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3章 モーザ・ドゥーグの影

閑話 迷い 3

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「御嬢様なら何でも可愛いらしくてお似合いですよっ」

 あ、何か人選間違ったかも。
 とか言うアドニス様の囁き声が聞こえたけど、護衛に付くことが多いキーラちゃんに例の件を言う。

「スカートだと不味いと思うの」

「例のあの娘ですね」

 全くと吐息と共に吐かれた言葉にちょっと動揺してしまう。

「わ、悪い子じゃ無いと思うの。ただちょっと人とは違って…」

 う~ん、後はフォローが思い付かない。
 どうやっても無理だ。

「確かに普通とは違いますね、あの料理長の娘ですし」

 良い意味か悪い意味かイマイチ分かりにくい事を言うリアム。
 ちなみに先程からキーラと共にウサギの部屋の前で警備をしていた為居ても不思議では無いのだが、空気を読んで黙って居たようだ。最も今ので台無しになったが。

「オットーさんって普通じゃないの?」

「兵士としても格闘家としても一流で、そして料理人。普通ですか?」

「う~ん?」

「そして料理に使う包丁で五メートル程のモンスターを一撃で葬る」

「ふぇっ」

「普通ですか?」

「普通じゃないです」

 コクコクと頷くしかないウサギ。
 リアムはキーラに「御兄ちゃん!御嬢様で遊ばないのっ!」と叱られつつ、

「服の事ならエイミーさんに聞くと良いですよ。きっと良い品を選んで貰えます」

 と伝えた。








「今日って13.9の月齢だったっけ?」

「いや~違うよ嬢ちゃん、新月だよ」

「じゃあ大丈夫かな?」

「だな」

 二人(一匹は黒猫のアドニス)が何を気にしているのかと言うと、メイド長のエイミーはメリュジーヌ族(上半身が人、下半身が蛇)であり、月齢13.9の夜の前後に本性を現す。
 そしてエイミーは元野生の兎であったウサギにその本性を知られたく無いのである。
 最もウサギは知っているのだが。
 兎も角エイミーが居ると思われる場所を探す。
 先ずはこの時間帯だしと、エイミーに与えられている四階の部屋へ行くが不在。ならばと以前は一階にあったが今は工事中の為に臨時に二階へと移動したメイド達の仕事や支度部屋へ向かうが其所も不在。ちなみに其処に居たメイドのアンバーに「もしかしたら」と教えられた場所へ向かう。


「なあ嬢ちゃん」

「なぁにアドニス様」

 ウサギの後にぴったりとくっついて来るアドニスに声を返すと、う~んと唸りながら、

「もし雰囲気が良かったらエイミーの邪魔するのはよそうな」

「…それは多分大丈夫じゃあないかなぁ」

 どうやらアドニスはエイミーとザジの仲を勘繰って居るらしい。
 でもそれはちょっと違うよねとウサギは思っている。
 ウサギの目にはザジとエイミーは何となくではあるが、同じ職場の友人よりちょっとだけ仲が良い、同性の友人の様に見える。

 ちなみに某大統領の補佐官曰く、ドワーフの酒友達みたいなものに見えるらしい。
 つまりは友情以外は無いのである。

「それは嬢ちゃんの勘?」

「と言うより、ザジ先生もエイミーさんも多分違うと思いますよ?」

 そう言って目的の部屋のドアを開けるとーー…







「ぬあーー!巻き上げられたぁあ!」

 二階に使用人達用の臨時の遊戯室のドアを開けた先、執事見習いのイーサンが手にしたカードを盛大に空中へとばら蒔いて居た。
 そしてイーサンが座って居た机にはスリーカードにストレートフラッシュの揃ったカードが。
 どうやらポーカーをしていた様だ。

 カードって確か、最近やっと印刷技術が向上してきて出回って来た遊びだった筈。ウサギは室内の机の上を見て、部屋中をぐるっと見渡した。

「ウサギ?」

「おや、御嬢様」

「アドニス様も?」

「遊びに来たの~?」

「御主人様御嬢様呼んだの?」

 イーサンだけでなく、マルティンにアンジー、オットーにカメリア夫妻、ウサギの先生のザジにお目当てのエイミー、そしてレノ迄居た。

「…………」

 呆然と佇むウサギ。

 あ、ヤバッとアドニスはフォローをしようと口を拓いた途端…

「レノずるい!皆と遊んでてズルイずるいズルイ!」

「アイタタタッ」

 グニャグニャグニャグニャッ!
 ズルイと連呼するウサギにレノ、竜王は頬をグニャグニャと引っ張られ、痛みに悲鳴を上げる。

「うひゃぎいた、いひゃいって!」

 モギュモギュと力任せに引っ張られるがレノは抗議をあげるのみで特に何もしない。

「レノー!」

 理由は簡単。拗ねて居るだけだし少しすればウサギの気が済むからである。ここ数ヵ月ウサギの側に居て、これが一番早くウサギの機嫌を治す方法なのである。

 …レノの頬は犠牲にはなるが。

「…御嬢様それ以上は幾らなんでも御主人様が丈夫とはいえ、裂けます」

「ひゃあっ!」

 涙目になっていたレノに流石に憐れと思ったのか、珍しくマルティンが助けに入った。
 但し確りと手には遊んで居ると思われるカードは握られたままだが。

「嬢ちゃん容赦無いなぁ」

 呆れた様にアドニスは呟き、従者の物達は遠巻きにレノを心配して見ている。そして頬をグニャグニャに引っ張られたレノは床に蹲って痛みに耐えて居た。

「さ、裂けた?」

「…ウサギ言うに事欠いてソレか」

「あ」

「痛い」

「…ぁぅ」

「弁解を先に言うがな、此方も誘わなかったのは悪かったとは思う。だがウサギは何時もならそろそら寝る時間帯だったし、明日は街に行くのだろ?だから気を使って誘わなかったんだ」

「御免なさいっ」

「わかれば良い。此方も誘わずにすまなかった」

「あの、痛かった?レノゴメンね」

「悪いと思うなら次から、ちょ…あ~…まあ、気をつけてくれればそれで良い」

 竜王、もといレノ、ウサギに激甘である。
 そしてウサギもーー…




 まだまだ御子様である。
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