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98 陽平と阿須那6
しおりを挟むside.倉敷阿須那
「阿須那、妊娠した?」
途端周囲の賑やかな声が無くなる。
無音。
いや、時折駐車場から車や人の声等が聞こえるから全くの無音というものではない。ただ周囲から人の声や物音が聞こえなくなっただけだ。
思わずといった形で目の前に席に座っていた陽平が背後を向いて周囲を伺っているが、周囲の人々は陽平と目をあわさない。わざと視線を反らしている者や、顔を背けている者もいる。
…何だかなぁ。
わざとらしいよな~と、やや、いやかなり呆れる。
まぁ良いかと自身も周囲に視線を向けてみるが、先程と同じく視線が合わさることはない。
ひーふーみー…んー予想で7人ぐらいかな。
此方の様子を興味深く伺っている者、耳だけ此方に向けている者。他にも何かしら気配を探っているような、聞き耳を立てている者が数人居る。
皆どれだけ注目しているのやら。
この場で見掛けた程度の赤の他人の事柄がそんなに気になるかね。
等と思ってみるが…。
…まぁいっか。
じっと此方を、固唾を呑んで見詰めている陽平へと視線を向ける。
本来ならβになってしまっているから、普通に考えれば無理だけどな。
とは言え俺は元Ωだったから、例外と言えば例外かな。
「いや、まだわかんねえ。」
「そ、そうか。」
「ただ可能性はある、かな。」
特に昨夜から今朝に掛けての濃厚な何とやらで、出来たような、そうでないような。微妙な感じだけど、学生時代に感じた妙な感覚があるというか何と言うか。
第六感的な変な違和感という感じかな。
女性なら『女の勘』なのかも知れない。
スピリチュアル?うーん…違うような、そうでないような…。
ガタッと音がしたので陽平の方を向くと、驚いたような顔付きになって半分立ち上がりかけている。
「び、病院へ…。」
落ち着けって。
「俺と、阿須那の子供…。」
「おいおい、優樹のことを忘れるなよ。」
優樹の弟、かな。妹かも知れないが。
「だ、だよ、な。」
驚いた顔付きから一変、無の境地みたいな無表情になって硬直している。
いいけど陽平、お前その体制きつくないか?いっそ立ち上がったら?と思っていたら、ガシッと肩を掴まれた。
「そう言えばさ。」
「うん。」
「帰ったら優樹になんて顔して会えばいいのだろう。」
…あほか。
何時も通り普通に接しろ。知らなかったとは言え以前まではお前の義理の息子だったのだし、既にもう『本当の息子』なのだから、な?
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