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番外編 不破晃洋と赤銅末明の事情 3

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 ・注意・
 男性妊娠表現が苦手な方は、今回はスルーしたほうが良いかも知れません。



 ※ ※ ※


 side.赤銅未明


「ひー」

「ふー」

「みー」

「…何しているんだ未明?」

「ン~まっさかね~正月前に緊急入院するとは思わなくてさ―…で、数えていた。」


 ひょっこりとベッドに横になっている俺を覗き込む、俺の番予定者の不破晃洋。

 困ったこと、いや嬉しいかな?
 1月8日前後出産予定日だったのだが、年末の忙しい12月31日の午後に予定よりも早く産気付いてしまい、緊急入院する羽目になった。

 因みにまだ番にはなっては居ない。理由は妊娠したせいで発情期が来なくなったために『番』になれないからだ。(『番』になるには三ヶ月ごとに来る発情期にΩの項をαが噛む必要がある)
 そのため、俺達が次の発情期…出産してから人によるが6ヶ月か9ヶ月後辺り、もしくは一年後に発情期が来るためその時に『番』になろうと約束している。

 それまで恐らくだけど未だに諦めていないクラウディオ辺りがちょっかい掛けて来そうだが、不破のことに関しては信頼している。おまけに最近クラウディオの周囲に居る同じ学園の女子高生が中々シビアにクラウディオに『躾』を施しているので、ある程度は大丈夫だろうとは思っている。
 問題は『俺』なんだよな~…。

 お腹の中の子の母親になるんだよな?
 大丈夫なのだろうか。
 何がって…育児ノイローゼとかになって、不破に八つ当たりとかしないだろうか。

 今でも時折無意味に苛ついてしまって不破に迷惑を掛けてしまっている時があるのに、不破は笑ってそのままの俺を抱き締めてくれる。しかも「替わってあげられなくてごめんね。」と謝られてしまうと、勝手に目尻に涙が浮かんでしまう。
 んで、号泣。
 我ながら情緒がこの妊娠により脳内分泌量が異常になり、今までとは桁違いの感動屋に成り果てて我に返る度に呆れて居る。

 あ~クソ。俺の旦那予定者結構イイ男じゃん?
 前はイライラして八つ当たりとかしたけど、思えばその時は俺、まだガキだったんだよなぁ…。沢山の愛情を一気にくれるから、つい反発してしまって。
 でも素直になったら途端にこう、何ていうの?心のなかにストンッと来るものがあって急に冷静になり、側に居るのが自然で好きになった。

 両親が亡くなってから俺の環境が最悪だったせいもあるけど、親戚の件も含めて全力で俺を、赤銅未明を守ってくれる。そんな人等もう俺の前には二度と現れないだろうし、何より俺が甘えても拗ねても苦笑しながら抱き締めてくれる。
 そんなの惚れるしか無いじゃないか。

 残念ながら年齢は親子程に離れているけど、でも不破の年齢って…特に日本ではΩの数が少ないって言われていたからなぁ。お陰で俺位の年齢のΩとどうこうって言うのはこの狭い日本には意外と多いんだよ。逆にβだとほぼ無いって言うのがまた世間でのネタになっているのだけど。


「数?」

「そそ、此処に来たらやたら中から腹蹴られているの。多分もうすぐ出られるって…んっ」

「未明?!」


 看護師さんとか医者呼んだほうが良い!?と、焦った声で居る不破を見詰めて笑う。


「いやいや、ここ何処だと思っているんだよ。」

「分娩室。」

「直ぐ其処に医者居るだろうが。」


 クスクス笑うと少し落ち着く。
 先程から何度も痛みが襲って来ていて、その度に腹の中で暴れているらしい。早く出て来たいんだろうな、俺も早く我が子の顔を見たいよ。


「あー…陣痛ハンパねー…。」

「未明。」


 ギュウッと俺の手を握り締めていてくれるのは嬉しいけど、不破の顔。


「お前顔色わりー…」


 真っ青じゃね?
 そりゃぁ男性Ωが出産するって言うのは不安要素が多いって言うけど。
 更に言うと女性とは違って赤ちゃんが他の子供とは違って小さく産まれるとは言うけど。
 多分大丈夫だ。
 何せ俺、赤銅未明と不破晃洋との子供だぜ?どうしても暴れん坊になってしまうだろうし、おまけに多分俺に似て跳ねっ返りになりそうだよな~。


「そういえば男か女か楽しみにしていたから聞いて無かったんだよな~。」

「未明ちゃん意外と余裕?」

「うんにゃ、いてーから気を逸らしていねえと失神しそうだから違うこと考えてんの。」


 んじゃなきゃこうしてベラベラ喋ってねーわ。
 それでもそのうち呻き声に変わりそうな気はするけどさ。


「未明ちゃん。」

「んー」


 そう言えば何時の間にか不破が俺のこと「未明ちゃん。」になっているな。最近は「未明」だけになって居たのに、ちょっと懐かしいぞ。


「愛している。」

「はいはい。」

「俺の子生んでくれる覚悟をしてくれて有難う。」

「覚悟っつーか今出産途中だけどな~」

「デスヨネ。」

「デスです。」

「まだ余裕?」

「さー?つか看護師さん達が急に動き出しているけど?」

「うん。産道開いたみたいだよ。」


 不破が此方の下…あーうん。無理に見るなよ、どうせ酷いことになっているから。とは言え此方は痛みで屈むことも自身の下半身を見る程度の動きも出来ないけど。


「あー…そっか、つか、いてぇ。」

「未明ちゃん、そばに居るから。」


 不破の喋り方がすっかり喫茶店での喋り方になっている。
 こうして聞いてみると、確かにちょっとだけオカマっぽいよなぁって思う。見た目が裏切って居るから声だけで判断するならだけど。
 うーんでも、不破の柔らかい感じの声って良いなぁ、あー…つくづく俺ってばコイツに惚れているなぁ。
 一時期反発していた俺ってほんと、ばっかだよな~…ヤバイ、好き。
 声も好き。うん、好きだ好き。


「うーっす。つか、この子の誕生日除夜の鐘の最中かよ…予定日より早いな~…。」

「いや、もう正月。」

「え、マジで?」

「そそ。お正月が誕生日になるかな?」

「あ~…痛。ぅぐ…名前どーうしようか…。」


 何だか「痛いのに子供のこと考えている未明ちゃん健気っ」と呟いている声が聞こえて来るけど、さっきも言ったけど気を逸らして居ないと暴れそう。痛すぎるわ~っ。
 とは言え痛すぎて今更ジタバタ出来ねぇけどな。


「1月だからやっぱり睦月とかか?女の子なら雪羽(ゆう)とか可愛いよな~。」

「男の子の名前こうめいもしくは、てるあきっていうのは?」

「ん?……未明ちゃん、もしかして漢字俺等の名前の文字一文字ずつ取っている?」

「………うん。」

「それ、いいな。晃明か。男ならその名前だな。」

「女の子なら別の名前だぞ?」

「晃未(てるみ)っていうのも良くない?」

「さっきの雪羽って言うのが可愛いかな~…ぐ、い、ってー…。」


 痛みの感覚が狭まって来た。
 直ぐ横に不破がいるけど、俺の周囲には医者と看護師数名。


「女の子かなー男の子かなー。」


 痛みに耐えながらぼんやりと口にする。
 性別とかはぶっちゃけると、俺と不破との子ならどっちでも良い。


「愛しているよ。俺の子になってくれて有難う。」


 って沢山伝えたい。
 だから無事に産まれて来いよ。
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