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4章 今日もお屋敷も学園もゴタゴタしていますが、働いて・学んで・そして何故か陰謀に巻き込まれつつ何とか奮闘致します。
閑話 大人な二人 side.バーネット・カモーリ・サザーランド
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「どういう風の吹き回しだモニカ。君は結婚等興味無かった筈だ」
「あら、その興味の無い女に長い事婚約の打診をしている変わり者は誰だったかしら?」
「私だな」
「そうね」
本日は既に頭が痛い事が乱立して居る。
モニカが街中で火魔法をぶっ放したり、ついさっき等侵入者が庭に居たとか。そしてレッティーナ嬢がナイフを突きつけられて居た、とか。その現場をニキ殿が見付け対処した、とか。アオハルをお二人が過ごしたのはまぁ良いとして。
今ユリア・ブルックストン令嬢がレッティーナ嬢の様子を窺って居る様だから、後程医者に見せた方が良いだろう。
「十年だ」
「ふ~ん」
ふ~んじゃないだろうが、と思いつつ執務室に置いてあるワインを勝手に開けて一杯やっている自由人、モニカを眺める。
「一向に君が靡かなかった時間だが」
「昔の貴方は魅力が無かったからね」
「髭が邪魔だと?」
“だから言ったじゃないですか”と言わんばかりに部屋に控えているメイドと使用人の目が痛い。
「さぁ」
「さぁってなぁ…」
机に軽く突っ伏して溜息を吐く。
「少なくとも私は私の身体目当てのアホと魔力目当ての馬鹿とは付き合わないし、その点バーネット貴方は理想的だわ」
「その理想的な男を十年も袖に振っていただろうが」
言いたい事は分かる。当時のモニカには私の力は、いやこの領地と貴族の地位は必要が無かった。だが今必要になったのだろう。その為に己を売る事にしたのだ。
全く、恐れ入る。
「そうね、待たせ過ぎて不要になった?」
「いや、全然。むしろ焦がれ過ぎて焼き付きそうだ」
「あら意外ね」
「そんな不思議そうに見詰めるな、やっと実ったのだ。自制心が無くなる」
おい、そこのメイド、ゴホンッて技とらしく咳をするな。使用人も存在を主張する可の様にワザと音を立ててお茶の茶器を片付けるな。
「そんな度胸がある男では無いでしょ」
「魔力ではモニカには勝てねーよ」
「意気地無しね」
「男とは得てしてそう言うもんなの」
「へぇ…」
クスッと笑うモニカ。
くそう、その顔完全に俺より上位に立って居る顔だよな。実際そうだけど。
「で」
「ん」
ついっとモニカが使用人に部屋を出て行ってと言う様に手で示すと、古参のメイド以外全員部屋から出て行った。扉が閉じる瞬間彼女は部屋の中に魔力を発動し、音が外に漏れない様に消音の魔法を行使する。
「貴方が長い事打診して居るのは知って居たし、悪い気はしなかったわ。ただ若い時は政治的な意味合いで貴方とは無理だった。色々と余計な柵があったし、ちょっかい所か諍いが出そうだったしね」
「確かになぁ…」
十年前。まだ若かった私はココの領主でも無かったし、鼻たれ小僧状態でハッキリいって利発な子供では無かった為、何度もココ港町カモーリは外に行けば積み荷を海賊に狙われたし、中では周辺の欲集りの貴族に良い様に扱われそうになりとかなり苦労して居た。
何度か詐欺まがいな目にも遭いそうになったし、その度にアルビオン様やモイスト家の執事であるグラシア様、ケイン殿の父親のハリントン様に学園の先輩であるフォーカス様に助言やら助太刀やらして貰った。
世間の荒波に揉まれに揉まれたって奴だ。
他の奴からしてみればそんなに苦労している様には見えないらしいがな。
「それが今では立派な領主。誰に見て貰っても恥ずかしくない所か理想的とも言えるわ」
「それはどーもと言うべきか?」
「褒めているのよ。誇りに思っても良いわよ?」
「どーも」
此方を見て肩を竦めるモニカに冷めてしまった紅茶を口に含む。
「で?」
「分かって居るでしょう?」
「まぁなぁ…」
言いたい事は分かる。
派閥だ。
モニカはモイスト家とロドリゲス家の派閥争いに俺、いやサザーランド家を巻き込む気なのだ。確かにそう言った想定も考えては居たし、巻き込まれても別に構わないと思って居る。我がサザーランド家はそれ位では地盤が引っ繰り返ったり等しない。
だが、なぁ…
「弟の様に可愛がって居るニキの、嫁に来るかも知れないレッティーナ嬢の為、かぁ?」
「違うわよ。嫁に来るのよ」
オイオイ。まだ決まって居ないだろうが。
「それにいい加減ロドリゲス家の、いえロドリゲス家とアレイ家の尻拭いをするのも辞めたいしね。幾ら先代の領主に世話になったとは言え、いい加減時効だわ。二十年以上モイスト家が肩代わりしてきたのよ?アレイ家周囲の魔物を駆除するのにどれだけのお金が掛かったのか、領主だと言い張るあのアレイ家のカルロスは分かって居るのかしら。いえ、分かっていないわね。あの男はそう言う奴だし。信じられる?アレイ家を手足と勘違いしているロドリゲス家のお坊ちゃん、ロドリゲス家の領民にモイスト家の領地を通過する際課税し始めたのよ?コッチが請求して居ないのに、さもモイスト家が請求して居る様に見せかけてね」
お~お、こりゃとんでもない事態にまで陥って居る様だなロドリゲス家。それだけ貧困し始めて居るのだろう。
「更に元カーモード子爵の一派とネイハム伯爵と結託し、画策して居て面倒なのよ」
カーモード子爵とは確かロドリゲス家の子飼いの家で、ネイハム伯は親戚だったかな?どっちにしろどちらもロドリゲス家と通じているし、カーモード子爵家は兎も角ネイハム伯は中々貴族の中枢画に入って居て面倒な一角とも言える。
だが先日カーモード子爵家は主が変わって、今は穏やかに為りつつあるとか聞いたが…
「カーモード子爵」
「……ふふ」
「成程な」
モニカがニヤリと笑い、上唇を舌でペロリと舐めた。
…目の前にいるモニカ嬢が暗躍してたって事か、くわばらくわばら。
同時にその政治的手腕も恐れ入る。
「それで、どうなの」
「どうなのって、なぁ…」
分かるけどな。
一応当人からの言葉も受けて置きたい。
態度から言って義務的な事しか言わないだろうけどな。
「別に私の事を好いて居るわけではあるまい?」
「あら、貴族同士の結婚などそんなものでしょう」
そうだけどな、と思いつつも釈然としない思いが其処にある。
「10年待たされたんだけどなぁ…」
「その話にぶり帰るの?」
「それが弟分のニキの婚約者候補の、もしくは不毛になりつつあるロドリゲス家とモイスト家の争いの為ってのがなぁ…」
「『為』じゃないわ。今迄の清算をして貰うのよ。彼奴等どれだけモイスト家にツケを溜める気なのかしら」
「永遠じゃね?」
「ならその前に綺麗に粉砕しとかないと、ね?」
それこそ塵も残らない様にと怖い事言ってるよ。
「ほんっとお前のその性格って」
「貴方は普通の貴族子女みたいな物等求めて居ないでしょう?私はそんな事を出来ない事等百も承知でしょうし」
「だなぁ」
「で?まだ内輪だけど私の婚約者殿?ガルニエ家の支援者となってくれるのでしょう?」
「其処は普通モイスト家でねーの…」
「モイスト家は安泰よ。少なくともアルビオン兄さんと私が存在して居る内はね。ニキは此れからって事でだけど」
「ははは。あ~ホント、モニカは昔からニキに弱いよな」
年の離れたモイスト家当主であるアルビオン様にはキツイけどな。
「当たり前よ、あの子の母親と約束したもの。守るわ」
「ニキが結婚する迄、だったか」
「ええ、そう。兄が健在だから領主に為るまでってのは無理そうだけどね」
その前に結婚すればモニカがモイスト領を出る事になるしな。
だからこその10年、かよ…
「は~…長かった」
「まだ言うの?」
「そりゃよう、お前に惚れてから長年打診して来た俺の心情ってもんがよ」
そこ、そこの古参のメイド。
ゴホンと咳き込むな、「男なんですからシツコイです」って目で訴えるな。私だって自覚してるっつーの。
「フォーカス様に連絡せねばなるまいな」
「表立って巻き込むつもりは無いわよ」
「末っ子のえーと何て言ったか、娘っ子と仲が良いんだろ?聞いたぞ、フォーカス様の親父さん嫌にはしゃいじまって、「末っ子の馬鹿息子に幼な妻が出来たー!」と手紙まで来やがった。届いた当初引き裂いてやろうとしたね、その手紙。嫌味かと」
あっはっはと明るく笑うモニカに溜息がまた一つ出る。
「今からそんなの溜息ばかり吐いて居ると幸福が逃げるわよ」
「アホ。幸せが来たから吐いて居るんだよ」
あらあら、だなんて余裕だな全く。
「で、期間は何時だ」
「そうね、ニキの卒業式前迄位かしら」
「遅くないか?」
「あら、何勘違いして居るの。貴方と私の結婚式よ」
「………は?」
ジトリ、と睨まれてしまう。
嫌だって、え、本当に?
「バーネット様確りなさいまし」
何時もなら黙っている古参のメイドが等々堪りかねて口を出して来た。
こうなって来ると彼女は止まらない。
「だから言ったでしょう。何十年も口を酸っぱくして貴方様に進言したのです。貴方は髭を剃って清潔にすればモテます。なのに何ですか、お爺様の言いつけだとか何とかだとかで先祖返りだからとドワーフの様にするだなんて。大体ですね、本物のドワーフと貴方様は違うのです。そもそも身長とて違うのですよ?」
始まった。
そして堪らずに笑うモニカ。
「ルイ、其処までで」
「モニカ様…過ぎた事を言いました」
ペコリとモニカにお辞儀をするルイ。
って、俺は!?
「バーネット様は言っても聞き入れてくれませんので」
日頃のなんとかって奴か。
信用ねーな。まぁ俺もそう思うが。
「あの三人、いや四人の面倒見てればどうしてもそうなるさ」
四人とはユウナレスカ、ケイン、ニキ最後にアレスの事だ。
あの四名は幼少時それはそれは有名な悪童だった。下手な大人等手を転がす様に操るユウナレスカ、甘える様に笑顔を振りまきつつも並み居る大人を手中に収めるケイン。猪突猛進で暴走するが腕っぷしが良いニキ、そしてメンバーのブレイン役で何処か一歩下がり、冷めた目で見つつ、それでいて妙に寂しがり屋のアレス。皆同様に見目も家柄も良く、狙った可の様なメンバー。
確かに王家に子供が出来て生まれると、その伴侶や側近の地位を狙う貴族が多いからどうしたって子供の数が増える。だが14歳の子達の数は異常だろう。
その為暫くコッチに面倒見る様にとお達しがあった時は『本気か!?』と思ったものだ。何せこちとら親が早々に亡くなったもんで、領地の事やら勉学やら一度に頭に突っ込まなければ為らず、自分の事だけで精一杯だったっつーのに。
あの狸国王め。ほんっと良い性格してるぜ王家の奴等は。
「話を戻すわね。私はこうと決めたらそのまま突き進むわ」
「知ってる」
「だから貴方との婚約話はちゃんと受けるし、結婚もOK」
「あ~…つまり、ロドリゲス家の件が終了したらこの婚約は解消ってわけでは無いと」
てっきりそうなると思っていたから、そうならないように努力しなくては成らないと思って居たんだが。…努力してもモニカは自身のペースを崩さないから、手に入れたと思ってもすり抜ける時はすり抜けて行ってしまうのだが。
「そ、理解した?」
「…良かった」
あらあらまぁって声が古参のメイド…ルイから聞こえて来たがスルーだ。
何せ一気に力が抜けて机に完全に突っ伏してしまったからな。
我ながら情けない姿を晒して居るとは思うが、如何せん十年と言う長い年月の想いが実ったのだ。決して愛でも無く恋でも無く好意でも無く、だが。
「知ってると思うけど、実際形振り構って居られないってのもあるのよ。何せ私貴族の子女としては年月が経ってしまって居るし、この年に為ると『後妻』とか『好色』な馬鹿な奴等か、実家のモイスト家の力と私の魔力、もしくは魔術師団の地位を狙う者ばっかり集って来ててね。正直渡りに船だったのよ」
分かってはいたんだ。だけど、私にだって少しぐらい夢を見させてくれよ……。
「ちなみにロドリゲス家のゲシュウ・ロドリゲスもその一人ね」
「なぬ!」
ガバリと突っ伏していた机から起き出すと、カラカラとモニカが笑う。
「あの男は小物よ。そんなのに私が嫁ぐわけ無いじゃない。おまけにあの男は妾か愛人、只の肉欲対象しか欲して居ないわ。何処までモイスト家を馬鹿にする気かしらね」
「格下の家の分際でか」
モイスト家は伯爵家とは言え、騎士団団長や副団長を実力で勝ち取り、代々勤める名家。それを同じ伯爵家とは言えロドリゲス家は只の伯爵家で、しかも同じ伯爵家でも力量的には下層に位置する。
「ええそう。巫山戯ているわよね?」
「なんとまぁ、恥知らずな…」
この最後のセリフはルイが小さく呟いたのだが、三人しか居ない部屋に思いの外響いた。
「はぁ、時期ロドリゲス家の家督を継ぐ者は存続が出来ないですわね」
「ええ、当たり前でしょう?」
ロドリゲス家は兎も角、ゲシュウは今後政治的な意味で死ぬかもな。良くて教会送りか、それとも…強制労働送りか。しかも一生モノの。ああ、幽閉というのもあるか。
「ふふ、で。協力して頂いて良いってことよね?」
「そりゃあな。俺が十年も掛けて口説いている相手を侮辱したんだ、それ相当なりの報いは受けて貰おう」
「頼りにしているわ」
「おう、任せておけ」
ルイが坊っちゃんと嗜めて来たが、言葉に対して特に責めては居ないなと思っていると、
「ヤルなら徹底的になさいまし。私も腹が立ちますわ。女を何だと思っていらっしゃるのかしら」
発破を掛けられてしまった。
これは珍しい。
「うっし、ヤルか。で、今城下に来てるんだろソイツ」
「ええ、逃げてなければね」
そう言えばモイスト家に兵糧攻め状態を食らっているって話だったよな。
んじゃ、徹底的にやりますか。
「あら、その興味の無い女に長い事婚約の打診をしている変わり者は誰だったかしら?」
「私だな」
「そうね」
本日は既に頭が痛い事が乱立して居る。
モニカが街中で火魔法をぶっ放したり、ついさっき等侵入者が庭に居たとか。そしてレッティーナ嬢がナイフを突きつけられて居た、とか。その現場をニキ殿が見付け対処した、とか。アオハルをお二人が過ごしたのはまぁ良いとして。
今ユリア・ブルックストン令嬢がレッティーナ嬢の様子を窺って居る様だから、後程医者に見せた方が良いだろう。
「十年だ」
「ふ~ん」
ふ~んじゃないだろうが、と思いつつ執務室に置いてあるワインを勝手に開けて一杯やっている自由人、モニカを眺める。
「一向に君が靡かなかった時間だが」
「昔の貴方は魅力が無かったからね」
「髭が邪魔だと?」
“だから言ったじゃないですか”と言わんばかりに部屋に控えているメイドと使用人の目が痛い。
「さぁ」
「さぁってなぁ…」
机に軽く突っ伏して溜息を吐く。
「少なくとも私は私の身体目当てのアホと魔力目当ての馬鹿とは付き合わないし、その点バーネット貴方は理想的だわ」
「その理想的な男を十年も袖に振っていただろうが」
言いたい事は分かる。当時のモニカには私の力は、いやこの領地と貴族の地位は必要が無かった。だが今必要になったのだろう。その為に己を売る事にしたのだ。
全く、恐れ入る。
「そうね、待たせ過ぎて不要になった?」
「いや、全然。むしろ焦がれ過ぎて焼き付きそうだ」
「あら意外ね」
「そんな不思議そうに見詰めるな、やっと実ったのだ。自制心が無くなる」
おい、そこのメイド、ゴホンッて技とらしく咳をするな。使用人も存在を主張する可の様にワザと音を立ててお茶の茶器を片付けるな。
「そんな度胸がある男では無いでしょ」
「魔力ではモニカには勝てねーよ」
「意気地無しね」
「男とは得てしてそう言うもんなの」
「へぇ…」
クスッと笑うモニカ。
くそう、その顔完全に俺より上位に立って居る顔だよな。実際そうだけど。
「で」
「ん」
ついっとモニカが使用人に部屋を出て行ってと言う様に手で示すと、古参のメイド以外全員部屋から出て行った。扉が閉じる瞬間彼女は部屋の中に魔力を発動し、音が外に漏れない様に消音の魔法を行使する。
「貴方が長い事打診して居るのは知って居たし、悪い気はしなかったわ。ただ若い時は政治的な意味合いで貴方とは無理だった。色々と余計な柵があったし、ちょっかい所か諍いが出そうだったしね」
「確かになぁ…」
十年前。まだ若かった私はココの領主でも無かったし、鼻たれ小僧状態でハッキリいって利発な子供では無かった為、何度もココ港町カモーリは外に行けば積み荷を海賊に狙われたし、中では周辺の欲集りの貴族に良い様に扱われそうになりとかなり苦労して居た。
何度か詐欺まがいな目にも遭いそうになったし、その度にアルビオン様やモイスト家の執事であるグラシア様、ケイン殿の父親のハリントン様に学園の先輩であるフォーカス様に助言やら助太刀やらして貰った。
世間の荒波に揉まれに揉まれたって奴だ。
他の奴からしてみればそんなに苦労している様には見えないらしいがな。
「それが今では立派な領主。誰に見て貰っても恥ずかしくない所か理想的とも言えるわ」
「それはどーもと言うべきか?」
「褒めているのよ。誇りに思っても良いわよ?」
「どーも」
此方を見て肩を竦めるモニカに冷めてしまった紅茶を口に含む。
「で?」
「分かって居るでしょう?」
「まぁなぁ…」
言いたい事は分かる。
派閥だ。
モニカはモイスト家とロドリゲス家の派閥争いに俺、いやサザーランド家を巻き込む気なのだ。確かにそう言った想定も考えては居たし、巻き込まれても別に構わないと思って居る。我がサザーランド家はそれ位では地盤が引っ繰り返ったり等しない。
だが、なぁ…
「弟の様に可愛がって居るニキの、嫁に来るかも知れないレッティーナ嬢の為、かぁ?」
「違うわよ。嫁に来るのよ」
オイオイ。まだ決まって居ないだろうが。
「それにいい加減ロドリゲス家の、いえロドリゲス家とアレイ家の尻拭いをするのも辞めたいしね。幾ら先代の領主に世話になったとは言え、いい加減時効だわ。二十年以上モイスト家が肩代わりしてきたのよ?アレイ家周囲の魔物を駆除するのにどれだけのお金が掛かったのか、領主だと言い張るあのアレイ家のカルロスは分かって居るのかしら。いえ、分かっていないわね。あの男はそう言う奴だし。信じられる?アレイ家を手足と勘違いしているロドリゲス家のお坊ちゃん、ロドリゲス家の領民にモイスト家の領地を通過する際課税し始めたのよ?コッチが請求して居ないのに、さもモイスト家が請求して居る様に見せかけてね」
お~お、こりゃとんでもない事態にまで陥って居る様だなロドリゲス家。それだけ貧困し始めて居るのだろう。
「更に元カーモード子爵の一派とネイハム伯爵と結託し、画策して居て面倒なのよ」
カーモード子爵とは確かロドリゲス家の子飼いの家で、ネイハム伯は親戚だったかな?どっちにしろどちらもロドリゲス家と通じているし、カーモード子爵家は兎も角ネイハム伯は中々貴族の中枢画に入って居て面倒な一角とも言える。
だが先日カーモード子爵家は主が変わって、今は穏やかに為りつつあるとか聞いたが…
「カーモード子爵」
「……ふふ」
「成程な」
モニカがニヤリと笑い、上唇を舌でペロリと舐めた。
…目の前にいるモニカ嬢が暗躍してたって事か、くわばらくわばら。
同時にその政治的手腕も恐れ入る。
「それで、どうなの」
「どうなのって、なぁ…」
分かるけどな。
一応当人からの言葉も受けて置きたい。
態度から言って義務的な事しか言わないだろうけどな。
「別に私の事を好いて居るわけではあるまい?」
「あら、貴族同士の結婚などそんなものでしょう」
そうだけどな、と思いつつも釈然としない思いが其処にある。
「10年待たされたんだけどなぁ…」
「その話にぶり帰るの?」
「それが弟分のニキの婚約者候補の、もしくは不毛になりつつあるロドリゲス家とモイスト家の争いの為ってのがなぁ…」
「『為』じゃないわ。今迄の清算をして貰うのよ。彼奴等どれだけモイスト家にツケを溜める気なのかしら」
「永遠じゃね?」
「ならその前に綺麗に粉砕しとかないと、ね?」
それこそ塵も残らない様にと怖い事言ってるよ。
「ほんっとお前のその性格って」
「貴方は普通の貴族子女みたいな物等求めて居ないでしょう?私はそんな事を出来ない事等百も承知でしょうし」
「だなぁ」
「で?まだ内輪だけど私の婚約者殿?ガルニエ家の支援者となってくれるのでしょう?」
「其処は普通モイスト家でねーの…」
「モイスト家は安泰よ。少なくともアルビオン兄さんと私が存在して居る内はね。ニキは此れからって事でだけど」
「ははは。あ~ホント、モニカは昔からニキに弱いよな」
年の離れたモイスト家当主であるアルビオン様にはキツイけどな。
「当たり前よ、あの子の母親と約束したもの。守るわ」
「ニキが結婚する迄、だったか」
「ええ、そう。兄が健在だから領主に為るまでってのは無理そうだけどね」
その前に結婚すればモニカがモイスト領を出る事になるしな。
だからこその10年、かよ…
「は~…長かった」
「まだ言うの?」
「そりゃよう、お前に惚れてから長年打診して来た俺の心情ってもんがよ」
そこ、そこの古参のメイド。
ゴホンと咳き込むな、「男なんですからシツコイです」って目で訴えるな。私だって自覚してるっつーの。
「フォーカス様に連絡せねばなるまいな」
「表立って巻き込むつもりは無いわよ」
「末っ子のえーと何て言ったか、娘っ子と仲が良いんだろ?聞いたぞ、フォーカス様の親父さん嫌にはしゃいじまって、「末っ子の馬鹿息子に幼な妻が出来たー!」と手紙まで来やがった。届いた当初引き裂いてやろうとしたね、その手紙。嫌味かと」
あっはっはと明るく笑うモニカに溜息がまた一つ出る。
「今からそんなの溜息ばかり吐いて居ると幸福が逃げるわよ」
「アホ。幸せが来たから吐いて居るんだよ」
あらあら、だなんて余裕だな全く。
「で、期間は何時だ」
「そうね、ニキの卒業式前迄位かしら」
「遅くないか?」
「あら、何勘違いして居るの。貴方と私の結婚式よ」
「………は?」
ジトリ、と睨まれてしまう。
嫌だって、え、本当に?
「バーネット様確りなさいまし」
何時もなら黙っている古参のメイドが等々堪りかねて口を出して来た。
こうなって来ると彼女は止まらない。
「だから言ったでしょう。何十年も口を酸っぱくして貴方様に進言したのです。貴方は髭を剃って清潔にすればモテます。なのに何ですか、お爺様の言いつけだとか何とかだとかで先祖返りだからとドワーフの様にするだなんて。大体ですね、本物のドワーフと貴方様は違うのです。そもそも身長とて違うのですよ?」
始まった。
そして堪らずに笑うモニカ。
「ルイ、其処までで」
「モニカ様…過ぎた事を言いました」
ペコリとモニカにお辞儀をするルイ。
って、俺は!?
「バーネット様は言っても聞き入れてくれませんので」
日頃のなんとかって奴か。
信用ねーな。まぁ俺もそう思うが。
「あの三人、いや四人の面倒見てればどうしてもそうなるさ」
四人とはユウナレスカ、ケイン、ニキ最後にアレスの事だ。
あの四名は幼少時それはそれは有名な悪童だった。下手な大人等手を転がす様に操るユウナレスカ、甘える様に笑顔を振りまきつつも並み居る大人を手中に収めるケイン。猪突猛進で暴走するが腕っぷしが良いニキ、そしてメンバーのブレイン役で何処か一歩下がり、冷めた目で見つつ、それでいて妙に寂しがり屋のアレス。皆同様に見目も家柄も良く、狙った可の様なメンバー。
確かに王家に子供が出来て生まれると、その伴侶や側近の地位を狙う貴族が多いからどうしたって子供の数が増える。だが14歳の子達の数は異常だろう。
その為暫くコッチに面倒見る様にとお達しがあった時は『本気か!?』と思ったものだ。何せこちとら親が早々に亡くなったもんで、領地の事やら勉学やら一度に頭に突っ込まなければ為らず、自分の事だけで精一杯だったっつーのに。
あの狸国王め。ほんっと良い性格してるぜ王家の奴等は。
「話を戻すわね。私はこうと決めたらそのまま突き進むわ」
「知ってる」
「だから貴方との婚約話はちゃんと受けるし、結婚もOK」
「あ~…つまり、ロドリゲス家の件が終了したらこの婚約は解消ってわけでは無いと」
てっきりそうなると思っていたから、そうならないように努力しなくては成らないと思って居たんだが。…努力してもモニカは自身のペースを崩さないから、手に入れたと思ってもすり抜ける時はすり抜けて行ってしまうのだが。
「そ、理解した?」
「…良かった」
あらあらまぁって声が古参のメイド…ルイから聞こえて来たがスルーだ。
何せ一気に力が抜けて机に完全に突っ伏してしまったからな。
我ながら情けない姿を晒して居るとは思うが、如何せん十年と言う長い年月の想いが実ったのだ。決して愛でも無く恋でも無く好意でも無く、だが。
「知ってると思うけど、実際形振り構って居られないってのもあるのよ。何せ私貴族の子女としては年月が経ってしまって居るし、この年に為ると『後妻』とか『好色』な馬鹿な奴等か、実家のモイスト家の力と私の魔力、もしくは魔術師団の地位を狙う者ばっかり集って来ててね。正直渡りに船だったのよ」
分かってはいたんだ。だけど、私にだって少しぐらい夢を見させてくれよ……。
「ちなみにロドリゲス家のゲシュウ・ロドリゲスもその一人ね」
「なぬ!」
ガバリと突っ伏していた机から起き出すと、カラカラとモニカが笑う。
「あの男は小物よ。そんなのに私が嫁ぐわけ無いじゃない。おまけにあの男は妾か愛人、只の肉欲対象しか欲して居ないわ。何処までモイスト家を馬鹿にする気かしらね」
「格下の家の分際でか」
モイスト家は伯爵家とは言え、騎士団団長や副団長を実力で勝ち取り、代々勤める名家。それを同じ伯爵家とは言えロドリゲス家は只の伯爵家で、しかも同じ伯爵家でも力量的には下層に位置する。
「ええそう。巫山戯ているわよね?」
「なんとまぁ、恥知らずな…」
この最後のセリフはルイが小さく呟いたのだが、三人しか居ない部屋に思いの外響いた。
「はぁ、時期ロドリゲス家の家督を継ぐ者は存続が出来ないですわね」
「ええ、当たり前でしょう?」
ロドリゲス家は兎も角、ゲシュウは今後政治的な意味で死ぬかもな。良くて教会送りか、それとも…強制労働送りか。しかも一生モノの。ああ、幽閉というのもあるか。
「ふふ、で。協力して頂いて良いってことよね?」
「そりゃあな。俺が十年も掛けて口説いている相手を侮辱したんだ、それ相当なりの報いは受けて貰おう」
「頼りにしているわ」
「おう、任せておけ」
ルイが坊っちゃんと嗜めて来たが、言葉に対して特に責めては居ないなと思っていると、
「ヤルなら徹底的になさいまし。私も腹が立ちますわ。女を何だと思っていらっしゃるのかしら」
発破を掛けられてしまった。
これは珍しい。
「うっし、ヤルか。で、今城下に来てるんだろソイツ」
「ええ、逃げてなければね」
そう言えばモイスト家に兵糧攻め状態を食らっているって話だったよな。
んじゃ、徹底的にやりますか。
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※この作品は『カクヨム』『小説家になろう』にも掲載しています。
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