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閑話 落合行弘と一戸京夏の場合

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 京夏saido


「せーんぱーい。」


 学園の寮の談話室。
 そこに置かれているソファーで二人並んでトランプでババ抜きをしていたのだが、当然ちょっとでも覗き見れば相手の手札が全部見えてしまう。勝負としては既に終わっている状態。それでもこの人と一緒に遊ぶのはとても楽しい。


「ほら、あーがり。」

「ダヨネー。てか、俺も『上がり』だったり。」

「うん、意味は無かったね?」

「隣同士で手札が丸見えだしな。」


 二人して顔を合わせてニヤリと笑うと、丁度談話室の入り口に田中各務先生が入って来る。


「やあ、トランプかい?」


 この先生、妹のクラスの1年2組の担任の田中道和先生の番相手でΩ。
 珍しいΩでの学園の先生と言うことで赴任した当初、一斉にα達から注目を浴びた一人だそうだ。ただ儚げな風体でありながら、ご当人はのほほんとした呑気な人柄で、ほっとくとそのまま眠そうにポケーとしている事がある。
 今も風呂にでも行っていた?と言うぐらい頬を上気させ、浮かれた様子でほてほてと此方によって来る。しかも手には風呂道具一式。これは確実に入浴を済ませたのだろう。


「センセー、またお風呂入っていただろ?」

「あーばれた?」


 この先生、暇になると日に何度も寮の風呂に入る。いや、正確には入り込む、かな。
 寮の風呂は大勢が入っても良いようにかなり広く面積が取られており、一端の温泉施設並にあるし、社会に出たαが資金提供しているせいか、ジャグジーやサウナに岩盤浴、更には何故か薬湯まであるという状態。もうここ寮じゃないよね?と言っても良いと思う。
 マッサージがあれば、何処の○江戸○泉物語かと突っ込みたい。
 温泉はないけども。


「だってねぇ、道和先生が帰って来ると『駄目』の一点張りで、部屋にある風呂に入れって言うだけで入れさせて貰えないもん。やだよねぇ、折角寮には広い浴槽とサウナがあるのに。大きな風呂やサウナが好きだから何度も入っていたいのにさ~。」


 ぷくーと頬を膨らませて言う姿は年齢の割には可愛らしい。基本的にαから見ると、Ωは本能的に可愛らしく見えるらしいのだが。


「確かにお風呂やサウナ好きには其処にあるのに入れないのはキッツイか。」

「そうだよ、それなのに道和先生ってば禁止なんて言うんだよ、信じられない!」


 むむむと頬を膨らませて文句を言う先生を前に、落合弘行先輩は激しく同意している。そんなことを言いつつ、この先輩『俺』には他生徒が入っている場合は禁止してくるけどな。
 理由はわかるから良いけど。
 情状酌量として落合先輩が風呂に一緒に居る場合は良いらしいのだけど、それって他の生徒に迷惑かけねぇ?この人結構辛辣なαの威嚇フェロモン飛ばすよ?
 倉敷の相手の皇よりはマシだけど。それでも本気出せば結構キツイ気がするんだよなぁ。

 でも、と考える。
 もし仮に、『俺の』落合弘行先輩を邪な目で見やがるαやΩが居たら―…

 うん、殺すな。確実に相手の息の根を止める。
 社会的にもリアルでも、殺そうと思えばαは無駄に高い思考力や社会的地位にコミュニティー能力をフルに使って相手に噛み付き、噛み砕くだろう。
 αの俺がαの落合弘行先輩にこう思うのだから、番となったαはもっと過激になるだろうなぁ。

 それなのに、何故田中道和センセ―夫妻(夫夫)はαと言う狼が大量に居る学園の寮で管理人等しているのだろう。もしかして各務先生の方が言い出したのだろうか。まだ若いのに、これから子供だって産まれる可能性だってあるだろうに。
 αは囲い込む癖が強い傾向があるのに、不思議だなぁ。番になったから色々と安定しているのだろうか?そこの所はα同士の俺達にはわからない、未知の感覚なんだよな~…。

 うん、わからん。
 よし、考えるのは止めだ、止め。それよりならもっと違うことを考えよう。
 例えば落合先輩が意外とカッコつけだとか、今も各務先生の言うことに同意しつつ、自分の事柄には当て嵌め無いこととか。無意識にΩには優しくしてしまうこととか。

 Ωか…。
 目の前の先生もΩ何だけどさ、うーん悪いけどやっぱ妹のΩである杏花音のがカワイイや。
 仕草が可愛い、言葉もおっさん臭いけど可愛い、見た目も賛否両論あるが、双子なのに妹の方のが可愛い。特に髪が長くて綺麗に手入れしていて可愛い。歩き方も昔は大股でノッシノッシと歩いていたが、Ωと解ってから反省したのか。何故かモデルウォークの歩き方になって下手なその辺のモデルよりも凛々しくて勇ましく、堂々とした歩き方となって可愛い。
 普段から懸命に綺麗に見られるようにと、寝る前に制服のスカート等にアイロンを掛けて居るのが可愛い。そして時折失敗しているのもまた可愛い。特にシャツとか偶に寄れているのがまた、可愛い。

 我ながらシスコン、酷く拗らせて居るなぁ。
 シミジミとそう思っていると、


「京夏、まーた妹がカワイイって思っていたろ?」


 と、落合弘行が俺の頭を抱え込むようにして抱き込んで来る。
 そんな俺達をキョトンとした顔で見ていた先生はにっこりと微笑んで、


「あー可愛いね、コロコロ子犬が二匹戯れてる。」


 犬か。
 ヨリニヨッテ例えが子犬。
 αなんてどう考えても獰猛なドーベルマンとかのが納得するのだけどなぁ。
 同じ犬種でも子犬と成犬だと全く別物だと思うよ?

 先生の年齢から見ればそんなもんかもだけど。


「犬じゃないです~。」


 つんとわざと口を尖らせて言うと、落合先輩が笑う。


「京夏、可愛い。」


 うん、知っている。
 先輩こういうの、好きだよね。
 割と初期に気が付いたから今やってみたら、嬉しそうに微笑んでいる。
 よし、やって良かった。俺、正解。
 大勝利。


「そうやってニヤリって笑っている京夏も好きだよ。」


 チュッと頬にキスされるのは気分が上がるな~と思っていたら、先生が大きな目をもっと大きく見開いて、


「そういう関係?」

「デスネ。」

「ハイデス。」


 間髪入れずに返答をすると妙に納得されてしまった。


「この間から妙に距離が近くて、今見たらゼロ距離だったからあれ?と思っていたけど、成程ね。」


 と言われてしまった。


「やっぱり珍しいですかね?α同士で男同士と言うのは。」

「居ないこともないけど、滅多に見たことは無いかな。でも三年にも一人居たっけかなぁ。」


 ほうほう、それは、それは。
 相手誰ー?と聞こうとしたけど、先生の番相手の田中道和先生が来て。内緒で寮の大風呂とサウナに入ったことが速攻でバレ、各務先生が脱兎の如く逃げ出してしまい。
 結局誰だったのか聞けなかった。
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