61 / 180
番外編 不破晃洋と赤銅末明の事情 3
しおりを挟む・注意・
男性妊娠表現が苦手な方は、今回はスルーしたほうが良いかも知れません。
※ ※ ※
side.赤銅未明
「ひー」
「ふー」
「みー」
「…何しているんだ未明?」
「ン~まっさかね~正月前に緊急入院するとは思わなくてさ―…で、数えていた。」
ひょっこりとベッドに横になっている俺を覗き込む、俺の番予定者の不破晃洋。
困ったこと、いや嬉しいかな?
1月8日前後出産予定日だったのだが、年末の忙しい12月31日の午後に予定よりも早く産気付いてしまい、緊急入院する羽目になった。
因みにまだ番にはなっては居ない。理由は妊娠したせいで発情期が来なくなったために『番』になれないからだ。(『番』になるには三ヶ月ごとに来る発情期にΩの項をαが噛む必要がある)
そのため、俺達が次の発情期…出産してから人によるが6ヶ月か9ヶ月後辺り、もしくは一年後に発情期が来るためその時に『番』になろうと約束している。
それまで恐らくだけど未だに諦めていないクラウディオ辺りがちょっかい掛けて来そうだが、不破のことに関しては信頼している。おまけに最近クラウディオの周囲に居る同じ学園の女子高生が中々シビアにクラウディオに『躾』を施しているので、ある程度は大丈夫だろうとは思っている。
問題は『俺』なんだよな~…。
お腹の中の子の母親になるんだよな?
大丈夫なのだろうか。
何がって…育児ノイローゼとかになって、不破に八つ当たりとかしないだろうか。
今でも時折無意味に苛ついてしまって不破に迷惑を掛けてしまっている時があるのに、不破は笑ってそのままの俺を抱き締めてくれる。しかも「替わってあげられなくてごめんね。」と謝られてしまうと、勝手に目尻に涙が浮かんでしまう。
んで、号泣。
我ながら情緒がこの妊娠により脳内分泌量が異常になり、今までとは桁違いの感動屋に成り果てて我に返る度に呆れて居る。
あ~クソ。俺の旦那予定者結構イイ男じゃん?
前はイライラして八つ当たりとかしたけど、思えばその時は俺、まだガキだったんだよなぁ…。沢山の愛情を一気にくれるから、つい反発してしまって。
でも素直になったら途端にこう、何ていうの?心のなかにストンッと来るものがあって急に冷静になり、側に居るのが自然で好きになった。
両親が亡くなってから俺の環境が最悪だったせいもあるけど、親戚の件も含めて全力で俺を、赤銅未明を守ってくれる。そんな人等もう俺の前には二度と現れないだろうし、何より俺が甘えても拗ねても苦笑しながら抱き締めてくれる。
そんなの惚れるしか無いじゃないか。
残念ながら年齢は親子程に離れているけど、でも不破の年齢って…特に日本ではΩの数が少ないって言われていたからなぁ。お陰で俺位の年齢のΩとどうこうって言うのはこの狭い日本には意外と多いんだよ。逆にβだとほぼ無いって言うのがまた世間でのネタになっているのだけど。
「数?」
「そそ、此処に来たらやたら中から腹蹴られているの。多分もうすぐ出られるって…んっ」
「未明?!」
看護師さんとか医者呼んだほうが良い!?と、焦った声で居る不破を見詰めて笑う。
「いやいや、ここ何処だと思っているんだよ。」
「分娩室。」
「直ぐ其処に医者居るだろうが。」
クスクス笑うと少し落ち着く。
先程から何度も痛みが襲って来ていて、その度に腹の中で暴れているらしい。早く出て来たいんだろうな、俺も早く我が子の顔を見たいよ。
「あー…陣痛ハンパねー…。」
「未明。」
ギュウッと俺の手を握り締めていてくれるのは嬉しいけど、不破の顔。
「お前顔色わりー…」
真っ青じゃね?
そりゃぁ男性Ωが出産するって言うのは不安要素が多いって言うけど。
更に言うと女性とは違って赤ちゃんが他の子供とは違って小さく産まれるとは言うけど。
多分大丈夫だ。
何せ俺、赤銅未明と不破晃洋との子供だぜ?どうしても暴れん坊になってしまうだろうし、おまけに多分俺に似て跳ねっ返りになりそうだよな~。
「そういえば男か女か楽しみにしていたから聞いて無かったんだよな~。」
「未明ちゃん意外と余裕?」
「うんにゃ、いてーから気を逸らしていねえと失神しそうだから違うこと考えてんの。」
んじゃなきゃこうしてベラベラ喋ってねーわ。
それでもそのうち呻き声に変わりそうな気はするけどさ。
「未明ちゃん。」
「んー」
そう言えば何時の間にか不破が俺のこと「未明ちゃん。」になっているな。最近は「未明」だけになって居たのに、ちょっと懐かしいぞ。
「愛している。」
「はいはい。」
「俺の子生んでくれる覚悟をしてくれて有難う。」
「覚悟っつーか今出産途中だけどな~」
「デスヨネ。」
「デスです。」
「まだ余裕?」
「さー?つか看護師さん達が急に動き出しているけど?」
「うん。産道開いたみたいだよ。」
不破が此方の下…あーうん。無理に見るなよ、どうせ酷いことになっているから。とは言え此方は痛みで屈むことも自身の下半身を見る程度の動きも出来ないけど。
「あー…そっか、つか、いてぇ。」
「未明ちゃん、そばに居るから。」
不破の喋り方がすっかり喫茶店での喋り方になっている。
こうして聞いてみると、確かにちょっとだけオカマっぽいよなぁって思う。見た目が裏切って居るから声だけで判断するならだけど。
うーんでも、不破の柔らかい感じの声って良いなぁ、あー…つくづく俺ってばコイツに惚れているなぁ。
一時期反発していた俺ってほんと、ばっかだよな~…ヤバイ、好き。
声も好き。うん、好きだ好き。
「うーっす。つか、この子の誕生日除夜の鐘の最中かよ…予定日より早いな~…。」
「いや、もう正月。」
「え、マジで?」
「そそ。お正月が誕生日になるかな?」
「あ~…痛。ぅぐ…名前どーうしようか…。」
何だか「痛いのに子供のこと考えている未明ちゃん健気っ」と呟いている声が聞こえて来るけど、さっきも言ったけど気を逸らして居ないと暴れそう。痛すぎるわ~っ。
とは言え痛すぎて今更ジタバタ出来ねぇけどな。
「1月だからやっぱり睦月とかか?女の子なら雪羽(ゆう)とか可愛いよな~。」
「男の子の名前こうめいもしくは、てるあきっていうのは?」
「ん?……未明ちゃん、もしかして漢字俺等の名前の文字一文字ずつ取っている?」
「………うん。」
「それ、いいな。晃明か。男ならその名前だな。」
「女の子なら別の名前だぞ?」
「晃未(てるみ)っていうのも良くない?」
「さっきの雪羽って言うのが可愛いかな~…ぐ、い、ってー…。」
痛みの感覚が狭まって来た。
直ぐ横に不破がいるけど、俺の周囲には医者と看護師数名。
「女の子かなー男の子かなー。」
痛みに耐えながらぼんやりと口にする。
性別とかはぶっちゃけると、俺と不破との子ならどっちでも良い。
「愛しているよ。俺の子になってくれて有難う。」
って沢山伝えたい。
だから無事に産まれて来いよ。
11
お気に入りに追加
762
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
創作BL)相模和都のカイキなる日々
黑野羊
BL
「カズトの中にはボクの番だった狛犬の『バク』がいるんだ」
小さい頃から人間やお化けにやたらと好かれてしまう相模和都は、新学期初日、元狛犬のお化け・ハクに『鬼』に狙われていると告げられる。新任教師として人間に混じった『鬼』の狙いは、狛犬の生まれ変わりだという和都の持つ、いろんなものを惹き寄せる『狛犬の目』のチカラ。霊力も低く寄ってきた悪霊に当てられてすぐ倒れる和都は、このままではあっという間に『鬼』に食べられてしまう。そこで和都は、霊力が強いという養護教諭の仁科先生にチカラを分けてもらいながら、『鬼』をなんとかする方法を探すのだが──。
オカルト×ミステリ×ラブコメ(BL)の現代ファンタジー。
「*」のついている話は、キスシーンなどを含みます。
※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています。
※Pixiv、Xfolioでは分割せずに掲載しています。
===
主な登場人物)
・相模和都:本作主人公。高校二年、お化けが視える。
・仁科先生:和都の通う高校の、養護教諭。
・春日祐介:和都の中学からの友人。
・小坂、菅原:和都と春日のクラスメイト。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
甘えた狼
桜子あんこ
BL
オメガバースの世界です。
身長が大きく体格も良いオメガの大神千紘(おおがみ ちひろ)は、いつもひとりぼっち。みんなからは、怖いと恐れられてます。
その彼には裏の顔があり、、
なんと彼は、とても甘えん坊の寂しがり屋。
いつか彼も誰かに愛されることを望んでいます。
そんな日常からある日生徒会に目をつけられます。その彼は、アルファで優等生の大里誠(おおさと まこと)という男です。
またその彼にも裏の顔があり、、
この物語は運命と出会い愛を育むお話です。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる