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3章 モーザ・ドゥーグの影

ふかふかモフモフ

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 部屋の扉を開けたら大柄の男の背が視界を遮り、部屋に入って来た者は憤慨する。

 大柄の男は、ギルドの警備をしている制服ーー…エンチャント(攻撃力+5・防御力UP+5・魔力UP+5・素早さ+3・毒無効・麻痺無効・精神無効・盗難無効・ギルド契約者のみ着用可能と言う魔法防御付属)された支給品を羽織っており、その上着が更に視界を遮る。

 だからこそ、室内に入りたい者は叫ぶ。


「見えないにゃあ~~~っ!」











「すまん」

 ペコペコと雇い主、この商業ギルドを仕切っていると思われる全身真っ白ふわふわ毛の長毛種のケットシーが、傭兵ギルドから雇ったナナホシを叱っていた。


 ***

 ちなみにケットシーはこんな感じだ。

 ・ケットシー/獣人
 地球では猫の妖精。
 クーシーがこの世界での犬の種類であるのと同じ様に、ケットシーはこの世界での猫の種類。なお喋れないのはただの猫や犬であり、種族が違くケットシーやクーシーとは違って体格も骨格も全く違う。簡単に言うと大きくて話せるのがクーシーやケットシーだと思えば良い。標準身長は人間の子供位で120~130センチ位(クーシー・ケットシー共に同じ)。ケットシーは頭が良く、手先が器用で計算が早い。その為、どのギルドにも必ず居る率が高い種族であるが、人族しか居ない国には決して近寄らない(奴隷にされるのを恐れている為)。また団結力が高く、奴隷として一匹でも捕らえられると一族全員で周到に動き、まず経済から崩しに掛かり、次いで政治的な意味合いで相手を逃さずトコトン迄追い掛ける為、ケットシーの性質を知っているもの達は決して近寄らない。その愛くるしい姿からは想像できない程恐るべき種族である。

 ***


 竜王は黙ってソファーに座っており、ウサギはウサギでふわふわモコモコ毛並みが気になるのか、小声で「もふもふ。魅惑のもふもふ~」と手をワキワキしながら呟いて居た。
 ちょっと怪しいぞ、その手付き…。

 どうやら触りたいらしい。

 ウサギの様子をじっと竜王は見詰めつつ思い出す。やたらとベルの御腹を触りまくって顔を埋める事があったが、こう言った毛並みに惹かれるのだろうか?自身も元ふかふかモフモフの白い子ウサギだったのに。
 等と初めて会った時の事を思い出し、あの時の彼女の毛並みは確かに触ると柔らかく艶やかでふわふわモコモコ、特に湖で洗われた後にタオルに埋もれてクークー言いながら眠って居た姿は愛らしく、見ているだけで至福だったなと思い出す。

「もーッ!困るにゃ!アタシ達ケットシーは小柄にゃの。この商業ギルドは内部はケットシーが多いのだから、大柄の人が扉の前に居られると困るんにゃ」

「以後気を付ける」

「そうして欲しいにゃー。ナナホシさんは真面目で強いから、こっちも助かるしにゃあ」

 見た目は怖いんにゃけど優しいしにゃ~、この間も届かない場所にあった箱を取って貰ったにゃし、とワイワイと扉前で謝っているナナホシとケットシーを見て、其処に居たら二の舞が起こりそうだが…と思うが、部外者が口を挟んで良いのかどうかと竜王が悩んで居ると、

 ガンッ

「フギャアアーーッ」

 どうやら密かにフラグが立っていたらしい。
 ケットシーの後頭部に強烈な音を立て、勢い良く開いたドアがぶつかった。









 痛い、痛いにゃぁああっ!と床に転がって居る長毛種のケットシー(良く見ると制服だろうか、紺色のブレザーにネクタイを付けているし、同じく紺色のズボンを履き、黒いブーツを履いている)をスルーした薄茶色の三毛猫、白と黒の髭のケットシー(此方も制服らしいブレザーを着用しているが、左胸に幾つかバッジが付いているし、釦が長毛種のケットシーとは違って魔具になっている)は片眼鏡(モノクル)を右手の桃色と黒の肉球がある手でくいっと上げ、

「御初に御目にかかります。当商業ギルドにようこそお二方。只今係りの者が只今無様に床を転がっておりますが、暫くすれば復帰するので放置で。その間に説明と書類をお願いします」

 そしてクルッとナナホシに向き直り、

「ナナホシさんご苦労様です。で、何故に此方に?お二方に用でも?」

「お、おおそうだった!別室に案内されたと聞いたので、さっきの騒ぎでウサギちゃん達が怪我でもしたのかと」

「そうでしたか。お二人は此方で手続きをして貰うつもりで御呼びしましたが、お怪我は御座いますか?」

「ううん、何も無いです」

 大丈夫ですよとフルフルと首をふるウサギ。
 でもその目線は確実に今来た三毛猫の毛皮に釘付けになっている様だ。しかも珍しいのか、片眼鏡を見たりケットシーのふかふか尻尾を見たりと忙しい。ポツリと「シマシマ尻尾~」と漏らした声から何を考えて居るのか物語って居る。

「ナナホシさん、大丈夫な様ですよ」

「そうか、良かったよ。もしウサギちゃんに怪我でもされてたらレノ君に悪いからね」

 それじゃあ俺は仕事に戻ると手を降り、ナナホシは部屋から出て行った。


 * * *


「ナナホシの子供好きにも困ったもんにゃ~」

 ウサギと二人で渡された書類に必要事項を記載して行くと、やっと復帰したのか長毛種のケットシーがヨッコラショと私達の向かいの席に座り、隣の席に座って居た片眼鏡のケットシーに盛大にどつかれて居た。

「ニャッ!?にゃにゃにゃ何するにゃー!」

「遅い。仕事しろ」

「遅いってアレはウイニー所長が」

 ドンッ

「ピギャッ!あ、足を踏まないでにゃ~!」

「ならさっさと仕事する」

「はいにゃぁああっ」

 ガサゴソと書類を出し初めた長毛種のケットシーは、「うんとー確かここに~にゃ~」とブツブツいい始める。
 対して三毛猫のケットシーは捺印を取り出して机の上に起き、

「確かに竜王様の執事様であるマルティン様からのお手紙を預かりました。遅れましたが、私当商業ギルド所属の責任者で所長のウイニーと申します。申し訳無いのですが、確認をさせて頂きます。男性の方が竜王様。女性の方が竜王様の番で第十一番目の御方ですね?」

「ああ」

「はい~」

 ちなみにウサギの返事がやや遅れたのは、一部読めないらしくウンウン唸りながら下を向いて書類と格闘して居たからだ。
 最終的に竜王に聞いて来たが、以前よりもかなり読み書きが出来る様になり、書類を書き終えた時には実に満足そうにしていた。
 …書いた文字は相変わらず右肩上がりだったが。

「安心して下さい。この部屋は防音の魔具が設置されておりますので外部には漏れませんし、私共も漏らしません。必要ならば秘密を漏らさない契約の魔法も致しますが如何がですか?」

「必要ない」

「解りました。では此方をどうぞ」

 三毛猫のケットシー、ウイニーが二枚のカードを机に並べる。

「此方がこの度発行しました商業ギルドの身分証です。カードの表面、白い部分に血を1滴足らして下さい。それで登録は完了になります」

「わかった。ウサギ、少し痛むが自分で出来るか?」

「はい」

 ギルドの所長であるウイニーからナイフを受け取り、竜王がカードに血を1滴足らす。
 するとカードが光り、カードの表面に文字が現れる。

【名前:レノ】
 ・所属 商業ギルド
 ウイングダス/アルトグレイ 本店
 ・rank F

 自身の血をナイフから拭き取った竜王がウサギにナイフを渡すと、ウサギは指先をちょこっとつついて血を足らす。
 竜王と同じくカードが光り、表面に文字が現れる。

【名前:ウサギ】
 ・所属 商業ギルド
 ウイングダス/アルトグレイ 本店
 ・rank F

 この場合のrankは、職員ではなく冒険者ギルドの冒険者みたいなモノで、同じく幾つか商業ギルドが発行しているクエスト(掲示板に貼り出されて居る)をこなして行くとrankが上がる。SABCDEFとあり、勿論Fが一番下だ。
 そして特例としてSSSがある。


 血を足らした後、何も言わずに竜王がウサギの指先に回復魔法を掛けて傷を治す。ちなみに自身のは放置したままだ。

「有り難う。でもレノも自分の怪我を治してね」

 ウサギに言われ、仕方無いと言う感じで自身の傷も回復させる。
 ほっといても治るのだが、もし自分の血がウサギに付いたら汚れてしまうしと思って素直に聞く。

 竜王は何処までもウサギの為にしか考えて居ない自分に気付く。
 …我ながら惚れすぎである。

「それと一応此方も渡して置きます。此方は血を足らさなくても宜しいですが、無くさない様にお願いします」

 真っ黒いカード二枚を机の上に一枚ずつ、竜王とウサギの前に置く。

「これは?」

 キョトンとしながらウサギがカードに触れると、カードの上に白い文字が浮かび上がる。


【隠蔽/特例カード/第十一番目】
【名前:ウサギ】
 ・所属 商業ギルド
 ウイングダス/アルトグレイ 本店
 ・rank F
【隠蔽/rank 特例 SSS】

「ふぇ?」

「マルティン様からの依頼で特例として作りました。本来なら必要ありませんが、今後特に第十一番目様は何かあるか解りません。もし何かありましたら、どの国にもある我が商業ギルドを盾にご利用下さい。女神に誓って、敏速に対応致します」
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