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4章 今日もお屋敷も学園もゴタゴタしていますが、働いて・学んで・そして何故か陰謀に巻き込まれつつ何とか奮闘致します。

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 今も背後からゲシュウの気配がする。
 多分付いて来てるよねぇ…ううん、多分でなくて絶対。隠しきれていないのか、時折微かな物音が耳につく。

 ゲシュウって隠密行動とか出来ないタチだよね、馬車に乗ってきた時にも思ったけど無駄に我も強そうだから、感情に任せて行動しそうだし。
 ここで騒ぎを起こしたくないんだよ、空気読んで向こうに行ってくれないかなぁ。私もう「アレイ家の三女」じゃなくて、「ガルニエ家の令嬢」なんだよ?分かってる?
 お蔭で折角ニキ様と来ているのに妙に冷静に為ってしまって、困ってしまう。

 ニキ様も気が付いているらしいけど、無視しているのかひたすら私ばかり視界に入れている。それでも警戒しているのか、足元についさっき魔法陣みたいなものが出ていたから何かをやったのかも知れない。
 ニキ様って確か魔法属性は土だったし、そういった意味では今いる外が一番扱いやすいのかも。

 もう、邪魔!って言っていい?良いよね?
 実際には声に出して言えないけど。だって、怖い。小さい時から不快な目で見られて来たから何をされるのか分かったモノではない。
 言葉だけなら我慢も出来るし下手すると反論だって出来る筈。
 男爵家だからあまり強く言えないけど、この場には私だけじゃない。ニキ様には悪いけど…

「ぐっ…くそ!何だこれは!」

 背後からゲシュウの声が聞こえる。
 多分ニキ様が発動させた魔法で妨害されているらしく、暴れている音と声が聞こえて来る。そして数名の人々の声と共に、恐らく連行されているゲシュウの声。
「離せ無礼者!」とか何とか喚いている声が聞こえて居たけど、やがて人々の去って行く喧騒と共に辺りが静かになった。

 ニキ様一体何をしたの?

 ニキ様の顔を見上げれば、可笑しそうに苦笑した顔。
 んー?

「元々」

「うん?」

 元々と話した途端、堪えきれなかったのか笑い出したニキ様。
 アイツ見事に嵌ったなって、何に?

「ガキの頃レスカとケインとアレス、そしてバーネットと共にこの辺りに魔法で罠を作ったんだよ。レスカとバーネットは共同で火の魔法が幻覚で襲ってくる奴で、ケインは強風が吹き、アレスは魔力でボカして足元が見えなくさせた。で、最後に俺が土魔法で泥沼に嵌めるって奴。ゲシュウ見事に全部嵌った」

「…ぷ」

「く」

「「あははははっ」」

 二人顔を見合わせて大声で笑ってしまう。

「アイツ全部に嵌ったから足が地面から抜け出せなくなってさ、ゲシュウの後を不審に思って付いて来ていた警備兵に捕まって引きずられて行ったんだぜ」

 おおお、それは。
 ちょっとだけ胸がスカッとする。積年の恨みも少しは晴れた、かな。
 よし、帰ったらデュシー姉さんにこの事を話そう。そして姉さんが少しでも笑ってくれたら良いな。

「レナ」

「はい」

 ん?
 何でしょ。急に改まった感じで此方を見詰めて来たけど。

「これで少しは気が晴れたか?」

「…はいっ!」

「多分今回のバーネットとモニカ…婚約発表以降、アイツももうレナにちょっかいを出す事は出来なくなる。おば、いやモニカが色々とヤラカスだろうし」

 それってどうなんだろう。
 そしてモニカ様、やっぱりバーネット様を裏から操っていそうだな~…バーネット様もバーネット様で、何だかんだ言って苦笑しながら容認しちゃうんだろうなぁ。

「俺も、その。いい加減頭に来てたから徹底的に抗争するつもりだ。ただ親父が成人してないからって中々許しを出してくれねーけど…」

「アルビオン様、一人息子のニキ様を大事にしてますものね」

「あーどうなんだろうなぁ。ガキの頃から扱かれ捲ってたから、よく分からん…」

「モニカ様に?」

「いや、両方」

 それは大事に厳しくてもされて来たんだろうなって思う。
 そう呟くと、

「うーんやっぱり分からん」

 と言って困惑した顔をした。
 そうか、扱かれたのか。
 だからなのかな、王都でのスタンピードの時も…おっと、今はニキ様の事に注目しとこうっと。また他所見していたって言われたくは無いものね。
 慌ててニキ様の瞳を覗くと、フッと笑われた。

 これ、絶対一瞬別のこと考えてたって気付いた顔だわ…。

「レナ」

 ううう、今日は随分と沢山名前を呼ばれるなぁ。
 渾名の方だけど、それでもちょっと照れ臭い。
 ニキ様に名を呼ばれると特別感が増す感じがするんだよねぇ…。

 無言のままちょっと目線を下げてしまう。
 だって、ずっと見てると照れ臭い。
 そんな私の目線が下がった事が気に入らないのか、ニキ様の片手が私の頬に当てられる。おうふ、咄嗟にニキ様の方を見てしまったらまた目が合わさってしまったよ。うう、恥ずかしい。
 触れられてる頬、絶対熱上がって居るよね。其処だけ熱く感じるもの。

「俺はレナに結婚の申込みをした」

「は、ははは、はぃ…」

 やばい動揺してどもったー!
 はを何度言ったのやら。笑ってるわけじゃないよ?でも口が可笑しくなっちゃうんだよ!
 そしてニキ様その眼差しーー!
 スッゴイ甘い!愛しげに見られて甘過ぎるっ!
 ここがベットなら「うぎゃああああああ」って叫んで転げ回っちゃうよ!他所様の家だから音量を抑える為に口は枕で抑え込んでだけどっ。

「レナはどうしたい?」

「ひゃ、ひゃぅ…」

 うわあああああああああ!
 どもり過ぎ!もうね、マトモな言葉が出ない!そしてニキ様笑うなや!って「や」って何だやってーー!

「レナ真っ赤になってて可愛い…」

 あうあうあうあう。
 そ、そそそ、そして何で其処で私の頬を一撫でしたのーーーっ!

「ニ、ニキ様っ」

 その溢れ返る色気を誰か止めてー!

「レナ、その顔面白可愛すぎ」

 それどっち!
 いや、もう前と違ってニキ様ってば子供っぽさが抜けて、何でこんなに一気に色気全開になってるのよぅーっ!

「もうっ!からかわないで下さいっ!」

「すまん、つい、な」

 クスクス笑い出したニキ様を軽く睨むと、すっと真顔に為る。
 嗚呼、急に真顔に為るだなんて私の心臓止める気ですかニキ様ぁ!
 と言うか呼吸困難に為りそうで、さっきからちゃんと息をしてるかどうか心配だよ!

「俺はレナに好きだと伝えた。でもレナからは俺の事をどう思っているのか、まだ聞いていない。だから、その…教えて欲しい」

 最後の方は消え入りそうな位小さな声になってしまっていたけど、先日からの私の態度を見ていれば分かると思う。
 ただ態度だけじゃ駄目だよね、声に出さないと良くないよね。
 真剣に、だけど不安そうなニキ様の顔、特にニキ様の緋色の瞳を見詰めて口を開く。
 恥ずかしくて仕方無いけど、ちゃんと私の言葉で伝えたい。

「ニキ様の事が好きです」

 途端引き寄せられて抱きしめられる。
 恥ずかしいから顔を見なくて、見せなくて良いのは嬉しいけど、この密着状態も羞恥心が湧き出してきて恥ずかしくて堪らないっ!更にニキ様の顔が私の左肩に埋まっている状態だから、と、吐息がっ!呼吸音がっ!耳に響いて来るぅ~~~!

「レナ、好きだ」

「は、はい。私もニキ様のことが好きです」

「レナ」

「はい」

「俺のことはニキでいい」

「で、でも」

「そう呼んでくれ」

「はい。ニキ……」

 様って言いそうに為って口を紡ぐ。
 するとニキ様…ニキの身体が震えて…笑ってません?

「もう、笑うのは無しですっ」

「すまん、ついな。やっとレナに名を『様』無しで読んで貰えたと思ったら嬉しくてな。こんな嬉しいならもっと早くにそう読んで貰えたら良かったのにって思ったら、自分の愚かさが可笑しくってな」

 そう言って、緋色の瞳で覗き込んでくる。
 綺麗な瞳。ただ今その瞳はすぅ…と熱が籠もった様に様変わりをした、ほんの一瞬の間。軽く私の唇に、ニキの唇が柔らかく当った。


 え…


 驚く私にニキは目を細めて柔らかく笑いー…

「さっきの続き。レナは今後どうしたい?俺はまだ学生の身分でキッチリと学ばないと為らないし、今後領地を収める者としては途中退学は許されない。それに卒業したら騎士団に所属し、何時か親父を追い越す。それが俺の目標だ」

 レナは?と告げられ、先程のキスの余韻も無く思考しかけー…

「ちょ、ニキっ!」

 考え始めた途端、今度は顎を片手で捉えられて触れるだけのキスを再度される。

「すまん、ちょっと抑えが効かない」

 いやそれ謝ってないからー!
 少し抵抗して顔を背けると、今度は耳元にニキの唇が寄って来てイケメンボイスで囁く。

「でも目標は変わった。俺はレナが欲しい」

「ひゃ、ひゃぁっ」

 うわぁぁぁーーー!
 絶叫したい!!
 そして今、さっきよりも顔が真っ赤になったと思う!慌てて顔を上げてついニキを見てしまったら、何時に無い魅惑的な緋色の瞳の色が更に色彩が濃く感じられて…

 三度目のキスが振って来て、今度は柔らかくではなく上唇をぺろりと舐められ驚いて口を開いた瞬間、ニキの舌がぬるりとヌメリを持って割って入って来た。
 逃げられないように確りと顎を片手で固定され、口内を舐められたと思ったら、今度は私の舌を絡めるように舐められる。

 って、ひええええええっ!
 ニキ様―!
 ニキィさーまあぁー!

 何でキス、しかも濃厚なキスの最中さわさわと背中を不埒な感じで触っているのっ!
 慌てて手でタップを踏むようにニキ様の腕を叩いたら、暫くしてから唇が離れて、

「悪い。レナの魅力に逆らえなかった」

「言い訳にはなりませんっ!」

「ん…そうか、そうだな。すまん。レナと居ると紳士的に接しようとすればする程、理性が外れそうになるな」

「もう一度言いますけど、言い訳にはなりませんからね?」

「これは手厳しい」

 クスクスと笑うニキを軽く一睨みすると、「ん?」という感じで見られた後に何かを思い立ったのか私の綺麗にセットされた髪を一房触れ、そっとその髪の毛に私に見せ付ける様にキスをした。

 あぅ、何なの羞恥で悶え死ぬーっ!

 と言うかニキ様ってこんな風なキャラだったっけ?
 つい先程も色気ダダ漏れキャラに変更して、次のこの状態は何!?溺愛?それともちょっとエッチ??うわ、その先へはまだ行かないでね!心の準備がって何言ってるのよー!

 駄目だ、このままだとニキに流されるっ!
 何だかまた「好きだ」って言ってキスしようと近寄って来たニキの唇に手を添えて封じる。ちょっと残念って顔をされたけど、このままだと身が持たないよ!濃厚なキスは足の力が徐々に抜けてきちゃうから、このままだと立っていられなくなるからね!

「ニキ」

「ん?」

「私、ダンスがまだまともに出来ないわ。すぐに相手の足を踏んでしまうし、それに貴族の令嬢としての教育もまだ終わっていないの。覚えないといけないことがとても多いのよ、言葉使いも為っていないし」

 そうだなって感じで相槌を打ってくれる。
 手を添えているから目位しか見えて居ないけどね。

「もっともっと勉強したい。ダンスも克服したいけど、ドレスを着た時にもっと優雅に、ユリアみたいに美しい立ち姿になりたいの。それに出来るのなら、他の貴族の子女みたいに来年学園に入学してみたい。アレイ家では学校には行けなかったから、幼い時から学校がどんな所か見てみたかったの。それが理由で学園の厨房で働き出したのよ」

 半分嘘言いました。
 乙女ゲームの舞台をコッソリ覗きたかったって言うのが半分程事実です。でも学校は行ってみたかったのは本当で、その憧れの学園で働けるならって応募したのも本当。多少邪な気持ちはあったけどね。

 パチパチと瞬きを繰り返すニキ。
 そう言えばそうだったって思い出したのかな。

「だから私我儘言っていい?その…私、今はガルニエ家の娘だから、来年には学園に入学する事になっているの。結婚は学園を卒業するまで待って欲しいなって…ひゃあ!」

 手の平舐めた!舐められた!
 慌てて手を外すと、また濃厚なキスをされて……


 立っていられませんでした。
 カクンっと崩れ落ちたと思った瞬間、背に回されたニキの腕が支えて更に…うう、舌が絡まる。

「ん、んんっ、んー!」

 ドンドンと手でニキの身体を叩いて正気に戻るように促すと、やっとの事で唇を外され息を吸う。数分間まともに息をして居なかったから、かなり息苦しくて目に涙が浮かぶ。

「さっきから何度も謝っているがすまん、その、レナから結婚の意思を聞いたから嬉しくて暴走した」

 いやそんなアッサリと暴走って。
 む~と睨み付けるのだけど全く気にしていないのか、とても嬉しそうに微笑みガゼボの椅子に私を座らせ、私の眼の前に傅いて、

「レナ、俺の愛しいレナ。私と、ニキ・モイストと婚約して下さい」

 そう言って私の片方の手の甲にキスを落としたのだった。

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