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76 幸運の鉱石

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鉱山に着くと、相変わらずの旧文明的な作業場に思わず苦笑してしまう。手作業というのは効率が悪いが、いかせん、技術も人員も足りないので仕方ない。一応これでも他の国の知りあいを当たって技術の模倣はしようとしているがなかなか上手くはいかないものだ。皆技術の提供はやはり渋る。

俺がせめて前の世界の知識でチート出来ていればもっと楽なのだろうが、お菓子以外はからっきしなので仕方ない。

「それにしても・・・視察でこんなところまで来るのはカリス様くらいなのでしょうね」
「そうか?」

後ろをついてくるミゲルがそんなことを言う。

「前に聞いた話だと、他の貴族の方はあまり領地には関心を示さない方が多いとか。権力や富や名声ばかり求めるのが貴族だと」
「かなり偏見が混じってそうだが・・・」
「そんな中で、自分の領地にここまでしっかりと向き合うのはカリス様だけだと神父様が」
「あいつか・・・」

何故か頭の中で、悪い顔をして微笑む神父の姿が浮かぶが・・・あの神父貴族嫌いなのか? 



しばらくして鉱山の責任者に挨拶をしてから俺とミゲルは鉱山の作業を体験することにしたのだが・・・

「あの・・・カリス様。その手の鉱石は?」
「ああ、私も知らないものだ・・・」

開始一発目で早くもおかしな状況になっていた。俺は近くにいた鉱山の責任者に視線を向けるが、首を横にふるだけだった。俺の手には先ほど掘り出したホワイトの鉱石があるが、俺は少なくともこの鉱石の名前を知らない。一応出回っている鉱石の情報は集めるだけ集めていたが、この鉱石の情報は一切なかった。

つまり・・・

「カリス様・・・もしかして、新しい鉱石を発掘したとか?」
「そうなるのかな・・・」
「す、凄いですけど・・・これってとんでもないことなんじゃ」

いや、わかってるよ。これから加工してみて次第だけど、どう見ても上質なものだし、アクセサリーにするにしてもかなり高値で売れそうなのは。でも、それを発見したのが俺というのがまた問題だ。多分たまたまこの鉱石の近くを掘ったのだろうが、それにしても長年ここで作業をしている人間ではなく、間接的な主導者が見つけたというのは、なんとも言いがたいものがある。

現に近くの鉱山の責任者は他の鉱山の人間の職務怠慢を疑ったのかすぐに連絡を飛ばしてるし。どちらにしてもこれはヤバいかもしれないな。いや、プラスに考えるべきか。

「この鉱石の加工に入って貰いたいのだが・・・可能か?」
「は、はい!すぐに!」
「それから、今いる人間で動ける者をここに呼んでくれ。どの程度鉱石として取れるか把握しておきたいからな」
「はい!」

その指示に現場は大きく動く。しばらくその場で観察していたが、確認しただけでもかなりの数が採掘できそうなので、これからの加工しだいだろう。そうして、一度簡単に加工したものを見せられて、俺は思わずため息をついてしまう。

真っ白、ホワイトな鉱石はその純度を高めて綺麗に輝いていた。まるで昔見た真珠のネックレスを思い出す。しかしこれなら・・・

「今から言う個数加工してから、指定の店へと送ってくれ」
「カリス様?どうなさるのですか?」
「決まってるだろ、プレゼントだよ」

デザインも店へと発注して、それから流通の体制を整えるべきだろうな。そんな風に忙しくも充実させてくれた鉱石のことを俺はこのあと密かに『幸運の鉱石』と呼ぶようになったのだった。






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