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追放の神子
お前と一緒に帰りたい 2
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シェルティオンに見えるのは土煙と木々の倒れていく様子、逃げきれず土に飲まれるモンスターと時折見える黒に近い灰色の巨大ででかい何かだ。エディンドルの姿はない。
「そもそも身体の一部が確認できる前に走って逃げていた。潰されたり食われたりはないだろう」
ギゼラは大剣を地面に刺し、階段へとまっすぐやってくる土煙を見ながらひとつ息をつき、採取してきた素材の一部をボトボトと地面に落とした。鱗、角、皮、骨、肉……地面に落ちるたびに何かが割れる音や身が崩れるような音がする。布袋に入ったそれらが口からはみ出るたびに腐った匂いと一緒に液体や粉を溢す。
「瘴気のせいか腐るのが早い……半分エディンドル殿に預けておいて正解だった」
ボソリと独り言のように呟き、ギゼラは片手で喉を抑えると呪文を唱え出した。
『進むべからず、超えるべからず、戻り給う』
ギゼラのいつもと違う声と腐った匂いに鼻の頭に皺を寄せつつも、シェルティオンも槍の柄で地面をつくと唇に呪文をのせる。
『並んで阻め、サンドウォーム』
するとギゼラの落とした素材は布の袋ごと黒い靄となり数十歩先に漂い、シェルティオンの力あることばは家と家の間にある塀のような長い塀になった。
その塀にひょいと登り、シェルティオンは槍を構える。
「どうする? 叩き斬る?」
ギゼラもひょいと塀に登り、大剣を構え前を見据えた。
「そうだな。千切らせるから上半分の方を頼む」
千切らせると聞き、シェルティオンがわざとらしい口笛を吹く。土煙と木々、黒に近い灰色の巨体……フォレストワムの後方に、鋭く長い爪が見えたからだ。今追いかけられているフォレストワムはドラゴモルに捕食されそうになっていた。ギゼラはその捕食を手伝い、ドラゴモルにフォレストワムを千切らせようというのだ。
「上半分ねぇ……うまく逃してやれって?」
フォレストワムは土を食べ成長する。巨大になればなるほど、肥沃な土とともに貴重な鉱石を排出することで有名で、フォレストワムを半分だけ切断して逃す冒険者は多い。しかし、そうして冒険者が逃しても外敵から逃げ損ねるフォレストワムも多かった。半分になったフォレストワムは身軽になるが特殊な消化液も毒液も身体に溜めておける量が減り、外敵から逃げ損ねる確率が上がるからだ。
現状でフォレストワムをうまく逃がすにはドラゴモルの邪魔をするか、上半分を逃げやすい場所に誘導する必要がある。
「いや、全部食わせる。欲しいものがあるし、ドラゴモルは腹さえ減っていなければおとなしい。穴掘りはするがこちらを襲ったりはしない」
だが、ユーセルのダンジョンではいくらでも近隣の生息地からフォレストワムを補充することができるため、危険を排除するためにドラゴモルの餌にしてしまう冒険者もいた。
ギゼラは状況によって使い分けるタイプの冒険者で、シェルティオンとダンジョンに行ったときは一度もフォレストワムをドラゴモルに食わせたことはない。
ギゼラの珍しい選択に、シェルティオンはなんだか嬉しくなってにやつく口元を隠した、
「フォレストワムは切断したら逃げっしなぁ……わかった串刺しにでもしといてやるよ。問題はこの服の耐久力だが」
身体が切断されたのだ、逃げられるのならなりふり構わず逃げるのが道理である。土から栄養を摂るために排出される消化液も外敵から身を守るための毒液も口から身体から振りまいて、フォレストワムは逃げるのだ。
「大丈夫だが……浴びないだろう? 消化液も毒液も」
シェルティオンが塀の上でだるそうに商業ギルドの制服を引っ張っていると、ギゼラが迫る巨大モンスターを見据えたまま素っ気なくそういった。
「心配の一つや二つしたらどうだ?」
商業ギルドの戦闘員が着ている制服は特殊だ。ダンジョンに行くにふさわしい装備である。軽さ重視であるため重装騎士のような固さはないが、ちょっとした消化液や毒液は防げた。それにギゼラのいう通り、シェルティオンはフォレストワムの消化液も毒液も喰らわない自信がある。
だがそれはそれとして心配もされず、素っ気なくされるのはつまらない。
シェルティオンがわざと不機嫌そうな声を出すと、これもまた素っ気なくギゼラは答えた。
「してるからお前の制服類は特別加工してある」
「ハァ? 嘘だろ? どこ……っ」
暢気にしていたせいで、ギゼラの作った靄に当たったフォレストワムの衝撃でシェルティオンの身体が揺れる。揺れるだけで塀から落ちなかったのは、シェルティオンもギゼラもフォレストワムが靄にぶつかるのを待っていたからだ。
「見えないところ」
口元に笑みを浮かべ、ギゼラは靄にぶつかったフォレストワムに飛び乗り、胴を千切らせるべく走り出した。
「くっそ、ぜっっっってぇ! 見つけてやるっ!」
神職人の加工に気づかず、のうのうと商業ギルドの制服を着てきた自分が恨めしい。
シェルティオンは妙な気合を補填して塀の上を走り、高く飛び上がると土から飛び出し靄を突き破った後、塀に沿って動き続けるフォレストワムの上に乗った。
「そもそも身体の一部が確認できる前に走って逃げていた。潰されたり食われたりはないだろう」
ギゼラは大剣を地面に刺し、階段へとまっすぐやってくる土煙を見ながらひとつ息をつき、採取してきた素材の一部をボトボトと地面に落とした。鱗、角、皮、骨、肉……地面に落ちるたびに何かが割れる音や身が崩れるような音がする。布袋に入ったそれらが口からはみ出るたびに腐った匂いと一緒に液体や粉を溢す。
「瘴気のせいか腐るのが早い……半分エディンドル殿に預けておいて正解だった」
ボソリと独り言のように呟き、ギゼラは片手で喉を抑えると呪文を唱え出した。
『進むべからず、超えるべからず、戻り給う』
ギゼラのいつもと違う声と腐った匂いに鼻の頭に皺を寄せつつも、シェルティオンも槍の柄で地面をつくと唇に呪文をのせる。
『並んで阻め、サンドウォーム』
するとギゼラの落とした素材は布の袋ごと黒い靄となり数十歩先に漂い、シェルティオンの力あることばは家と家の間にある塀のような長い塀になった。
その塀にひょいと登り、シェルティオンは槍を構える。
「どうする? 叩き斬る?」
ギゼラもひょいと塀に登り、大剣を構え前を見据えた。
「そうだな。千切らせるから上半分の方を頼む」
千切らせると聞き、シェルティオンがわざとらしい口笛を吹く。土煙と木々、黒に近い灰色の巨体……フォレストワムの後方に、鋭く長い爪が見えたからだ。今追いかけられているフォレストワムはドラゴモルに捕食されそうになっていた。ギゼラはその捕食を手伝い、ドラゴモルにフォレストワムを千切らせようというのだ。
「上半分ねぇ……うまく逃してやれって?」
フォレストワムは土を食べ成長する。巨大になればなるほど、肥沃な土とともに貴重な鉱石を排出することで有名で、フォレストワムを半分だけ切断して逃す冒険者は多い。しかし、そうして冒険者が逃しても外敵から逃げ損ねるフォレストワムも多かった。半分になったフォレストワムは身軽になるが特殊な消化液も毒液も身体に溜めておける量が減り、外敵から逃げ損ねる確率が上がるからだ。
現状でフォレストワムをうまく逃がすにはドラゴモルの邪魔をするか、上半分を逃げやすい場所に誘導する必要がある。
「いや、全部食わせる。欲しいものがあるし、ドラゴモルは腹さえ減っていなければおとなしい。穴掘りはするがこちらを襲ったりはしない」
だが、ユーセルのダンジョンではいくらでも近隣の生息地からフォレストワムを補充することができるため、危険を排除するためにドラゴモルの餌にしてしまう冒険者もいた。
ギゼラは状況によって使い分けるタイプの冒険者で、シェルティオンとダンジョンに行ったときは一度もフォレストワムをドラゴモルに食わせたことはない。
ギゼラの珍しい選択に、シェルティオンはなんだか嬉しくなってにやつく口元を隠した、
「フォレストワムは切断したら逃げっしなぁ……わかった串刺しにでもしといてやるよ。問題はこの服の耐久力だが」
身体が切断されたのだ、逃げられるのならなりふり構わず逃げるのが道理である。土から栄養を摂るために排出される消化液も外敵から身を守るための毒液も口から身体から振りまいて、フォレストワムは逃げるのだ。
「大丈夫だが……浴びないだろう? 消化液も毒液も」
シェルティオンが塀の上でだるそうに商業ギルドの制服を引っ張っていると、ギゼラが迫る巨大モンスターを見据えたまま素っ気なくそういった。
「心配の一つや二つしたらどうだ?」
商業ギルドの戦闘員が着ている制服は特殊だ。ダンジョンに行くにふさわしい装備である。軽さ重視であるため重装騎士のような固さはないが、ちょっとした消化液や毒液は防げた。それにギゼラのいう通り、シェルティオンはフォレストワムの消化液も毒液も喰らわない自信がある。
だがそれはそれとして心配もされず、素っ気なくされるのはつまらない。
シェルティオンがわざと不機嫌そうな声を出すと、これもまた素っ気なくギゼラは答えた。
「してるからお前の制服類は特別加工してある」
「ハァ? 嘘だろ? どこ……っ」
暢気にしていたせいで、ギゼラの作った靄に当たったフォレストワムの衝撃でシェルティオンの身体が揺れる。揺れるだけで塀から落ちなかったのは、シェルティオンもギゼラもフォレストワムが靄にぶつかるのを待っていたからだ。
「見えないところ」
口元に笑みを浮かべ、ギゼラは靄にぶつかったフォレストワムに飛び乗り、胴を千切らせるべく走り出した。
「くっそ、ぜっっっってぇ! 見つけてやるっ!」
神職人の加工に気づかず、のうのうと商業ギルドの制服を着てきた自分が恨めしい。
シェルティオンは妙な気合を補填して塀の上を走り、高く飛び上がると土から飛び出し靄を突き破った後、塀に沿って動き続けるフォレストワムの上に乗った。
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