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2章 今日も学園はゴタゴタしていますが、学園の外までゴタゴタしていて観賞しようとしてもどうやら無理な様です。

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 人々の悲鳴や叫び声、それに合わせて様々なモノの轟音が響き渡る。


 女性の助けを求める声。

 子供の泣き叫ぶ声。

 大の大人の男の悲鳴と怒声。

 誰かが逃げろと叫ぶ。

 そしてそれらの声とは全く違う声。


「来やがれこの野郎!」


「お前達の相手はコッチだ!」


 時折聞こえるのは自警団やら傭兵やら冒険者達の勇ましい声。

 対照的に市民達はパニックを起こしているらしく、それらを諫めて迅速に逃がす騎士団の声が聞えて来る。そして騎士団の後方に控えているのは魔術師団だろうか?魔術的な文様を纏ったものやら護符を持つもの、杖を翳す者もいる。


 剣と盾を持った騎士が周囲を守る様に固め、その騎士達の前に冒険者達が忙しなく走って行く。

 そして冒険者達に指示を出している者がいる。

 その者の指差す方角を見ると、遥か彼方に1台の馬車がかなり無理をしているのか高速で此方側へと向かって来る。絢爛豪華な飾りが施してある辺り、かなり高位の貴族の馬車なのだろうか。その馬車を引いて居る御者は何度も馬に鞭を振り、逼迫した状況を醸し出している。

 それはそうだ、この混乱の原因であるモノが馬車の背後から大量に押し寄せて来ているのだから。




 周囲をぐるっと見渡すと、この場所は一度来た事がある。

 三男のジーニアスと共に、実家から二人必死で逃げて来た時に通った王都であるロメインの門を通った時に見た光景だ。初めてココに入った時にこれまで見て来た街や村との違いを見せられ、圧倒されたものだ。特に周囲の家々と実家のおんぼろ屋敷と比べてしまうと涙が出て来る程に違って来る。

 例えば実家が築軽く見積もっても親の年は軽く超えてるよね?と言う程に雨漏りは当たり前で、ドアの蝶番が錆びてヒビが入ってしまい、等々砕けてしまうまで使い切った後、その後のドアは開かずのドアになった。

 …正直に言うと、開かずではなく開けられずなのだが。

 仕方なしに取り外して蝶番が壊れたドアはその後薪になったのだが、ドアの先の部屋は冬場は死ぬほど寒くて堪らなかった。

 ちなみにそのドアの先の部屋は当然アレイ家の…うん、今はそんな事を思い出している場合では無いよね。




 王都に入ってからと言うモノ日々があっという間に過ぎてしまい、二度とこの場所に足を向けたことは無かったなと思い返しつつ…いや何で私此処にいるんだ?

 おかしいな、と首を捻る。

 周囲は混乱の極みなのに対し、私は嫌に冷静だ。




 だって…


 私以外の色が全てセピア色だからだ。


 まるで昔見た光景の様に、私だけが此処に取り残されていて。

 まさか何かの暗示?それとも?

 うーん…まさかのゲームのイベント部分だろうか?


 最近思い出したのだけど、私は前世で『全ての攻略ルートをクリア』していなかったのでは無いのではないのかと思う様になった。そうで無ければ所々おかしい所が多い気がするんだよね。

 おまけに全員の攻略対象者の名前を思い出せていない。

 二名程どうしても思い出せないんだよ。


 一人目は第二王子のユウナレスカ様。

 ユリア・ブルックストン様の婚約者で甘党。現在ユリア様のプチストーカーではないかと疑って居る。これはケイン様も頷いて居た。


 二人目は宰相の息子のアレス・バーンド様。

 この人の壊れっぷりは…リアルでは今どうなっているのだろう。予想だと壊れてるんじゃないかって思うんだけどね。


 三人目は騎士団団長の息子のニキ・モイスト様。

 最近思い出したのだけど、ニキ様は初期設定段階はニキータと言う名前だったのだけど、本設定になってからニキへと変更されたんだよね。


 四人目の魔法大臣息子のケイン・ノスタルジア・ジアス様。

 次期当主候補らしいんだけど、ゲームの性格とは違っていて職場の厨房のおば様達とよく学園の出来事等の噂話をしている。ビビーネおば様がとても可愛がっているんだよね。娘がいたら嫁がせたかった!と厨房で苦笑交じりに話して居るし。


 五人目は隣の国のジン・アメイジング様。

 お偉いさんの息子さんって事しか思い出せない。先日の準メリーとキャムデン辺境伯伯爵令嬢の騒動で靴の修理費請求しなかったのかな?今度おば様達に聞いてみよう。


 後二名居た筈なんだけど、ここまで出かかって居て思い出せない。


 とは言え一応一人だけ思い当たる人は居る。でもなぁ、苗字が違って居るんだよね。顔はどうだったっけか、正確には思い当たる人よりもう少し鍛練な雰囲気で高貴で、おまけにやけにカッコイイ装束を身に纏っていて―…



「ダメ!ア――様は死なせないっ!」


「え?」


 あれから少し時間が経ったのか、気が付いたら周囲のセピア色だった色は急に元の色彩に戻っていて、まるで現実の様で。そして何度も聞いたことがある女性の声がした方を向いたら、一人の倒れている少年、…見た事が無いがかなり高価だと一目見て分かる程の服装を纏った者が倒れており、その上をアメリー…元の世界の基準で言うなら乙女ゲームでのヒロインが庇う様に被さり、そのアメリー…ごめん、やっぱり言いなれない。

 厨房のおば様達の様に言わせて貰えば、少年を庇った準メリーに襲い掛かって来た魔物が咆哮を上げてその牙を今にも突き立て様と…


「危ない!」


 気が付けば身体が動いていた。

 先程と違うセピア色から変わった色彩の最中、どうみてもこの光景は現実にしか見えず。そんな最中一方的だが見知った相手がむざむざ殺されるなんて冗談ではない。私はそこまで冷徹な人間ではないし、非情にも為れないただのお人好しだ。

 幼少の時より見よう見まねで覚えた身体強化能力をアップする魔法を使い、心配性の兄のジーニアスから貰った護身用に持っているショートナイフを懐から取り出し、咄嗟に魔物に切り付ける。良かった、どうやら私は幻を見ているワケでは無い様だ。


 最もこんな現実は嫌だけど、でも少なくとも救えた。

 魔物の喉笛に突き刺したナイフを力任せに引き裂くと、鮮血を噴いて猪の様な魔物はドッと言う音を立てて倒れたのを確認し、背に庇って居る準メリーの方を向いて声を掛けようとすると、


「きゃあ!」


 準メリーの悲鳴が聞こえた途端背中が一気に熱くなり、喉から何か熱い液体がゴポリという音を立てて上がって来て、口内を圧迫する。

 抗いにくい嘔吐に似た衝動に眩暈を覚えた途端、全身が硬直して崩れ落ちる感覚を覚えたと同時に、思い出す。


「え…?」


 徐々に視界が暗転していく最中、ああそうだ、このイベントは―…




 私が思い出せない名前の攻略者のルートだ…



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