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77 疑惑2
しおりを挟むside.一戸陽平
宿泊に来た温泉旅館の一室に敷かれている布団の上で、ぐっすりと眠っている伴侶阿須那。
深夜まで何度も熱を交わしあった為、今はピクリとも動かない。
昔っから寝相が悪い時とそうでない時があり、どうやら今日は寝相が悪い時らしい。
旅館の寝間着代わりに来ている浴衣の襟元や足元が盛大に開けており、ほぼ半裸状態。辛うじて下着を着ているからマシには見えるが、他の人間には見せたくはない位に色白の肌がとてつもなく色っぽく、艷やかだ。
おかしい。
中年な年齢になっているにも関わらず、阿須那は益々磨きがかかった様に色気が増している。
何故だ。
確かに俺から愛情は大量に投下している自信はあるが、そのせいか?
元から愛らしかったりはするが。
…そう言えば阿須那に出会った幼少時、生まれてから一度も切ったことがないと言っていた伸ばしっぱなしの髪の毛とか、子供特有の幼い顔付きや大きな瞳とか、余りの可愛さに女の子だと勝手に思い込み、今の名前を与えたのは俺だったな…等と思い出す。
こんな見目麗しく可愛い子に対して『製造ナンバー』で呼ぶなんて!と、子供心に生意気な事柄を言い、両親から苦笑を貰ったなと思い出す。
当の阿須那は無表情で大きな瞳で此方をじぃっと見ているだけだったが。
数十年経過した今、名前を付けたあの頃から明確な意識が出来始めたと言っていたのでやはり人間には名前は必要だなって思っている。
無機質なナンバーなんて良くないよな。
ただ、俺、あの時『明日那』の方で呼んでいた筈なのに、何故漢字が『阿須那』になって居たのだろうか。謎だ。
いや、もしかして【阿部 紅美】のせいか?
ダムレイ研究所の研究者であり、阿須那の………
「ふぁぁ~…って陽平?」
「おう、おはようさん。」
じっと見詰めていたから気配で起きたのか、ゆっくりと瞼を開いて此方を見る。
そして、口元を緩く上げて瞳に俺を映し、
「おはよう。」
だああああ!
その微笑み役得です!いや、今特に役とか無いけど!
いや、あった!阿須那の旦那だ俺!やべぇ、諸々やべえ!落ち着け。
「ほんっと、落ち着け。」
ぎゅぅっと抱き付いてしまったら、阿須那からクスクスと笑われてしまった。
「昔から変わってないよな、そういう所。」
「仕方ないだろ?俺は生まれて初めて阿須那に会った時から、ずっと阿須那一筋だからな。」
コレは本当の話だ。
阿須那と出会った時、まだ俺達は幼稚園にも入っていない一桁の年齢。
その時から阿須那に惹かれていた。恋心とかはまだ幼い故自覚はしてなかったようだが、当時から執着しまくってしまって、俺結構やらかして居たからなぁ…。
あはは…。
遠い目になってしまうのは指摘しないで下さい、阿須那。
「そうだったな。陽平ってば小さい頃から「あすなは俺の嫁!」って、ずっと言っていたな。」
「事実だし。」
「俺こう見えても男なんだけど?」
ふふって笑っている声が聞こえる。
優樹が居ないせいか、何時もよりも素直に口に出して言われることが嬉しい。
息子が居るとどうしても阿須那は照れてしまうからなぁ。
「阿須那は俺のだ。」
「陽平は俺のだぞ?」
「その方が良い。」
「だな。」
クスクスと上機嫌で笑う阿須那の顔を抱きしめたままで顔を近付けて見詰めると、触れるだけのキスが俺の口に。
「あ~…。」
ヤバイです、朝から何がナニでタゲリソウデス。
「今からは駄目、な?」
「グ。やっぱり駄目?」
「昨夜散々しただろ?腰とかがいてーんだけど。」
「我慢します…。」
其処で阿須那がやっと自分の寝相の悪さに気が付き、ゴソゴソと浴衣を直す。
「…なぁ。」
「ん~?」
「陽平、言いたいことあるだろ。」
「阿須那が、だろ?」
「あ~…。」
俺が阿須那の腹、主に下腹に幾つもある妊娠線をつーと人差し指でなぞると、言い難いような声があがる。なお、官能を呼び覚ますようにはしていない。
呼び覚ましてくれると良いなぁとは思うが、無理はさせられませんので。
自重。これ、大事。
「〈俺と会わない〉数十年の間に太った、とかではないな。」
阿須那の性格的に、と小声で言うと困ったような眼差しで見詰められる。
〈俺と会わない〉と言うのは、俺達が高校を卒業してから数十年の間、俺をワザと避けていた期間のことだ。その間に阿須那は幼馴染の一人である飯綱ゆうと結婚をして優樹と言う息子を授かり、育てていた期間でもある。
優樹が亜藥村でヒートを起こし、離婚した元嫁のばーさんが発狂し、大騒ぎにならなければ。
その話が俺が勤めていた病院へ伝わらなければ、阿須那が助けを求めて来なければ、今目の前にいる阿須那とは会うことも連絡を取ることも出来なかっただろう。
互いに大人になってから数十年後に会うなんて思いもしなかったし、何より数十年ぶりに亜藥村で再会した当初、阿須那が余りにも余所余所しくて腫れ物に触るようで、情けなくも俺は深く傷ついた。
それが優樹達家族の状態やら何やらで、俺の心情など放置しなくてはならない程にボロボロになって行く様子をみてられなくなり…やがて手を差し伸べて。
数十年経過していても未だに抑えきれず、堪えられない程に阿須那に惹かれている自身の気持ちに蓋をしようとしたけど、月日が経過する程に耐えられなかった。
素直に告白してみれば、気が付いたら阿須那は俺の腕の中に収まってくれた。
…高校の時のように、初めて俺に抱かれた時のように顔を真っ赤にして俺を受け入れてくれて。
そんな俺達をのほほんと幸せそうに微笑み、見詰めていたのが義理の息子である優樹で。
だからこそ、俺はこの親子を責任を持って守ると決めて結婚を申し込んだ。
出来たら俺の手で丹精を込めて、小さくても幸せを与えたくて。
「阿須那は自分の食事でさえ、無意識かも知れないが優樹にやるだろ。」
「ゆう(元嫁)が、ほっとくと幼い時から優樹にご飯をちゃんと食わせなかったから…。」
やっぱり。
あー…我慢しきれねぇ。次に阿須那の元嫁である飯綱ゆうに会うようなことがあったら、一発殴り飛ばしたくなるだろう。きっと、堪えることは出来ないだろうなあ。
「仕方ない、ゆうは我慢していたから。」
「んだよ、それ。息子である優樹を犠牲にして良いことじゃねーだろ…。」
「…そうだよな。俺が悪かったから。」
「阿須那が悪いワケじゃねーだろ、あんのアマが悪いんだっつーの。」
「いや、俺が悪い。何故ならゆうが居なかったら優樹の戸籍が作れなかったから。」
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