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4章 今日もお屋敷も学園もゴタゴタしていますが、働いて・学んで・そして何故か陰謀に巻き込まれつつ何とか奮闘致します。

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「あの」


「ん?」


「も、もう大丈夫です。一人で立って居られますから」


「離したくない」


 ビクッと無意識に身体が跳ねる。

 だ、だって、だだ、だってーーー!

 心臓が持たないよ!と言うか密着し過ぎ!

 おまけに胸元が見えるからってハンカチで隠してくれるってどんだけ紳士なのっ!

 だめだ悶えるっ!そしてジッとコッチをみないでえええええ!

 恥ずかしくて堪らなくて、色々爆発してしまいそうになるよ!悶えてしまうよ!


 パーシャさんなら鼻血出して萌えてるんだろうけど、私なら違う意味で悶えちゃうよ!だってニキ様ってばこうして密着していると分かるんだけど、結構鍛えてるんですねって私ってば痴女かー!落ち付いてええええー!


 よし、落ち着かないなら落ち着かないで反らそう。

 色々と!


「ニキ様」


「ん」


 やめてー!その「ん」って声、やだ色気が駄々漏れじゃないのよー!何ですかね、急にニキ様色気一杯出してない?ねぇ、今までちょっと子供っぽい所があって背伸びしてる風だったのに、何だか急に大人びた様な気がするんですけど!


 よし、落ち着け。

 落ち着くんだレナ。

 そしてこの事態から脱却するんだ。


 私はモブ。名前の出て来ない乙女ゲームのモブ。

 こんな想定してなかったイベント等…


「そろそろ戻らないと、報告もしないといけないし」


 よし、言った。

 言ったよ!

 これで解放されるよね、ね?


「ああ、そうだな」


 …解放されませんでしたー。

 おぉう、そう来たか。


「急に出て来たから、心配掛けて居るかも知れないし」


「そうだな」


 く、反らせない。

 まぁ自分も何だかんだ言って未だに離れがたくてしょうがないんだけど。ニキ様とくっ付いてこうして居ると何だかとても落ち着く。それに言葉では「大丈夫」て言っておきながら、心の中では震えて居る。


 とか思って居たら、その、あの、何を!?


 ニキ様何をしてるのー!?


「その」


「ん」


「な、何故そこで私の前髪にキ、キスするの?」


「レナが言い淀んでいる姿が余にも可愛くて、つい」


 ついでしちゃうの!?

 可愛いからしちゃうの!?

 それって一体如何言う…


「ひゃぁ!」


 ぐるぐる悩んで居たら、もう一度チュッと唇を落とされた。

 今度はおでこ。


「に、ニキ様!」


 揶揄っているの?

 私がニキ様の事好きだって分かっててやってるの?

 さっきの態度誰がどう見ても…だもんね。

 チラッとニキ様の方を見ると穏やかに微笑む瞳。


「~~~…」


 うう、駄目だ。

 私って前世喪女だったんじゃないかなって思うんだよね。その証拠に男性に対して免疫無さ過ぎるのかも知れない。


 でもオカシイなぁ、兄さん達には特にどうってのは無い筈なんだけど。あ、そこ。兄だからって突っ込みは無しで。

そしてよくよく考えたら同年代の異性との接触って私、特に無いような。


…確かに免疫無いわ。


 長男カイデン兄さんの場合は毛嫌いしてて接触そのものをしない様にして来たからアレは例外として、次男のディラン兄さんは結構懐いて居たと思うんだけどなぁ。

 幼少時、実家に居る時等接触あまり無い様にお互いして居たから、今の感情とはまた別なんだよね。

 あまり懐いて居ると父であるカルロスが五月蠅くなるから、スペック扱いだったディラン兄さんには程々の距離を保って居たし…。


 こうして考えるとほんっと、父カルロスと長男カイデンは一家の癌でしかなかった。


 早々に家を逃げ出てしまった私が言えた義理では無いのだけど、母様は今もあの家で息を殺してひっそりと暮らして居るのだろうか。アレイ家からガルニエ家に変わり、あの家の異常さを思い知ったのだけど、もし私が前世の記憶が全く無く無知で無学のままだったら確実にデュシー姉さんの二の舞だった。


 領民のジージ達に感謝だよね…


 歌とか地面に様々な文字を書いて細かく教えてくれた事に感謝。


「レナ?」


 逃避してる場合じゃなかった!

 ひぃ、ニキ様ってば顔が近い近い、ちかいー!

 心配そうに窺って居るのは分かっているけど、覗き込む顔が近いってばー!

 それじゃなくても攻略対象者なだけあってイケメンなんだからっ

 おまけに声が前世で一番ときめく声優さんの声で困るんだけど!


「何処か痛むのか?それともまだ怖い?ん、震えてる?」


「む、武者震いですっ」


 何だその言い訳は。

 自分でもそう思うけど、他にどう言ったら良いのか分からない。だからって咄嗟にコレは幾ら何でも…っ


「そ、そうか武者震いか……っぷ、くっくっく」


「抱き抱えたまま笑わないで下さい」


此方まで震えちゃうんですよ?確かに武者震いは無いけどぉ…。


「はは、すまん、緊張が解けた」


 ん、緊張?何で?


「レナ」


「はい?」


 目を合わせると決意した様な表情で見詰められる。


「ずっと言えなかった」


 うん?


「何度か言おうとしたんだ。だけど中々決意出来なくてな、その…色々妨害もあったし、ライバルまで出来てしまったし」


「…はい」


 周囲を目線だけ動かして見渡して居るニキ様。

「良し、誰も居ない」って言ってる様に見える。手、無意識なんだろうけど握り拳作って居る辺り、力んでるのな。ついその手を私の片手で触れて添えるとぴくっと一瞬だけ震えた。


「レナ、好きだ」


「…ぁ」


 つい添えた手を離そうとしたら、手首を掴まれた。

 痛くは無いけど、結構強い。


「俺の気持ちは前々から分かっていたと思う。何せ露骨だし。だがその、ヘタレで不器用だからな。花を渡すだけであえて言葉にもしなかった」


「…」


「俺の気持ちを伝えるだけで今直ぐに返事を聞こうとは思わない。だが、その…レナ」


「はい…」


「そのっ」


「…」


「結婚してくれ!」








 * * *







 び


 びっくりしたーーーっ!!


 行き成り結婚って何なのっ!?

 この世界では当たり前なの?!

 そ、それは私だってニキ様の事好きだって自覚したよ?でも行き成りそんな事はって、色々飛び過ぎでしょ?私達まだ成人前でしょぅう~!?しかも私ってば13歳だよ?まだ子供だよ?前世なら中学生位?駄目でしょ、どう考えてもまだ結婚なんて無理!


「で、レナちゃんはそうやってベットに埋もれて居ますのね?」


「…」


 バーネット様に割り当てられた部屋で、ベットの中に良く分からない感情を抱えたままグルグルと考え事をして埋もれて居たら、ふと気が付いたらユリア様が部屋の中に居りました。

 って、私のプライバシー無いなぁ。

 良いんだけどね?「ノックして居たのよ?」って言われてけど、完全に気が付かなかったし。枕を頭の上に乗せて悶々としてグチャグチャした感情のまま、どうやら独り言を延々と呟いて居たらしいし。


「もう、凄い音がして部屋のドアが閉じられたと思いましたらノックしても出てくれませんし、何処か怪我でも為さったのかと思って心配しておりましたら、「仕方ないですね」と言ってメイドさん方が合鍵で開けて下さいましたのよ?」


「すいまじぇぇん…」


 ちなみに私は今混乱して居て泣きじゃくっている。

 ほんっと男性に免疫が無いやら、こっちの年齢が13歳だからなのか感情がゴチャゴチャして居るやらで意外と幼くてみっとも無い事この上ない。いや、自分でも何で泣いて居るのか分からないんだよ。


「レナちゃん、渡せたが入って来てからずっと「ニキ様が」とか「ナイフ」とか「怖かった」とか、「結婚」とか。一体どう致しましたの?」


 ああ、そうか。

 私まだ、怖いんだ。ううん、怖かったんだ。

 でも今は…泣いたら少し落ち着いたかな。


「ユリア様、他に人居ない?」


「ええ、居ませんわ。さっきまでレスカも心配して居りましたが、泣いて居る乙女の部屋に殿方が入ってはいけませんもの」


「うん、有難うユリア様。ううん、ユリア…話を聞いてくれる?」


「まぁ、ふふ。やっと「様」を外してくれたのね」


 結構前々から長い事ユリア様…ううん、ユリアから「「様」付けは止めて下さいまし、私とレナとの仲ですのに」と頼まれて居た。でも貴族の子女としてとか諸々の柵が一気に押し寄せて来て、中々言えなかった。



 今ならいいよね。

 少し甘えたい気分なのよ。

 何時でも甘えている気がするけども。








 * * *








「はい?」


 うん、ユリア様も吃驚だ。


「領主の居る居城で、しかも庭で侵入者にナイフを突きつけられた?」


 ユリアってば目を見開いて驚いております。

 そして由々しき事態ですわ、とゆっくりと口の中で反芻する様に呟き、


「この事はニキ様が皆様に報告して置くといいましたのね?」


「う、うん」


 其処で頷き、ユリアは「ならばこの判断は他の殿方達にお任せいたしましょう。適任ですしね」と言ってから、此方へずいっと接近。


 ユリア、いやその、ユリアさん、ちょっと怖いんですが。


「行き成り結婚を申し込まれましたの?」


「う、うん」


 何だがガシッとユリア様、じゃなかったユリアに肩を掴まれているけど。

 そうそう、現在私はユリアがメイドさんに頼んでくれた濡れタオルで目を時々温めております。脹れそうな程に泣いてしまっていたみたいで、少し恥ずかしい。


 そしてユリアのものすーごく真剣な顔。

 何か重要な事でもあるの?


「流石ニキ様ですわ、ヘタレと思って居りましたのに、やる時はやるのですわね」


 ユリアのニキ様の評価がさり気なく酷い。

 そして何処かうっとりしているユリア。

 うん?


「良いですわ、とても羨ましいですわ…」


「レスカ様に、その、何か言われた事は?」


「あるわけ無いですわ。レスカってば変な時は弱虫ですもの」


 そんなユリアってば、キッパリハッキリ。

 毒を吐いてるしっ。


「昔から駄目なんです、レスカは。最近はそうでもありませんが、幼い時なんて女性をあしらう事も中々出来ませんでしたし。だから学園に入ってから私、かなりヤキモキしてしまいまして…」


 確かに。

 乙女ゲームの強制力もあったのかも知れないけど、厨房から見ていただけでも妙な雰囲気はあったものね。お陰で萎えて居たりもしたんだけど。


 今もヒロインの周囲を窺うのは萎えるもんだから、最近はユリア様とレスカ様のアツアツ状態を見て満喫していましたけども。


 それにしてもイベントとか諸々の展開が早い。今も妙に早いスペースで進んでいる様な気がする。だってまだ学園に入って一年目の9月だよ?秋だよ?なのに既に二年目と三年目のイベントが来ている。しかもヒロインであるアメリー・メメントリー男爵令嬢抜きで。


 今のヒロインの位置はユリアの様な気がするんだよ。

 しかも正当な王道路線を目掛けた位置。


 …ん?

 そう言えばヒロインがヒーローであるユウナレスカ・アナジスタ様を攻略するのって結構簡単だったんだよね、何せチョロヒーローって言われて居た位だし。

 そしてケイン様は友であるニキ様とレスカ様の両名と仲良くならないとどうにも出来ないし、アレス様の件もある。勿論レスカ様にケイン様にニキ様、それにアレス様と全員仲良く為れないと全員から洩れなくスルーされる。一人だけ絞るとどうにも為らないし、他の貴族子女と同じ扱いに為る。

 そして…


 う~ん…


 何か引っ掛かるな。

 もう一度整理しよう。


 まず、ユウナレスカ・アナジスタ様。

 この方は攻略がし易い。

 本来はユリアの事が好きなのに自分で好きな事気が付いて居なくて拗れて居て、その後決定的な事件が起きて仲が完全に修復不能となる。


 あれ?

 待って。

 何で修復不能となるんだっけ?

 駄目だ思い出せない。

 仕方ない、次にアレス・バーンド様。

 この人も一見簡単そうに見えるが彼方此方張り巡らされた罠があり、正解を出さないと徐々にアレス様が壊れて行く。ハッキリ言ってかなりの難関なんてもんじゃない位。

 そして最後は皆様も知って居る通り、殺人鬼へと変貌して行く。


 …相変わらず怖い。

 でも引っ掛かる感じがしない。良し、次。


 ケイン・ノスタルジア・ジアス様。

 友情が第一な人だったりするんだよね。だから友であるレスカ様やニキ様と仲良く為らないと中々心を開かないし、甘えん坊な所があるから…あれ?うーん現実は違うって奴かな?ケイン様あんまり甘えん坊って気がしないんだよね。どっちかって言うと優しく接してくれる。現実だから違うって事なのかな?

 でも意外と悪戯好きだよね。これはゲームも現実も同じ。

 先日もニキ様が飲んで居た御茶に塩入れて居た。吐き出していたニキ様は涙目だったよ。


 そして…ニキ様。

 実は乙女ゲームの攻略対象者で難関な人、だった気がする。ヒロインが慰めても明るく接しても中々心を開かない。理由は彼の心の中に何時までも初恋の人が居るから。

 …初期設定だけどね。ゲーム中はそんなのは何も言わなかったし。あ、でもヒロインと少し仲良く為った時にポロッと漏らして居たイベント?みたいなのがあった。


「卒業したら故郷に帰って、不幸な境遇に陥って居る子をどうにかしたい」


 とか何とか。これも本来なら「子」ではなく「娘」だったらしいのだけど、ゲームにする際に男でも女でも受け取れる様に変更したのだとかなんとかって、スタッフがどこぞの雑誌で語っていて…


 んん?

 待て待て。


 違う。


 そうだこの後だ。


 今って、と言うかこの今の状態ってイベントって二年か三年の辺りに当たるんじゃないだろうか。

 その時って確か、ええと…王城で、確か。


「あら、何かしら?」


 ユリアが急に頭を上げて廊下の方を窺う。

 何だろう?確かに慌ただしく何人かの人達が廊下を走ったりして居る音が聞こえて来る。

 ユリアが部屋のドアを開けて外にいる護衛コリンさんに「どうしましたの?」と聞いて居るがコリンさんは分からないと困惑して居る。

 本来なら話を聞いて来たい所だが、護衛対象であるお嬢様方を置いて行けないと私達の傍を動けないでいるコリンさん。そんな私達の所にメイドの一人が顔を出す。


「皆様慌しい様ですが、一体何があったのです?」


 ユリアが問うと、メイドさんが戸惑った様な様子で言葉を述べる。


「それがそのっ、モニカ・モイスト様とバーネット様が御婚約を為さると…」


「「はい!?」」




 先程の間者が何かしたのかと思っていたら、思って居た事と全く違う展開が起きてユリアと二人、顔を見合わせてしまった。

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