商業ギルド支部長の恋人

つる

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追放の神子

縁の深さでものをいう 2

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 骨に手が届いた瞬間、シェルティオンは何の抵抗もなく浮かぶ。魔力の上に乗ったと理解する間も無く骨からバチバチと魔力が伝い、シェルティオンはぐちゃぐちゃと考えていたことを忘れ目を白黒させる。
「ギ、ゼラ……?」
 骨からシェルティオンに伝わったのはギゼラの魔力だった。
 シェルティオンは改めて骨に触れ、何度も首を捻る。
 ギゼラはまだ死んでいない。この骨はギゼラではないし、魂が囚われているということもないだろう。ギゼラはダンジョンの仮ボスだが、この骨が元ボスの竜だったとして……ギゼラを本当のボスにしないために用意したものだったとしても、これほどギゼラの魔力を感じられるものなのか。
 骨、竜、ダンジョン、ボス、ギゼラ……シェルティオンは頭を抱え、足下に見える骨をじっと見つめる。
「少しは混ざっているかもしれないが……あれのせいだな」
 平素と変わらぬギゼラの声を聞き、シェルティオンは骨から目を離しぎこちなく横を向き、何事もなかったかのように骨の上に立つギゼラの指さす方を向く。心臓がありそうな場所には魔力を凝縮したような大きな魔石と、巨大な包丁に見える大剣があった。
「はぁ? え、なんで……?」
 何度か瞬きをしたあと、ギゼラと大剣を何度も見返し、シェルティオンは何度も何度も首を捻る。
「召喚したら来た」
「はぁ? つうかお前、お前なァ……!」
 ダンジョンでギゼラに会ってからというもの、シェルティオンは頭を回し続け、衝撃に耐え、ギゼラに甘えるのも我慢してきた。
 心配しても忠告しても少しばかり仕返ししてもどうにもならない。衝撃と不安と絶望を振り撒く恋人に、シェルティオンの怒りは再び爆発した。
「俺は何度! お前に! 怒鳴り散らさなきゃなんねぇの!」
「……できる限り、にこにこのふにゃふにゃであって欲しいんだが……」
 シェルティオンがニコニコふにゃふにゃすることなど、ギゼラと一緒にいてもそうないことで、シェルティオンは想像して自ら頭を抱える。ひどく話を混ぜ返され、変に誤魔化されそうになり、シェルティオンは声を張り上げた。
「お前がこうしなきゃ怒鳴ることもできねぇし、わかってる! 災難だったとか、仕方なかったとかいうことはわかってんだよ!」
 シェルティオンはよろよろと座り込み、大きなため息を付き、頭をぐしゃぐしゃと掻き回す。
「わかってんだけど……お前と家に帰りたいんだよ」
 力なく俯き、すぐに声も弱々しくなったシェルティオンは膝を抱えて呟く。
「帰って退職もぎ取って蜜月過ごしてぇの」
「そうか……ならいっそ、結婚退職でもするか?」
「できるもんなら……お前の作った細工もの箱に入れて渡してやる……」
 商業都市には結婚を申し込む際、自らの一番の成果物を渡す風習がある。果物の流通に貢献したなら果物、ギルド職員として働いてきたなら職員の証明であるバッヂを渡すのだ。
 疲れて叩く軽口は、軽くない上に精細に欠いた。
「わかった、それならとびきりの依頼をしてくれ。すべて叶える」
 ギゼラが近づきつつ力強く頷いたのをいいことに、シェルティオンはその手をガッチリと掴み、前髪や髭で隠れた目を睨みつける。
「いったな……? 覚えてろよ……ってこれも何度」
「できるならこれで最後にしたい」
「希望するな、断言しろ。俺はお前と帰ってワガママいって欲望の限りを尽くして蜜月過ごすんだよ、わかったか!」
 ぎゅっと手を握り、小さい子供にいい聞かせるように、シェルティオンは大人の約束を取り付けた。
「わかった。誓う」
 ギゼラに否やはなく、シェルティオンの勢いに押されることもなく。すんなりと誓いの言葉を発されたことに、シェルティオンは笑顔を浮かべた。
「よし、愛してるっ」
「俺も愛してる」
 ダンジョンの瘴気など忘れたかのように、二人は一瞬ギュッと抱きしめ合ってすぐに離れる。
「お二人さん、可愛らしい感じですけど、蹴られそうなやつ終わりましたかね! こっち助けちゃくれませんかね!」
 二人が離れるのを見計らって声をかけたのはエディンドルだった。地面に叩きつけられるという危機から脱した一行であったが、元神子一行にはまだ災難が続いといたのだ。
「……神官どのがいらっしゃるのに魔力に当てられたままなのはおかしくないですか? 中和の神術や結界の神術、治癒なんかもあったと思いますが」
 人は突然強大な魔力をぶつけられると魔力酔いを起こす。落下途中で絨毯がわりになった巨大な骨か強大な魔力を所有している場合も同じことが起こる。
 つまり、元神子一行……アルゼライトとシェスタは魔力酔いで動けなくなっていた。
「使えないんだろう。神によってはそういった術を使えない」
 そういいながら、ギゼラはエディンドルを見つめる。魔力酔いは自分より強い魔力を急に浴びることによって起きる現象だ。道中散々コケにされていた男が何故平気な顔をしているのか。
「魔力はあるのか」
「いや、本当、詳しいよね? なんでかな!」
 ギゼラの呟きはエディンドルの声に潰され、シェルティオンの立腹で消失した。
「神様とお親しいからじゃあないですかねぇ? 腹立ちますけどねぇ! まぁ……酔い止めお渡ししますので」
 ダンジョンでは何があるかわからない。シェルティオンはしっかり酔い止めも持っていた。
「それにしてもなんで俺は魔力酔いしてないんだ?」
「ああ……ルティは俺とラグラドライトに好かれているから」
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