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4章 今日もお屋敷も学園もゴタゴタしていますが、働いて・学んで・そして何故か陰謀に巻き込まれつつ何とか奮闘致します。

番外編 彼に憩いはやって来ない

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 今回の番外編の時系列は四章目の辺りです。



 ハロウィンを書こうとしたら間違った方向に進んだ件。



 ガーフィールド視点です。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇





「何と、留守なのか…」



「申し訳ありませんガーフィールド様」



「いや連絡も無しに唐突に来た私が悪かったのだ」



 私、ガーフィールド・アナジスタは今ガルニエ家の門の前で愕然と立ち尽くして居た。

 何せここ暫くの激務に加えて王城での妾のキャメロンの奇行に翻弄され、体力的にも精神的にも追い詰められて居た。



 そんな最中少しでも『憩い』が欲しいと、彼女――レッティーナ・アルセーヌ・ガルニエ男爵令嬢に会いたいと訪れた。

 無論此れは此れで情けないとは思うのだが…。

 そしてその憩いたいと言う気持ちは見事に不発に終わった。

 門番が大変申し訳無さそうに告げる声に少しばかり畏縮して居るような気がするのでその顔をよくよく見て見ると…



「おや、君は」



「あ、はい」



 ビシッと硬直して固まる門番。

 敬礼して無いか?いや、しなくて良いから。しかもこんな所で。幾ら私が馬車から降りて居るからとビシッと音が鳴る位に再度敬礼しなくていいから。寧ろ止めてくれ。



「あ・れ~?門番のおじちゃん弄られてるの?」



「は?」



「お、オルブロン様!ち、違います!」



 馬車の片隅に佇む小さな女の子が大きな栗色の瞳を何度か瞬きし、驚いた顔をして此方を見詰めていた。















「フォーカス様?」



「ん?ああ。ガーフィールド殿か。久しいな」



 気のせいだろうか、目の前でフォーカス様が10歳にも満たない小さな幼い女の子の手を繋いでいるのだが…

 しかも、その子は何処かレッティーナ嬢に似ている様な気がする。

 門番がお嬢様っ!とかなり慌てているのだが、男爵家のお嬢様がフォーカス様と馬車にも乗らずに徒歩で此処まで貴族街を通って歩いて来たと言うのか?

 いや待て、そう言えば先日ガルニエ家で養女の申請があった気がする。するとこの子がそうなのだろうか。だとしたら淑女教育はまだ行って居ないのだろう。



「フォーカス様、この方は?」



 キョトンとした顔でフォーカス叔父上に問う少女。

 一瞬叔父上が困ったなと言う顔をした瞬間、目の前の少女の態度は一変。



「失礼致しました。私はこの館の主、ジーニアス・アルセーヌ・ガルニエの末妹であり現アレイ家の末の席を頂いて居ります、オルブロンで御座います」



 と、見事なカーテシーを取った。











 * * *











「…驚いたな」



「だろうな」



 折角なので!と末っ子…オロブロン嬢に勧められ、ガルニエ家の居間へと通された。



「何というか元気な娘だな」



「それが取り柄の様な娘だからな」



 クスっと笑う叔父。

 …ん?何だか嫌に親密な様な。

 そう言えば幾ら幼いとは言え馬車にも乗らずココまで徒歩で来るとは。元気が有り余って居ると言うのか?



「言っとくが背後から勝手にだが、騎士団の者が数名護衛に付いて居たからな」



 だから安全だと、そう言う問題では無いだろう。



「でもだなぁ」



「オロブロンが「馬車はお姉ちゃんの大量なクッションが無いと死ぬ!主にお尻が!」と言ってな、どんなに勧めても馬車に乗ろうとしないのだ」



 何でも大量のクッションか、さもなくば輪っか型のクッションが一番良いのだそうで、って何だそれは?



「そんな理由で」



 つまりガタゴト揺れる馬車の座席に座るのが苦痛だと。



「まぁオルブロンの場合馬が怖…「いやあああ!知られてたー!」…オロブロン、お前なぁ」



 恐らく着替えて来たと思われる先程の小さな令嬢がドアの前で絶叫して居る。



 この自由奔放さ、流石レッティーナ嬢の末妹って感じがするな。

 他の王都の令嬢だと人前でこの様な大声は出さない。ふむ…部屋の隅に居るメイドがハラハラしている所を見ると、淑女教育はまだ始まって居ないのだろうか?

 実家のアレイ家は田舎で、王家の暗部の報告に『女性に対しての教育は一切行って居ない』とあったな。だが先程のカーテシーは…年齢的なモノでまだまだと言う所かも知れぬな。



「うわーん!フォーカス様にバレない様にして居たのに~~!」



「いや、見てたら分かるだろ。あの怯えようは」



「えええええええええええええええええええ」



「『え』が多い。後大声。淑女になりたいのだろう?」



「ふえ、ふえーん!」



「落ち着け」



「それ無理だよぅうう!一生懸命堪えて居たのにぃー!」



「嫌なら嫌と言えば良い」



「で、でもー乙女の秘密を」



「乙女?」



「ううう、フォーカス様酷いー!」



「ははははは」



 ポカポカとソファーに座っている叔父の膝に飛び乗り、胸元を叩くオルブロン嬢。



 …何だ?



 一体何なんだ、このモドカシイ様な妙に微笑ましい光景は。

 部屋に控えているメイド達までほのぼのとした微笑ましい笑みを浮かべて見詰めているでは無いか。



 と言うか、幾ら少女とは言え膝の上に乗るのは不味いのでは…



「はぅぅぅ、イイデスいいです。ロリですね、殿方のお膝はロリの特権ですね、そうですね!少女いや、この場合幼女!?むしろ養女!これは正義ぃ!ふおーーーーぉーーー!タマランーー!」





 廊下から奇声?が聞こえて来るんだが。

 タマランってなんだ、それに幼女と養女って誰が上手い事言えと。

 振り返って部屋のドアを見ると、隙間から………



「赤い目と赤い液体を垂らして廊下を汚して居る怪しいメイド(妖怪)が見えるんだが」



 廊下に血溜まり?らしきものが…ドアから此方の部屋に溢れて来て居ないか?



「あ、それメイドのパーシャさんです。スルーお願いします」



「無視で」



 とか言って居るうちに颯爽と一人のメイドが現れて、鼻血を垂らして居るメイドの後頭部を殴って昏倒させ、そのまま廊下を引き摺って行った。



 …鼻血の後を付けながら。



「ユイさーん誰かお掃除お願いします~」



「はい、わかりました。失礼いたします」



 そしてもう一人のメイドがお辞儀を一つして扉を閉じて去って行った。



「一体何だったんだ」



「ガーフィールド殿、気にしたら負けだ。あの鼻血メイドパーシャの精神構造は謎だ。だから謎生物として認識しろ」



「何なんですかそれは…」



「うーん、きっとそう言う不思議ちゃん?」



 コテンッとオルブロン嬢が小首を傾げており、そのオルブロン嬢の頭を撫でて居るフォーカス様…。

 これ、無意識だろうな。

 先程から仄かに漂うこの雰囲気って一体。











 どう見てもその、少女と甘い、気がするんだが……















 帰宅する事に為った時、見送りをしてくれた使用人達が教えてくれた。



「オルブロン様はその、年齢差をモノともしない姿勢でフォーカス様を口説き落とし中でして、この事はフォーカス様のご両親もご了承して頂いております。ですが、どうか他言無用でお願い致します。また温かく見守って頂けるようにお願い致します」



 と、深々とお辞儀をして懇願された。



 え。

 フォーカス様、と。

 年齢差どれぐらいあるんだ、あのオルブロン嬢と。

 オルブロン嬢の年齢は6~10歳ぐらいだよな?(実際は8歳)









 …



 ……



 ………



 憩いに来た筈だったのに、虚しくなったのは何故なんだろうな…



 
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