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6章 今日も隣国はゴタゴタしておりますが、隣国だと乙女ゲームの舞台を鑑賞させて頂けないので萎えています。

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「さて、お手をどうぞガルニエ嬢」

「………アリガトウゴザイマス、アメイジング様」

 ぐぉぉ、慣れない。
 ナンダコレハって言いたい程だよ!
 変にカタコトになってしまったし~!
 ニキとだってまだ数える程しかエスコートして貰ったこと無いのに!

 それを言ったら兄達だって数えること出来るか?と言う程しかして貰ったこと無いけどね?何せちょっと前までアレ男爵令嬢と言う肩書を貧乏だからという理由でスルーをし、極々普通の庶民ですよ?と言う顔をしてのほほんと市井で暮らしていたのだから。

 面と向かって文句は言えないけどね。

「うーん声が硬いねぇ」

 目の前でクスクス笑っている現在私の表情筋が死にそうに成程固まり、更に身体全体も硬直状態になってしまっている。
 そんな妙な状態になってしまった私。
 原因を作っている方は、目の前に居る王都の学園で第2校舎の方に在籍しているために滅多にお会いしたことが『本来』ならば無い筈の、隣国であるウィックロー国のジン・アメイジング様。

 やや切れ長のアクアマリンの瞳の持ち主で、前世でもアナジスタ国でも珍しいと思われるセタールと言う楽器を弾くのが趣味な、隣国の『お偉いさん』の息子―…

 ソレぐらいしか知らない人。

 乙女ゲームでも余り攻略をしていなかったのか、ぶっちゃけるとほぼ情報が無い。
 と言うかね、乙女ゲームでもセタールの楽器情報なんてあったような、無かったような?
 ドッチデシタっけ?
 駄目だ、記憶が其処の辺り朧気。
 多分だけどあまり気にして居なかったのかも知れない。

 私の前世、割と大雑把な性格していたと思うのよ。
 ただ単に細かい設定等忘れているだけかも知れないけどもね?

 それにバッサバッサと斬り付けていく乙女ゲームでの殺人鬼、この場合アレス様のことなのだけど彼の動きや周囲の状況を常に気をつけて居ないと惨事が起こり、バットエンディング一直線。
 気を付けていても何時の間にか1人居なくなり、二人居なくなり…。

 それが今や全く違う展開。
 ある意味私がアナジスタ王国から居なくなったりはしたけど、今の所は誰も殺傷されておらず有難いことに主要メンバー生存中。
 ヒロインだけはよく知らないけれど、何だかあのヒロインってこの世界だと影が薄いって言うか、良くわからないのよね。私がモブだからかも知れないけど、第三者目線で見ていても世間に上手く馴染めて居ないと言うか、噛み合っていないみたい。

 気が付いたら乙女ゲーム設定からほぼドロップアウトしているし。
 ソレでイイのかヒロインよ…。

 それにしても、アレス様の様子を見ても特に殺気立った様子は全く無いし、何方かと言うと楽しそうに笑っていると言う謎な状況を何度も見て度肝を抜かされた程。


 いやぁ、あんなに笑うのねぇ……。
 乙女ゲームでの彼は酷く冷めた瞳で無表情が多かったのに。

 不思議なものよね。
 今も前世のゲームの世界と現実は違うと言う証みたいに、私達とは距離を取っていながらも何処か楽しそうに此方の様子を見詰めている。
 相変わらずその姿は半透明なので、今も魔法を使用して身を隠して居るのだろう。

 そしてその横には可愛らしい狐耳がピクピクと動き、落ち着き無く仕切りに彼方此方と視線を動かしているドミニク君。相変わらず可愛らしい。出来たらあのとてもふわふわで柔らかそうな狐耳を触ってみたいけど、もしかしたら伴侶となる人にしか触らせないかも知れないかも?と思うので未だに実行出来ていない。
 今度聞いてみよう。
 そして出来たらゆっくりと触って堪能してみたい。


 …ドミニク君、其処で何故ペタンと耳を伏せてしまうのかな?
 そしてそそくさとフードで耳を隠すのかな?
 あからさま過ぎましたか、ありゃりゃ。アレス様、眼力強すぎって…えー?
「目に撫でまくりたいって書いてある」って苦笑しているし。笑いすぎでしょう?

 でもお陰で身体に入っている力が抜けていい具合に緊張が解けた気がする。



 そう私、レッティーナは今数日ぶりに船上の人から地上の人へと戻ります。


 ―――――隣国の地、港町ポーツマスで。











「うん、そうそう、いい感じに肩の力が抜けてきたね」

 無駄にハイスペックイケメンの声が聞こえて来ますが、被せるように「(ニキが見たら嫉妬して怒りそうだな)」って笑いながら心拍停止しそうな脅し文句が聞こえて来て、咄嗟に吹き出しそうになったよ!

 やめて~!
 私が好きなのはニキなの!
 でも今はね、他国!隣国!ウィックロー国!
 断じて浮気なんてものでは無いからね!一刻も早く帰るためだから、た、多分!
 …断言出来ない自分が嫌すぎる…。


 ま、まぁ、その、隣国の港町ポーツマスの船着き場にジン様の家の馬車が到着するまで待合室で待っている状態なのですよ。
 そして現在私、レッティーナは何故か大衆の目に晒されております。
 いやぁ~………何故?

 服装から察して恐らくだけど、物凄い各階級のご令嬢や奥方様にその旦那様方が皆此方を伺いつつ、と言うかご令嬢方ガン見?奥方様方は多少マシだけど、でもその目がこーわーいー。滅茶苦茶射殺したる!って気迫で見て来る令嬢もいるのだけど!

 なーぜー??

「物凄く見られているな」

「………アレクサ様が居るからでしょう?」

「視線の向きから考えても私のワケが無いだろう。この視線は全部お前だ」

「エエエ~…何故ぇ」

「ジンが手を引いているからだろ」

 むしろ他にあるか?と言われ、フンと横を向いてしまったアレクサ様は機嫌が急降下したらしく不機嫌そうな顔付きになった。
 目、なんか三白眼ニナッテマセンカ?否、ジト目?
 コワイのですけど!

「私達兄妹は国内では高位貴族ですからね、ですから皆の視線を集めて居るのでしょう」

 サラッとジン様の妹君、マリエルさんから説明が来ましたーっ!
 って、やっぱり高位貴族でしたね。と言うことはジン様達の階級は伯爵以上かな?そして此処、この待合室は貴族用かな?椅子とかそう言えば革張りで高級そう。
 何の皮使っているのかサッパリわからないけどね。前世なら大雑把に牛革かな~とか考えるけど、こっちの世界だと魔物とか普通に居るから何が何だか判別出来ないのよね。
 ガルニエ家のリビングにあるソファーも何も聞かされていなかったからてっきり安物かと思っていたのだけど、レスカ様曰く前ガルニエ伯が気に入って使っていた恐ろしい金額の品だと判明し、オルブロンと二人して使用するのを控える様にしたのよ…。
 だって前世金額にして200万の高級ソファーなんて普段使い等窒息しそうで息が詰まるわ!
 ディラン兄さんだって金額を知ってからちょっと戸惑っていたしね。ジーニアス兄さんだけは数日したら慣れたらしく、今じゃすっかり普通に座って居るけど。
 だから大物なのかもしれないわ。


「迷子になりそうだからでは?」

 ソレはソレでアレだけど。少なくとも今の状態から脱したい!
 私はほっとくと迷子になりそうな女の子ってことで!
 それだとジン様保護者扱いになるけど、更に私痛い子扱いになるけど!此処に居る射抜く程の痛い視線の集中砲火よりは生温い目の方のがいっそマシってことで。


「いや、迷子になりそうとは多少思うけど、一応それとは違うのだけどね?」

 ジン様や、確り聞こえていたのですかい。
 と言うか、私の手を引いているから聞こえないって言うのは小声でも無い限り無理でしょうけど。いや、小声でも無理か?
 そして迷子になりそうなのは認めるのかーい。

「お兄様馬車が到着しましたわ」

 何時の間にか待合室に従者らしき人が来て、マリエルさんに話を付けた後此方に向かってマリエルさんが「さあ行きましょう」と言った後、何故か此方に向かって一つWinkを……。


 あ、物凄く嫌な予感。


「では行きましょうか、レッティーナ嬢。お手を」

「はい」

 何だろう、物凄く全身が痒くなる。
 何とか我慢をして差し出されたジン様の手に自身の手を添える。
 うん、多分震えている。
 いやーだって予想できる物、この後の展開。

 手を添えた途端ギンッと言う音が鳴りそうなぐらい一気に殺気が膨らみ、室内の温度が急激に冷えた。その途端急にジン様の目線が緩やかに甘い雰囲気を醸し出しー…。

「フフ、出来たらこのまま私の求婚を受け入れて貰いたいです、レッティーナ嬢。勿論今すぐに返事は伺いません。私は我慢強いですからね、何時までもお待ちしております」

(これってつまり、船に居た時に言っていたコトだよねぇ~)



 役者だなぁこの人。
 シレッと人が多い所を狙って爆弾落として来たよ。
 一気にざわつく室内と悲鳴。ん?今誰か倒れた音がした。
 そして分かっている癖に不満そうなアレクサ様。何故かそのアレクサ様の頭をヨシヨシと撫でて居るマリエルさん。
 何だろうこの阿鼻叫喚地獄絵図は。
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