命として彼を幸せにする。 僕の持っている予知能力で、全てを見透してみせるから───。 けれど見えてくるのは、乙女ゲームの暗い闇で?! これは人が能力を使う世界での、予知能力を持った秀才美少年のお話。

くまさんのマッサージ♡

はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。 2024.03.06 閲覧、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。 2024.03.10 完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m 今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。 2024.03.19 https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy イベントページになります。 25日0時より開始です! ※補足 サークルスペースが確定いたしました。 一次創作2: え5 にて出展させていただいてます! 2024.10.28 11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。 2024.11.01 https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2 本日22時より、イベントが開催されます。 よろしければ遊びに来てください。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

鮮明な月

BL
鮮明な月のようなあの人のことを、幼い頃からひたすらに思い続けていた。叶わないと知りながら、それでもただひたすらに密やかに思い続ける源川仁聖。叶わないのは当然だ、鮮明な月のようなあの人は、自分と同じ男性なのだから。 彼を思いながら、他の人間で代用し続ける矛盾に耐えきれなくなっていく。そんな時ふと鮮明な月のような彼に、手が届きそうな気がした。 第九章以降は鮮明な月の後日談 月のような彼に源川仁聖の手が届いてからの物語。 基本的にはエッチ多目だと思われます。 読む際にはご注意下さい。第九章以降は主人公達以外の他キャラ主体が元気なため誰が主人公やねんなところもあります。すみません。

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

サッカー少年の性教育

てつじん
BL
小学6年生のサッカー少年、蹴翔(シュート)くん。 コーチに体を悪戯されて、それを聞いたお父さんは身をもってシュートくんに性教育をしてあげちゃいます。

処理中です...