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5章 今日も周囲も人間関係もゴタゴタしていますが、国内の紛争やら暗殺やらで物騒な最中、恋人が出来て戸惑いつつも鑑賞致します。

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 Side:ケイン Ⅱ

「アイツは海で一戦交えようとしてるって寸法だろうな」

「アレス一人で!?」

 あの何十もの船に乗ってる奴等を相手に?
 確かに後方の船は速度だけで陸に乗り上げない限り戦力にもならないけど。
 僕に、いやアレスは"僕達"には参加させないつもりなの!?

「アイツの子飼いの子供が先日まで領館に居ただろ」

「え?僕、初耳だけど」

 嗚呼そうか、とレスカが一人で頷いている。
 ムムムッ。
 こういう時僕って駄目なんだよね。将来父親の跡を継いで魔法大臣になるつもりだけど、レスカの参謀って言う感じにはどうしても僕だと不足しているモノがある。努力はしたけど、頭の回転が普通の人とは違うレスカに対し、僕はおっとりしていると周囲にも言われている通りどうしても遅い。
 それについては自覚してもいるけど、どうしても治らない。
 こういう時アレスが居れば…
 今はココには居ない友人、アレスを思い浮かべる。

 アレスだと即座に察して事前に情報を僕に知らせたり、ニキに伝えたりするからこの様に停滞することも無い。

 最近は僕らに『レナちゃん』が入り込んで来たからすっかり忘れていたけど…

 あの子って本当に不思議なんだよね。
 アレスが居なくなってから特にそう思ったけど、レスカにニキ、それに僕の三人だとどうしても間が空いてしまうことがある。以前はココにアレスが入って居てそれが極々普通の事だったのに、アレスが抜けた途端現れた彼女は普段はちょっとのほほんとして居て何処かぼんやりとしているけど、こういう時には速攻でレスカに口を開いて「ええ~!?」とか、普通の令嬢が口にしない言葉を漏らしたりして次々と喋って行き、何時の間にか全ての事柄を把握していく。
 お蔭で結構レスカは絆されて居るし、今では友人扱い(レナちゃんは悪友扱いっぽいけどね~)。
 普通の令嬢なら第二王子にその様に砕けた口調などしないし、ましてや一般庶民の様な極々普通の態度で接したりはしない。だが彼女は最初の頃は兎も角、今は結構大胆不敵。そしてレスカも口では文句を言いながらも了承している始末。
 その上で誰彼にも同じ様な接し方で、ユリア嬢とも大親友となっている。

 う~んこの場にレナちゃんが欲しい。
 でも今は町か。更に言うとココ領館は襲撃者に…うーん、もう殆どジーニアス様が粉砕と言うか木っ端微塵と言うか、「シネ」と言い渡して始末してしまっている気がする。

 鬼神さん、ホント怖い。
 あ、これ内緒。

 だとしたら町まで行って連れて来る?心配だし。その前に彼らがココに戻って来そうだけど。
 …なんてニキに悪いと思いつつもそう思ってしまうと、レスカが「あーええと」とバツが悪い顔をしながら苦笑し、

「これは私が悪いな」

 と独りごちる。

「ううん、情報を得る機会を逃した僕が悪いかな。駄目だね~父さんにも言われているのに、ぼーとしてた。良い機会だし肝に銘じて治すようにするよ」

「すまない」

 レスカに謝れてしまったけど、レスカの側近候補として居るならコレぐらいは出来るように為らないと行けない。アレスが今迄なら役割分担として引き受けてくれて居たけど、これからはそうではない。

 ううん、もっと前から…

 ニキには情報収集とか出来ないし、僕がやらないと。

 なんて思って気合を入れていたら、「やべ」と言いながら笑い出すこの国の騎士団長様。思わずジトリとした目線で見詰めてしまうと、

「悪い悪い、俺達の子供の頃を思い出してな」

 と言って腹を抱えて更に笑い出すアルビオン様。

「あーやべ、おっかしい。ニキも大概青臭いと思ったが、成程流石俺達の息子達だな。あ~…ノアはほんっと馬鹿だよな」

 と、呟く。
 あれ、コレってノア様とアルビオン様って同じ学校に通っていたって事も、同学年だって事も、更には国王と同じクラス同士だって事も知っているけど…

「アルビオン、その話は後に」

「へいへい、ユウナレスカ様っと。んじゃ俺はそろそろモニカが動き出すから、どうすっかな」

 すると突然アルビオン様の目の前にヒラリと一枚の手紙。
 だけどその手紙には確りと『王国』の封がされており、そんな事をするのはレスカを除いて第一王子のガーフィールド様と国王アレキサンダー様以外居らず…。

「アイツ略式で出して来やがったな」

 いやそれでも結構ちゃんとした奴だよ?少なくとも僕は滅多に見た事が無かったし?と思いつつ眺めていると、

「あ~ユウナレスカ殿、王城での1軒、ノアってかアレクサの若造がやっぱ絡んでるってよ」

 え。
 妾のキャメロン様暗殺の事?
 でも何故?彼女、キャメロン様は王城でも奇妙な行動を取ると有名で、更に言うと地位を維持するバックが居なくて…って、あれ?よく考えると奇妙な点が多過ぎるんだけど。どう考えても何故今迄後ろ盾が無い状態で王城に居られたの?

 僕が聞いていたのは、亡くなった前ガルニエ当主の願いで国王に妾として引き取って欲しいって言われて引き受けたって事だよね?
 その後前ガルニエ当主が亡くなってからキャメロン様の奇行が始まり…あれ、えーと。
 と言うかさ、何でノア様って王の妾と言う立場の筈なのに何も地位も無いキャメロン様を殺した訳?それに何故隣国であるウィックロー国に行ったきり?
 ノア様がウィックロー国の王妃に手を出し、更にはアレスがウィックロー国の第一王子であるアレクサ様と二卵性双生児?
 うわ、何なんだよコレ。
 流石に僕も混乱しちゃうよ、コレ。ニキなんて多分最初っから考えるの放棄してレスカを問いただすだろうね、うん、簡単にその光景を想像できちゃうよ。

「やはりか」

「ガーフィールド殿が色々証拠を押さえた様だ。更に言うと、ユウナレスカ殿の元近衛騎士が大分活躍したらしい」

「フ、そうか」

 一瞬レスカは嬉しそうな顔をしー…同時に酷く辛い顔付きになった。
 それはそうだ、このままだとノア様は…

「あの阿呆が。国家反逆罪が適応されるだろうがっ」

 苦虫を潰した様な顔付きになり、アルビオン様は壁に拳をぶつける。途端ヒビ割れる壁。…こんな事考えるのって多分レナちゃんに大分毒されているんだろうと思うけど、「勿体無い」ってあの子ならそう思うよねぇ。

「…勿体無い」

 …レスカ、君も大概レナちゃんに毒されてるよね?今声に出したし。
 そしてアルビオン様、「え」ってポカーンとした顔。

「何でも無い」

 フルフルと軽く首を振ってレスカは答えたけど、アルビオン様は意外そうな顔をして「…何だか懐かしい様な台詞だな」って一人愚痴た。
 あれ、それ僕聞き捨てならないんだけど?
 今聞いているべき時じゃないけど、少しぐらいなら良いよね?アルビオン様ヤケに余裕そうだし。

「誰に聞いたんですか?」

「あ?ん~…かなり昔だが。俺がまだ学園に通っている時、だな。確か俺より年下の下級生で、名を…モーリーと言ったかな、あの御令嬢は」






 * * *

 side:モーリー


「はぁ…やっとだわ」

 やっとココまで来れた。
 いえ、来させて貰ったと言った方が早い。

「ごめんね、デュシー。母様は馬鹿だったわ」
 まさか本気で自分の娘を隣領のゲシュウ相手に売るとは思わなかった。それまで何度も脅すように娘達に言っていたが、騙し討ちするかの様に娘を連れ出されるとは思って居なかったのだ。



『ココよりもっと良い暮らしが出来る』

 そう言われて成人前に連れて行かれたデュシーは、結果ボロボロな状態で見付かり餓死寸前だったと言う。その状態を哀れみ救ったのは、昔私が学園に通っていた時の同級生の息子で商家の跡取り息子。時折様子を見に行っていたそうだが、日々経過するにつれて劣悪な状況へと落ちて行く娘を見兼ね、産まれた乳飲み子共々救い出す決意をして救出してくれた。

 その子は今、ジーニアスが受け継いだ王都にあるガルニエ家でゆっくりと休養していると言う。

「お待たせ致しましたじゃ、モーリー様」

 私の背後には久し振りに身に付けたと言っているのに、何処もサビ一つ付いていない磨き抜かれた鎧を纏った男が一人。

「カッカッカ、しっかしオルブロンちゃんもやりますな?」

「ええ、あの子が指し示してくれなかったら、今回の事思いつかなかったわ」

 まさかアレイ家を脱出するのに、あれほど難航すると思っていたのに、たった一言。
『墓参りに出掛けてきます』これだけであの家を出る事が出来た。

「これまで年に何度か墓参りする度に一ヶ月程家を空けてましたからな」

「ええ…アレイ家のお墓まで移動すると、どうしても一ヶ月位掛かりますからね」

 カルロスやカイデンは一度も訪れたことは無かったけれど。
 ディランやジーニアス達が居た時は護衛として付いて来てくれたから何度か訪れた事があったが、今年は二人共居ない為に出掛けることも家を出る事も既に諦めていた。だが一番末っ子のオルブロンが、

「お母さん今がチャンス!最大のチャーンス!私がジージ達に連絡したから『墓参り』と言って家出ちゃって此方に来て!」

 と一通の手紙をジージ達宛に送ってくれた。

「フォッフォッフォッ、やれやれこれでカルロスに一泡吹かせる事が出来ますわい」

「ですじゃ!」

 そしてジージの横にいるのは同じく領民のエルロン。領民達には通称『A』で通っているお爺さん。だけどこの二人が居る事でこの旅路が随分と気分的にも戦闘が出来ない私でも、大分楽になる。

「モーリー様、大船に乗ったつもりで居て下され。何、途中出て来る魔物等儂等にかかれば赤子同然じゃ」

「だのぅ~むしろ空気じゃろ」

「ほほぅ、ならば儂は手出しせずに様子をみてようかの」

「これジージ、働かんのなら飯食わせんぞ」

「ぎゃぁ、儂を餓死させるきか!?」

「カッカッカッ、ならば働けい!」

「ぐぉ~なんて奴じゃ年寄りを働かせよって!」

「同い年じゃろうが」

「そうじゃったそうじゃった、フォッフォッフォッ」

「とうとうボケたか」

「なんじゃとう!?」

 好々爺な爺さん二人が和気藹々と仲良く?つるんで話し込んでいる様は、極々普通の井戸端会議のようだがその様はまるで違う。
 周囲の警戒を怠らない所か、近寄って来る魔物等には瞬く間に一刀両断にし、速やかに食えるモノはその場で血抜きして解体。角や皮等高価な所は剥いで置き、肉も食える範囲より後々の事を考えやや多目に取り、後は通路脇に置いて置く。こうして置くことで血の匂いに誘き出された魔物等と鉢合わせしないようにし、アレイ領からは滅多な事は無いが他の旅人等に被害が出ないように考慮している。

 非常に有り難い。

 過去墓参りに出向いた時、ジーニアスやディラン達も同じ様な事を何度かしているのを目にしている。
 恐らくジージやエルロン達が教え込んだのだろう。

『カルロスはこんな事を教えなかった』

 恐らく知らないのだろう。
 だが自身の二人の息子はその知識と経験を得る機会を受けた。
 そしてそれは恐らく、自身の娘達も。

「さて、とっととこの場から移動じゃ。何時までも居ては危険じゃからのぅ」

「モーリー様。墓参りの後「いえ」おろ?」

 ジージの言葉に被せるように告げたモーリーに、ジージとエルロンは互いに顔を見合わせる。

「お墓参りはせず、私の御祖母様の元へ参りましょう」

「ほほぅ、という事は前前領主様じゃな」

「儂等が来る前に居た領主様かの~」

「ええ。そこで決着をつけましょうカルロス」

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