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5章 今日も周囲も人間関係もゴタゴタしていますが、国内の紛争やら暗殺やらで物騒な最中、恋人が出来て戸惑いつつも鑑賞致します。
79,3 船の台所革命
しおりを挟むその後詳しく聞いてみたら、隣国ウィックローでは前世の海女さんみたいに素潜りで魚介類を得るのが主流とのこと。あとは、銛とかで突くのだとか。素手や釣りで取ることもあるらしいけど、時々魚や貝類等に毒持ちやら何やらあるので安全対策として手袋は必須とのこと。
そう言えば目の前で素潜りしている人達、全員手袋しているね。
成程、納得です。
そんなワケで現在、数人の前回釣り人立候補者が只今素潜り中。
此処の海域は近場に港があるのだけれど、少し迂回してグルっと回って行かないと港まで辿れないのだとか。険しい崖が此処から確り見えているのだけど、その崖の側は海流が激しく渦を巻いており、接近は危険なのだとか。船の上から見てみると、某鳴門の渦みたいなのが幾つか見えていますが、その渦がデカイ…。鳴門の渦って実物を見たこと無いのだけど、コレぐらいあるのかな?それとも小さい?大きい?比べられないのが残念だわ。
「崖がある辺りは非常に危険だけど近寄らなければ危険は無いし、海の幸が豊富で素潜りには最適なんすよ~」
海の男を自負している現在パンツ一丁スタイルで素潜りしている男は、まぁ…うん。
「普通貴族の令嬢だと「きゃー」とか「いや」とか言って騒ぐものだけどね」
「それ言ったらマリエルさんだってそうでしょう」
「見慣れているし」
「私も」
貧乏な実家、アレイ家では領民に混ざって兄達が汗水垂らしてパンツ一丁で川魚を手掴みで捕獲しておりますからね。あと沢蟹やら海老やらウナギやら、時折亀やらも。
…虫もだけど。
更には夏場畑仕事で暑いからとパンツ一丁スタイルで耕す変態が出現し、領民の女性共に追い掛けられているのを何度か目撃した。
ある意味アレイ領は自由奔放な領地かも知れない。
因みにジーニアス兄さんは子供の頃一度だけパンツ一丁をやって、二度とやらないと宣言したそうだ。何があったのですかね、兄さん。ディラン兄さんは呑気に「彼方此方大量に虫や蚊に食われるからね~」と言っていたが、何処がとは言わなかった。そして何故か「それだけじゃない」と言い、首を横に振るジーニアス兄さん。
…クワバラクワバラ。
「レナちゃんって王都にあるタウンハウスに住んでいるご令嬢でしょう?それなのに見慣れているの?」
それを言ったらマリエルさんもご令嬢では無いですかと言いそうになり、海面で和気藹々と貝や海藻を手に持ち、パンツ一丁スタイルの面々を見て口を噤んだ。
これは確かに見慣れる筈だと。
因みにパンツ一丁スタイルの面子にジン様もアレクサ様も居ない。居たら居たで速攻でこの船上から部屋までダッシュし、一応は乙女の体裁を守る。
…多分無理だけど。
うっかり乙女ゲームのスチル~かぁ!と思って手のひらの隙間から覗いてしまう落ちが付きそうだが。理性?乙女の尊厳?体裁?そんなものはその辺のドブに学園の食堂から攻略対象者達とヒロインの現場を覗こうとした辺りで捨て去っております。
ソレハサテオキ。
「話せば長いのです」
斯々然々とかなり縮めて実家の実態と、実家の借金のカタに隣領のロリコン息子に妾として出されそうになって逃げて来たコト、兄が色々あってアレイ男爵家からガルニエ男爵家の当主になり…と話した。
掻い摘んだつもりだけど、もしかしたら詳細に話したかも知れない。特にクソ親父のせいで妾にされたデュシー姉さんのコトと、ジーニアス兄さんと共に数ヶ月掛けて逃げて王都に来た辺り。
だって目の前に居るマリエルさんの目から滝のような水が目から流れているから。ついでに聞き耳を立てて居たらしい護衛の人と、背後に何時の間にか居た素潜りでパンツ一丁スタイルの男衆が。
何か履きやがれ、そう泣かれていると目のやり場に困るわ。
「あぅ、あぅぅ、お嬢ちゃん苦労しているのだな」
「何って親父だ。それでも実の父親か!」
「人じゃねぇ」
「ううう、殴ってやりたい」
「嬢ちゃん何ならウチ来るか?かみさんも嬢ちゃんみたいな娘が養女になるなら大歓迎すると思うぜ」
「いやいや、ウチの息子の嫁に」
「何言っている。お前の息子より俺の嫁に!」
メッチャ同情引いてしまったようだけど、私隣国の人間だからね?空気読んで言わないけども。気持ちは嬉しいけどね。
「そうですか、皆さん私、ジン・アメイジングと【本気で戦う】と言うことでOKですね?」
それまで私に群がって来ていた男性船員達がズザッと数歩飛び退いた。
素早いなぁ。
「い、いやいやいやいやジンの旦那!勘弁して下さいよ~!」
「俺達とジン様とは無理です、色々と無理です!絵面的にも!」
「スペックが違いすぎますよ~」
「無理!」
「むしろ違いすぎて尊い!」
「抱いて!」
最後物凄い台詞が聞こえた気がしたが、例の筋肉隆々のスカートを履いた彼、では無かった『彼女』が何時の間にかチャッカリと居てその存在感をアピールしている。
と言うより居るだけで存在感が凄い。
更には存在感増すように「むぅぅん」と唸り、急にムキムキの腕の筋肉を腕まくりして見せつけ、「我の筋肉を見よ!」と言うようにポージングを始めている。
某錬金術師に出ていたアームストロン●様にソックリな気がするのですが、スカートを履いていなければ。よく見ればお髭も髪型も似ているような、そうでないような…嗚呼そうか、後ろ髪が長い以外はソックリだわ。
皆そんな彼、いや彼女を視界に入れないようにスルー。
スルー力高いわ…。
そして誰も台詞に突っ込まない。何時もの事なのかも知れない。
「養女なら良いような…」
誰かがポツンと呟いた言葉に、ジン様とこの場に居た全員が尋常じゃない速さで振り向いた。
「馬鹿野郎、俺達爵位が無いだろうっ」
「彼女は男爵令嬢の爵位持ちのご令嬢だぞ」
「今更市井の人になるには辛いだろ…」
いやはや、さっきの説明聞いていたら違うってわかるのでは?下手すると王都の市井の人より劣悪な環境で育っていましたけど。今は違うけど、元は手足も身長も何もかも身体が小さくて栄養不足気味だったし。
アレイ領に居た頃は肌だってカサカサだったし、手足も小さな擦り傷だらけで毎日の洗濯炊事に掃除で冬場なんて悲惨な状況だったし。って、姉妹全員がそんな状態だったっけ。
…長男のカイデンだけはふんぞり返って家のこと全くしなかったけど。
でもさ、王都に来てから何もかも変わったのよね。特に学園の食堂…カフェテラスで働けるようになってから、生活が良い意味でどんどん様変わりし、気が付いたら王都に大きなお屋敷がある、ガルニエ男爵家の令嬢になってしまった。
…今は拉致され、隣国であるウィックローの船に乗っている状況に困っているけどね?
「一般市民の養女は無理だろうな。何せ彼女はあの『鬼神』の妹君だからね」
「「「「「えっ」」」」」
何故皆そこで硬直するのかな。
「鬼神ってあの」
あのって…ジーニアスにいさーん。
妙な感じで隣国に伝わって居るみたいですよ~。
「尋常じゃない武器を使役するっていう」
尋常じゃないって何?
確か近衛兵として支給された武器だと扱い難いとか言って居たのは知っているけど、もしかして両手剣を使っていたのかしら?30キロの重さがあるヤツよね、確か。普通の両手剣だと肉体強化魔法を使うと軽すぎて振りにくいらしく、通常より大きめで重量を増やしているって聞いて居たけど。それが普通では無いってことなのかな~?
「いや、武器が勝手に周囲の敵と言う敵を殺しまくるって言う噂だぞ」
ナニソレどんな魔法よ。
幾ら兄でもチート過ぎやしないでしょうか。
と言うか無理。
「いやいやいや、コロンだかコロンナだかココロンだかって言う小僧を使役しているって聞いた」
それ、コリンさんな。
変な名前で言わないでよ全く。
と言うか使役ってなんだ、やたら出てくるけども。
「そういやさ、そのポポロンって奴足が何本もあったって」
オイ、ポポロンってもう別人の名前だろ。
コの字も無いのかと言うより「ン」の文字しか入って居ないし、三文字でさえない。
と言うか人間やめてないか、足が何本もってそれもうどんな珍獣。もしくは魔獣とか魔人とか人外になっているし。
そして誰だ、「銀の弾丸で倒せないかな」って言うのは。狼男か。
所で「鬼神」の妹とバラしたジン様。ニヤニヤして楽しんでイマセンか?そしてマリエルさん、キラキラした瞳で見詰めて来るのは止めてくれ。何故瞳を潤ませて見詰めて来るのやら。え、あの戦闘能力をとても尊敬していると。
…えーと、そう見詰められると何だかとっても心臓に悪いデス。ハイ。
「と、兎に角だ。『鬼神様』の妹君なら丁寧に接しなければな!」
「ははは、そうだな!」
「うんうん」
「確かに」
「彼氏大大大が3つ付くくらい募集中!」
何度も言うようだが最後は放置で。
彼、じゃなかったアー●ストロン●様似の彼女?が、「むぅぅん」と唸りつつ己の筋肉を披露しているからね。名前…は怖くて聞けない。●ーム●トロング様と似たような名前だったら恐ろしい気がするから。
このやり取りの後、何故だかマリエルさんには常にキラキラと「やだ、無茶苦茶尊い…」とか、「鬼神様の妹君」とか背後でコッソリ?言われて拝まれつつ…。
数日が経過し、ウィックロー国のとある港町へと辿り着いてしまった。
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