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しおりを挟む「皇くーん、流石に何時までも人様の家の玄関先でラブシーンって言うのは不味いかな?」
「ひぇ!」
皇さんのマネージャーである高峰さんの声が、皇さんの背後からして我に返った。
ニマニマと運転手側の窓を開けて此方を見て笑っているマネージャーさんは妙に上機嫌で、此方を眺めつつ、
「ほい、そろそろ二人共車に乗って。幾らある程度芸能関係者に『牽制』したとは言え、何時までもこのままだとカメラに撮られてしまえば面倒事が増えるだけだからね?」
うぐ。
確かにその通りだよ、皇さんは芸能関係のお仕事をしているし、僕は一般の高校生。
相手は高位のαで僕はΩ。
バース性にも話題になると色々面倒だよね。
そんなマネージャーさんを皇さんはチラリと見てからまるで『全く』と呆れたような、諦めたような何とも言えない顔付きで眺めて、それから今度は何とも言えない程の熱い眼差しで僕を見詰め、
「倉敷、是非君に見せたいのがある。良かったら今から出掛けないか?」
※
出掛けるということで流石に今着ている普段着だとちょっとと断りを入れ(部屋着用に購入した黒いジャージを下に履いていたから)、大慌てで部屋に戻って着替える。
とは言えそんなにいい服を持っていないので、ちょっとはマシかな?と言う格好に変更。
…違った、結構いい服だコレ。
先日陽平父さんが「高校生になったから。」と言って、幾つか今迄の何処か男子中学生が着そうな服装から少しだけ背伸びしたような、でも何処か僕らしい服装を見繕って買って来てくれたものだ。
薄い水色の柔らかい色合いのパステルカラーのパーカーにちょっと良い所のナンバリングがあるジーパン。もしかして限定物?
陽平父さんが居なければジーパンなんて安い所の製品を適当に、更に値段が下がって流行りが廃れた状態のジーパンしか買ったことが無かったなと思う。
阿須那父さんも僕も服装はそんなモノだと思っていたし、特に拘りが無かったせいだ。
「ちょっとした御洒落は必要だよ、何せ其処から会話が引き出されるからね。」とは陽平父さん談。そう言った事柄に興味が無い人でも良い生地で製法された服は仕立てが良いから印象が良くなりやすいし、拘りがある人とか知っている人なら其処からちょっとした会話が楽しめる。こういった事柄は阿須那父さんと僕には無い知識だ。
それに皇さんと一緒だから、何かあった時にパーカーで顔を隠せれば良いかなと思ってこの格好にしたのだけど、ちょっと…何だか意識していないか?という風な格好になってしまった気がする。
案の定この格好でスマホと財布を皇さんに貰ったショルダーバッグに入れて肩に背負って下に向かうと、皇さんが「良い品だな。倉敷に似合っているし綺麗で可愛い。」と褒めてくれて、マネージャーさんまで「くっそ可愛いな!」と言われた。
うう、何だか恥ずかしい。
皇さんと僕はキャンピングカーに乗り込み、マネージャーさんは鼻息混じりに運転席に乗り込む。
そう言えば何時でもこのマネージャーさんは皇さんと共に居るなと思う。勿論それが会社から与えられた仕事なのだろうけど、それにしては仕事以外も一緒に居る気がする。
今度思い切って聞いてみるかな?と思っていたら、どうやら声に出ていたらしい。
「あっはっは、そうかそうか、倉敷くんには変に思っちゃったか。俺はちょっと特殊契約していてね?会社と皇家との両方と契約していてさ、彼の私生活とかも仕事として貢献してるの。マネージャーと言うより兼用運転手?あーいや、どっちかと言うとお手伝いさん的ポジションかな?料理は全く出来ないけど。お陰で結構良い給料~。ね、皇君。」
マネージャーさんに言われた皇さんはちょっと苦笑しつつ肩を竦める。
「高峰はこう見えても優秀だ。ただちょっと仕事のし過ぎだがな。」
「えーだって休んじゃうと良い飯食えないじゃん。」
「お前な…。」
「皇君と一緒だと独り者の料理が出来ない俺はいいご飯にありつけるのです~。それが休日だとどうよ?カップ面とお茶漬けのお米無しだよ?!可愛そうでない俺?身体また薄くなるよ?」
「お前の辞書には自炊と言う言葉は無いのか。」
「無いと宣言します!」
「宣言するな…。」
ガックリと項垂れる皇さんに「ニヒヒ」と笑う高峰マネージャーさん。
そんな高峰さんを見て、肩を竦めながらも苦笑を浮かべる皇さんは呆れながらも楽しそう。
それにしてもマネージャーの高峰さんって結構陽キャみたいだな。
マネージャーさんと離している皇さんはクラスで見る普段の大人びた感じの皇さんと違って凄く楽しそう。とは言え僕そんなにクラスで過ごしている皇さんの姿って見ていないのだけどね?リラックスしている姿も滅多に見て居ないし。
もっと色んな姿を見てみたい。
「いい関係を築いているのですね。」
「どうかな。」
「皇君ひっど~い!お兄さん拗ねちゃうからねっ」
「はいはい。」
「ぷりぷり。」
何だか冷凍エビのCMみたいな台詞を呟いて、高峰マネージャーさんは「んじゃ行くよ~。」と此方に向かって宣言し、シートベルトを付ける。
そう言えば何処に行くのだろう?
「皇さん、見せたいものって?」
「これから行く場所にある。着くまで内緒だ。」
ふふっと笑って皇さんは車内にある冷蔵庫の前に立ち、オレンジジュースと烏龍茶、それに珈琲しかないのだが飲むか?と言われて僕はオレンジジュースを頼む。
皇さんは烏龍茶のペットボトル二本と僕が頼んだオレンジジュースを取り出してから僕に手渡し、二本あるうちの一本の烏龍茶をマネージャーさんに渡している。
珈琲飲まないんだ。
てっきり皇さんは珈琲派だと思っていたのにと思っていると、ふと気になる大きな缶がキッチンの方に置かれている。しかもその缶に描かれているマークには見覚えがある。
確か喫茶「ロイン」に置かれていた珈琲の缶に、珈琲豆と花のマークがシールになって貼られている。独特な花の模様なような気がして気になっていたのだけど、このマークは後で陽平父さんに聞いた所によると、珈琲の花が描かれているのだとか。
因みにこのマークのデザインは店主の不破さんなのだとか。
何でも気に入った珈琲の産地に何度も通っており、其処で見た珈琲の花の美しさに感動して描き、自身の店の珈琲豆の袋や缶にはこのシールを貼っているのだとか。
という事は、皇さん不破さんのお店で珈琲とかを購入して居るのかな?
そうして皇さんがキャンピングカーにあるソファー…僕の真横に少しだけ間を開けて座ると、車体が動き出した。どうやら皇さんが座ったと見てから発車したらしい。
こういう所はやはりマネージャーさんって言うことだろうか。
結構敏腕?凄腕?
大人の人に対して子供の僕が思うのは何だか失礼だとは思うのだけど、皇さんと気安い感じ、うーん何か違うな。友達、いやいや仲の良い兄弟みたいな感じで居るなぁと思う。
スケジュール管理もちゃんとして居るみたいだし。
「倉敷、何を考えている?」
「へ?」
横に座った皇さんが烏龍茶のペットボトルを手前にあるテーブルの上に起き、
「キッチンに置いてある缶を見ていたのか?」
「え、ああうん。陽平父さんから聞いていたのだけど、あの缶のシールって喫茶ロインの所のだって聞いていて、今思い出していたんだ。」
「成程。…本来なら倉敷に珈琲やカフェオレを入れてやりたいのだが先日切らしてな、残念ながら今この車には珈琲豆を積んでいない。学園の寮に行けばあるのだが…。」
其処でチラッと運転手側に視線をやる皇さん。その視線に対し、首を軽くふる高峰マネージャーさん。んん?
「えーと、今度機会があれば頂いても?」
「ああ、約束しよう。」
ニッコリと微笑む皇さんに対し、運転席側の高峰マネージャーさんが何となくだけど安堵したような。もしかしてこれから行く場所に何か関係あるのかな?
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