上 下
122 / 180

98 陽平と阿須那6

しおりを挟む
 
 side.倉敷阿須那


「阿須那、妊娠した?」


 途端周囲の賑やかな声が無くなる。
 無音。
 いや、時折駐車場から車や人の声等が聞こえるから全くの無音というものではない。ただ周囲から人の声や物音が聞こえなくなっただけだ。

 思わずといった形で目の前に席に座っていた陽平が背後を向いて周囲を伺っているが、周囲の人々は陽平と目をあわさない。わざと視線を反らしている者や、顔を背けている者もいる。

 …何だかなぁ。
 わざとらしいよな~と、やや、いやかなり呆れる。

 まぁ良いかと自身も周囲に視線を向けてみるが、先程と同じく視線が合わさることはない。

 ひーふーみー…んー予想で7人ぐらいかな。

 此方の様子を興味深く伺っている者、耳だけ此方に向けている者。他にも何かしら気配を探っているような、聞き耳を立てている者が数人居る。
 皆どれだけ注目しているのやら。
 この場で見掛けた程度の赤の他人の事柄がそんなに気になるかね。
 等と思ってみるが…。

 …まぁいっか。

 じっと此方を、固唾を呑んで見詰めている陽平へと視線を向ける。
 本来ならβになってしまっているから、普通に考えれば無理だけどな。
 とは言え俺は元Ωだったから、例外と言えば例外かな。


「いや、まだわかんねえ。」

「そ、そうか。」

「ただ可能性はある、かな。」


 特に昨夜から今朝に掛けての濃厚な何とやらで、出来たような、そうでないような。微妙な感じだけど、学生時代に感じた妙な感覚があるというか何と言うか。
 第六感的な変な違和感という感じかな。
 女性なら『女の勘』なのかも知れない。
 スピリチュアル?うーん…違うような、そうでないような…。

 ガタッと音がしたので陽平の方を向くと、驚いたような顔付きになって半分立ち上がりかけている。


「び、病院へ…。」


 落ち着けって。


「俺と、阿須那の子供…。」

「おいおい、優樹のことを忘れるなよ。」


 優樹の弟、かな。妹かも知れないが。


「だ、だよ、な。」


 驚いた顔付きから一変、無の境地みたいな無表情になって硬直している。
 いいけど陽平、お前その体制きつくないか?いっそ立ち上がったら?と思っていたら、ガシッと肩を掴まれた。


「そう言えばさ。」

「うん。」

「帰ったら優樹になんて顔して会えばいいのだろう。」


 …あほか。
 何時も通り普通に接しろ。知らなかったとは言え以前まではお前の義理の息子だったのだし、既にもう『本当の息子』なのだから、な?

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

創作BL)相模和都のカイキなる日々

黑野羊
BL
「カズトの中にはボクの番だった狛犬の『バク』がいるんだ」 小さい頃から人間やお化けにやたらと好かれてしまう相模和都は、新学期初日、元狛犬のお化け・ハクに『鬼』に狙われていると告げられる。新任教師として人間に混じった『鬼』の狙いは、狛犬の生まれ変わりだという和都の持つ、いろんなものを惹き寄せる『狛犬の目』のチカラ。霊力も低く寄ってきた悪霊に当てられてすぐ倒れる和都は、このままではあっという間に『鬼』に食べられてしまう。そこで和都は、霊力が強いという養護教諭の仁科先生にチカラを分けてもらいながら、『鬼』をなんとかする方法を探すのだが──。 オカルト×ミステリ×ラブコメ(BL)の現代ファンタジー。 「*」のついている話は、キスシーンなどを含みます。 ※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています。 ※Pixiv、Xfolioでは分割せずに掲載しています。 === 主な登場人物) ・相模和都:本作主人公。高校二年、お化けが視える。 ・仁科先生:和都の通う高校の、養護教諭。 ・春日祐介:和都の中学からの友人。 ・小坂、菅原:和都と春日のクラスメイト。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

甘えた狼

桜子あんこ
BL
オメガバースの世界です。 身長が大きく体格も良いオメガの大神千紘(おおがみ ちひろ)は、いつもひとりぼっち。みんなからは、怖いと恐れられてます。 その彼には裏の顔があり、、 なんと彼は、とても甘えん坊の寂しがり屋。 いつか彼も誰かに愛されることを望んでいます。 そんな日常からある日生徒会に目をつけられます。その彼は、アルファで優等生の大里誠(おおさと まこと)という男です。 またその彼にも裏の顔があり、、 この物語は運命と出会い愛を育むお話です。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

処理中です...