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4章 今日もお屋敷も学園もゴタゴタしていますが、働いて・学んで・そして何故か陰謀に巻き込まれつつ何とか奮闘致します。

55 ニキ・モイストside Ⅱ

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 城中をレナを探して走る。

 途中年配のメイドに叱られたような気がするが、「すまん!」と一言謝ってさっさと去った。

 今回だけは大目に見て欲しい。


 レナが去ったと思われる方向を闇雲に探してみたが見付からず、それならばと滞在中レナに与えられた部屋に足を運んだが不在だった。何処に行った?と思案して居ると、「きゃあ!」と言う悲鳴のような声が聞えて来たので慌てて声がした方に向かう。

 其処は昨日レナが歌っていた領主館の庭園。

 その更に奥…背後に海が見える場所、其処にレナが首元にナイフの様な鋭利なモノを当てられて居て、怯え切った顔をして捉えられていた。


 大丈夫、落ち着け。

 レナは脅されて居る様だが怪我はして居ない。

 だが今にもその鋭利なモノはレナの透き通るような白い肌に刺さりそうで、肝が冷える。


「やあ」


 レナを捉えて居た奴が口を開く。

 って言うか「やあ」って何だ「やあ」って。

 余裕かよ。

 俺のレナを離せ鬼畜が。

 傷付けたら同じ傷を、倍だ、いいや倍じゃ生温いな。

 十倍にして返してやる。


「怖いねぇ」


 くぐもった笑い声が聞こえる。

 ほんっと余裕かよ、コイツ。

 ギリギリと歯を噛みしめてレナを捉えて居る奴を睨み付けると、ふとレナがコッチを見て驚いた様に目を大きく見開く。


「ニキ様血が」


 口内に錆のようなモノが広がる。

 下唇噛んじまったかも知れねぇな。

 だが俺の事はどうでも良い、舐めとけば治る。


「レナを離せ」


「あの子は無事か?」


 あの子?あの子って誰の事だ?

 それよりレナだ。急にガタガタ震えてすっかり怯え切ってしまっている。それはそうだろう、鋭利なナイフの様なモノで脅されて居るなどそんな経験等貴族子女じゃなくてもしたくないだろう。


「市井で人攫いに攫われた子だ」


 あの薬を嗅がされた子供か。

 何だ?あの子供の関係者なのは分かるが、その確認の為だけにレナを拘束して居るとでもいうのか?


「無事だ」


「そうか」


 そう言えばこの輩、日が出て居ると言うのに顔が全く見えない。それ所か気が緩むと姿まで闇に沈みそうになる。


「ふ、効かぬか」


「何が」


「コッチの話だ」


 ニヤリと奴の口元が歪んだ気がした。

 途端レナの震えが更に悪化する。何だ?何か魔術でも使われているのか?


「今何処に居る」


「知らん。本当だ」


 すると「フム」と言って頷いた。

 何だ?この動作何処かで見たような気がする。

 何処でだ?


「お前が言うならそうなのだろう」


 そうレナを拘束して居た犯人が言った途端、


「きゃっ…」


 ドンッと犯人がレナの背中を力強く突き出し、此方に力強く突き倒して来た。


「レナ!」


 慌てて地面に倒れ込みそうになる彼女を引き寄せて抱き締めたのは良いが、レナの顔は真っ青だ。そしてガタガタと震えが止まらない。

 そうこうしている内に何か大きなモノが崖下の海へ飛び込むような音がして、慌てて眼下の海を見るがもう何も、痕跡さえ見えなかった。



 海に飛び込んだのだろうか?





「レナ?」


 今だ小刻みに震えて居るレナを落ち着ける様に抱き抱える。

 彼女の頭は俺の心臓の部分。

 良く言うだろ?安心させるには鼓動とかを聞かせると良いって。これって子供に対してだったっけか?誰に聞いたのかも思い出せない程古い記憶だから、良く思い出せん。

 背中をぽんぽんと軽く叩くと少し落ち着いて来たのか、震えが徐々に収まって来る。


 それにしても…

 役得だ。


 だが下に目を向けるな俺。

 我慢しろ。

 今目を下に向けては駄目だ。

 そしてさっきから当たっている彼女のその、何て言うか…柔らかいのが、いや彼女は触っているとフワフワして居ていい匂いがするからもっと抱き締めて居たいのだが、今のこの服装は駄目だ。男装したままだが彼女の大きな胸が当たって居るし、着て居る服からその、美しく艶やかな綺麗な白い肌のた、谷間が…っ!


 何故男装用の服装なのに、胸元が見えるんだよこの服ー!

 とか思って居たらボタン取れて居たのか、成程…

 もしかしてさっきの輩が外したのか!?

 それとも単に男性用だからサイズが大きいからか?


 あああ、混乱し過ぎだろ落ち着け俺。

 冷静に、冷静にな。


 だが下を向くなニキ!

 いや向いても良いが谷間は見るな!

 顔とか髪とか別の場所を見るんだ!

 耐えろ!男だろ!紳士になるんだ!

 俺は彼女に嫌われたくない!


「あ、ありがとう御座います」


 まだ微かに震えて居るが先程よりも落ち着いたのか、青白かった頬にほんのりと朱の色彩が乗る。


 可愛い…。


 何度か手を繋いだりダンスをしたりして接近したことはあるが、今の様に抱き締めて居るなんて事はほぼ無い。柔らかいなぁとか瞼が意外と長いなぁとか、桃色の唇が愛らしいなぁとかついつい思ってしまうが口に出さ無い様にする。

 今聞く事はそれでは無いしな。

 それに思う事は他にもあるわけで。


「怪我は無いか?」


「はい。ですが、その、腰が抜けました~…」


 力が抜けたのか、余計俺に凭れ掛かって来るレナを慌てて抱え上げる。


「ほんと、情けないです。ナイフみたいなので脅されてしまったら、急に怖くなってしまって」


 その直後俺にきゅっと力を入れて抱き着いてくる。


 …無意識だろうな。


 嬉しいけど、その、な?

 胸の形が変わって押し付けられているので勘弁してくれ。

 そして俺、下向いてしまいました。紳士失格だな。

 は~…と盛大に吐息を吐くと、「うん?」と言う顔で此方を窺うレナ。

 近い。

 懐から大きめのハンカチを取り出し、少しだけ目頭にある涙を拭ってからレナの胸元を見えない様にスカーフを首に巻き付け、胸元を覆う様にした。


「あ」


「察してくれ…」


「はい…」


 真っ赤になってほんの少しだけ顔を背けるレナ。

 だがお互い抱き着いたまま。と言うかいつの間にレナの手が俺にしがみ付いているんだよな。これ、期待して良いか?

 本来なら侵入者が来たのを報告しなくては為らないのだが、もう逃げてしまった様だし、少しぐらい良いよな?


 と言うか不思議なんだが、レナの悲鳴が俺に聞えたという事は他の者にも聞こえた筈なのだが、どうして誰も来ないんだ?



(注:皆さん察して来て居ないだけ。レナが悲鳴を上げたのは、ニキのせいだと思われている)

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