41 / 41
追放の神子
縁の深さでものをいう 2
しおりを挟む
骨に手が届いた瞬間、シェルティオンは何の抵抗もなく浮かぶ。魔力の上に乗ったと理解する間も無く骨からバチバチと魔力が伝い、シェルティオンはぐちゃぐちゃと考えていたことを忘れ目を白黒させる。
「ギ、ゼラ……?」
骨からシェルティオンに伝わったのはギゼラの魔力だった。
シェルティオンは改めて骨に触れ、何度も首を捻る。
ギゼラはまだ死んでいない。この骨はギゼラではないし、魂が囚われているということもないだろう。ギゼラはダンジョンの仮ボスだが、この骨が元ボスの竜だったとして……ギゼラを本当のボスにしないために用意したものだったとしても、これほどギゼラの魔力を感じられるものなのか。
骨、竜、ダンジョン、ボス、ギゼラ……シェルティオンは頭を抱え、足下に見える骨をじっと見つめる。
「少しは混ざっているかもしれないが……あれのせいだな」
平素と変わらぬギゼラの声を聞き、シェルティオンは骨から目を離しぎこちなく横を向き、何事もなかったかのように骨の上に立つギゼラの指さす方を向く。心臓がありそうな場所には魔力を凝縮したような大きな魔石と、巨大な包丁に見える大剣があった。
「はぁ? え、なんで……?」
何度か瞬きをしたあと、ギゼラと大剣を何度も見返し、シェルティオンは何度も何度も首を捻る。
「召喚したら来た」
「はぁ? つうかお前、お前なァ……!」
ダンジョンでギゼラに会ってからというもの、シェルティオンは頭を回し続け、衝撃に耐え、ギゼラに甘えるのも我慢してきた。
心配しても忠告しても少しばかり仕返ししてもどうにもならない。衝撃と不安と絶望を振り撒く恋人に、シェルティオンの怒りは再び爆発した。
「俺は何度! お前に! 怒鳴り散らさなきゃなんねぇの!」
「……できる限り、にこにこのふにゃふにゃであって欲しいんだが……」
シェルティオンがニコニコふにゃふにゃすることなど、ギゼラと一緒にいてもそうないことで、シェルティオンは想像して自ら頭を抱える。ひどく話を混ぜ返され、変に誤魔化されそうになり、シェルティオンは声を張り上げた。
「お前がこうしなきゃ怒鳴ることもできねぇし、わかってる! 災難だったとか、仕方なかったとかいうことはわかってんだよ!」
シェルティオンはよろよろと座り込み、大きなため息を付き、頭をぐしゃぐしゃと掻き回す。
「わかってんだけど……お前と家に帰りたいんだよ」
力なく俯き、すぐに声も弱々しくなったシェルティオンは膝を抱えて呟く。
「帰って退職もぎ取って蜜月過ごしてぇの」
「そうか……ならいっそ、結婚退職でもするか?」
「できるもんなら……お前の作った細工もの箱に入れて渡してやる……」
商業都市には結婚を申し込む際、自らの一番の成果物を渡す風習がある。果物の流通に貢献したなら果物、ギルド職員として働いてきたなら職員の証明であるバッヂを渡すのだ。
疲れて叩く軽口は、軽くない上に精細に欠いた。
「わかった、それならとびきりの依頼をしてくれ。すべて叶える」
ギゼラが近づきつつ力強く頷いたのをいいことに、シェルティオンはその手をガッチリと掴み、前髪や髭で隠れた目を睨みつける。
「いったな……? 覚えてろよ……ってこれも何度」
「できるならこれで最後にしたい」
「希望するな、断言しろ。俺はお前と帰ってワガママいって欲望の限りを尽くして蜜月過ごすんだよ、わかったか!」
ぎゅっと手を握り、小さい子供にいい聞かせるように、シェルティオンは大人の約束を取り付けた。
「わかった。誓う」
ギゼラに否やはなく、シェルティオンの勢いに押されることもなく。すんなりと誓いの言葉を発されたことに、シェルティオンは笑顔を浮かべた。
「よし、愛してるっ」
「俺も愛してる」
ダンジョンの瘴気など忘れたかのように、二人は一瞬ギュッと抱きしめ合ってすぐに離れる。
「お二人さん、可愛らしい感じですけど、蹴られそうなやつ終わりましたかね! こっち助けちゃくれませんかね!」
二人が離れるのを見計らって声をかけたのはエディンドルだった。地面に叩きつけられるという危機から脱した一行であったが、元神子一行にはまだ災難が続いといたのだ。
「……神官どのがいらっしゃるのに魔力に当てられたままなのはおかしくないですか? 中和の神術や結界の神術、治癒なんかもあったと思いますが」
人は突然強大な魔力をぶつけられると魔力酔いを起こす。落下途中で絨毯がわりになった巨大な骨か強大な魔力を所有している場合も同じことが起こる。
つまり、元神子一行……アルゼライトとシェスタは魔力酔いで動けなくなっていた。
「使えないんだろう。神によってはそういった術を使えない」
そういいながら、ギゼラはエディンドルを見つめる。魔力酔いは自分より強い魔力を急に浴びることによって起きる現象だ。道中散々コケにされていた男が何故平気な顔をしているのか。
「魔力はあるのか」
「いや、本当、詳しいよね? なんでかな!」
ギゼラの呟きはエディンドルの声に潰され、シェルティオンの立腹で消失した。
「神様とお親しいからじゃあないですかねぇ? 腹立ちますけどねぇ! まぁ……酔い止めお渡ししますので」
ダンジョンでは何があるかわからない。シェルティオンはしっかり酔い止めも持っていた。
「それにしてもなんで俺は魔力酔いしてないんだ?」
「ああ……ルティは俺とラグラドライトに好かれているから」
「ギ、ゼラ……?」
骨からシェルティオンに伝わったのはギゼラの魔力だった。
シェルティオンは改めて骨に触れ、何度も首を捻る。
ギゼラはまだ死んでいない。この骨はギゼラではないし、魂が囚われているということもないだろう。ギゼラはダンジョンの仮ボスだが、この骨が元ボスの竜だったとして……ギゼラを本当のボスにしないために用意したものだったとしても、これほどギゼラの魔力を感じられるものなのか。
骨、竜、ダンジョン、ボス、ギゼラ……シェルティオンは頭を抱え、足下に見える骨をじっと見つめる。
「少しは混ざっているかもしれないが……あれのせいだな」
平素と変わらぬギゼラの声を聞き、シェルティオンは骨から目を離しぎこちなく横を向き、何事もなかったかのように骨の上に立つギゼラの指さす方を向く。心臓がありそうな場所には魔力を凝縮したような大きな魔石と、巨大な包丁に見える大剣があった。
「はぁ? え、なんで……?」
何度か瞬きをしたあと、ギゼラと大剣を何度も見返し、シェルティオンは何度も何度も首を捻る。
「召喚したら来た」
「はぁ? つうかお前、お前なァ……!」
ダンジョンでギゼラに会ってからというもの、シェルティオンは頭を回し続け、衝撃に耐え、ギゼラに甘えるのも我慢してきた。
心配しても忠告しても少しばかり仕返ししてもどうにもならない。衝撃と不安と絶望を振り撒く恋人に、シェルティオンの怒りは再び爆発した。
「俺は何度! お前に! 怒鳴り散らさなきゃなんねぇの!」
「……できる限り、にこにこのふにゃふにゃであって欲しいんだが……」
シェルティオンがニコニコふにゃふにゃすることなど、ギゼラと一緒にいてもそうないことで、シェルティオンは想像して自ら頭を抱える。ひどく話を混ぜ返され、変に誤魔化されそうになり、シェルティオンは声を張り上げた。
「お前がこうしなきゃ怒鳴ることもできねぇし、わかってる! 災難だったとか、仕方なかったとかいうことはわかってんだよ!」
シェルティオンはよろよろと座り込み、大きなため息を付き、頭をぐしゃぐしゃと掻き回す。
「わかってんだけど……お前と家に帰りたいんだよ」
力なく俯き、すぐに声も弱々しくなったシェルティオンは膝を抱えて呟く。
「帰って退職もぎ取って蜜月過ごしてぇの」
「そうか……ならいっそ、結婚退職でもするか?」
「できるもんなら……お前の作った細工もの箱に入れて渡してやる……」
商業都市には結婚を申し込む際、自らの一番の成果物を渡す風習がある。果物の流通に貢献したなら果物、ギルド職員として働いてきたなら職員の証明であるバッヂを渡すのだ。
疲れて叩く軽口は、軽くない上に精細に欠いた。
「わかった、それならとびきりの依頼をしてくれ。すべて叶える」
ギゼラが近づきつつ力強く頷いたのをいいことに、シェルティオンはその手をガッチリと掴み、前髪や髭で隠れた目を睨みつける。
「いったな……? 覚えてろよ……ってこれも何度」
「できるならこれで最後にしたい」
「希望するな、断言しろ。俺はお前と帰ってワガママいって欲望の限りを尽くして蜜月過ごすんだよ、わかったか!」
ぎゅっと手を握り、小さい子供にいい聞かせるように、シェルティオンは大人の約束を取り付けた。
「わかった。誓う」
ギゼラに否やはなく、シェルティオンの勢いに押されることもなく。すんなりと誓いの言葉を発されたことに、シェルティオンは笑顔を浮かべた。
「よし、愛してるっ」
「俺も愛してる」
ダンジョンの瘴気など忘れたかのように、二人は一瞬ギュッと抱きしめ合ってすぐに離れる。
「お二人さん、可愛らしい感じですけど、蹴られそうなやつ終わりましたかね! こっち助けちゃくれませんかね!」
二人が離れるのを見計らって声をかけたのはエディンドルだった。地面に叩きつけられるという危機から脱した一行であったが、元神子一行にはまだ災難が続いといたのだ。
「……神官どのがいらっしゃるのに魔力に当てられたままなのはおかしくないですか? 中和の神術や結界の神術、治癒なんかもあったと思いますが」
人は突然強大な魔力をぶつけられると魔力酔いを起こす。落下途中で絨毯がわりになった巨大な骨か強大な魔力を所有している場合も同じことが起こる。
つまり、元神子一行……アルゼライトとシェスタは魔力酔いで動けなくなっていた。
「使えないんだろう。神によってはそういった術を使えない」
そういいながら、ギゼラはエディンドルを見つめる。魔力酔いは自分より強い魔力を急に浴びることによって起きる現象だ。道中散々コケにされていた男が何故平気な顔をしているのか。
「魔力はあるのか」
「いや、本当、詳しいよね? なんでかな!」
ギゼラの呟きはエディンドルの声に潰され、シェルティオンの立腹で消失した。
「神様とお親しいからじゃあないですかねぇ? 腹立ちますけどねぇ! まぁ……酔い止めお渡ししますので」
ダンジョンでは何があるかわからない。シェルティオンはしっかり酔い止めも持っていた。
「それにしてもなんで俺は魔力酔いしてないんだ?」
「ああ……ルティは俺とラグラドライトに好かれているから」
1
お気に入りに追加
37
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
平凡顔のΩですが、何かご用でしょうか。
無糸
BL
Ωなのに顔は平凡、しかも表情の変化が乏しい俺。
そんな俺に番などできるわけ無いとそうそう諦めていたのだが、なんと超絶美系でお優しい旦那様と結婚できる事になった。
でも愛しては貰えて無いようなので、俺はこの気持ちを心に閉じ込めて置こうと思います。
___________________
異世界オメガバース、受け視点では異世界感ほとんど出ません(多分)
わりかし感想お待ちしてます。誰が好きとか
現在体調不良により休止中 2021/9月20日
最新話更新 2022/12月27日
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
爺ちゃん陛下の23番目の側室になった俺の話
Q.➽
BL
やんちゃが過ぎて爺ちゃん陛下の後宮に入る事になった、とある貴族の息子(Ω)の話。
爺ちゃんはあくまで爺ちゃんです。御安心下さい。
思いつきで息抜きにざっくり書いただけの話ですが、反応が良ければちゃんと構成を考えて書くかもしれません。
万が一その時はR18になると思われますので、よろしくお願いします。
俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる