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追放の神子
お預けはいただけない 4
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エディンドルの願いもむなしく、シェルティオンは再びギゼラとの距離を詰める。元々たいして離れていなかったため二人が身体を一部密着させるだけの結果となり、ディンドルがうんざりした顔をするほどその場に妙に熱のある空気が流れた。
「……で、本当に時間が稼げたとして、この辺にはいねぇだろ、お前より強いモンスター」
現在、商業都市ユーセルにはダンジョンが溢れた関係からダンジョン区間が広がっている上に、瘴気が濃すぎて地上に出たモンスター、ダンジョンが迫り上がったことによって住まいから追い出されたモンスターがいる。しかし、これらのダンジョン暮らしをしていたモンスターたちは元ボスより弱く、元ボスより強いギゼラより弱い。
また、ユーセル付近のモンスターの生息地に強い個体はいない。少しでも強い個体がいれば、吸い寄せられるように都市外のダンジョン出入り口に向かうからである。
「ある程度は強さをのせることはできる。だが、素体が必要で……キメラはもちが悪いとかで作っても仕方がない」
「誰に聞いた?」
間髪入れずギゼラに問うたシェルティオンの顔は真剣そのものだ。ギゼラは淡々とことばを返した。
「昔会った神子殿だ」
「なら良し」
ギゼラは神が愛人にしたいというほどの男だ。油断せずしっかり嫉妬して、シェルティオンはギゼラの腕に抱きつく。
「その昔会った神子殿も気になるとこだが……キメラねぇ。確かに生きづらそうだもんな」
「いやそういうことじゃねぇだろ? キメラ作るとか、訳あり研究所壊滅しそうな話、さらりとすることじゃねぇから!」
シェルティオンはギゼラ・オルドーという冒険者を知っている。魔術国の出身で国の基準にあわず魔術具師の資格を得ることを断念しているが、商業都市ユーセルの基準ではかなりレベルの高い魔術師だ。キメラの一匹二匹は鼻歌を歌いながら作れる。
ギゼラはユーセルに留まるような男ではなく、もっと高レベルなダンジョンに潜っては帰ってくる冒険者だ。シェルティオンと恋人になってから商業都市を拠点として他所のダンジョンに行き来している。
知っているからシェルティオンはギゼラの強さや、技術力について『呆れる』『つっこむ』ことをしない。可能か不可能か他の情報が引き出せるか無理をいっていないか……それらを知るためだけにことばを重ねる。
「適当にでっちあげたらどうだ?」
「のせるにしても永続させるためには素体の強さと適性が必要なんだ」
「そんなん探してたらお前がボスになっちまうわ」
ボス化を止めるために必要なのはギゼラより強い、あるいは前のボスと同等の力を持ちギゼラよりダンジョンボスの適性がある怪物を見つけることだ。元神子を邪魔しても少しボス化の時間が遅くなるだけで、ボスにならないわけではない。
シェルティオンが嫌そうな顔をすると、ギゼラが顎に手を当て首を傾げた。
「なら、遠くから喚ぶ」
「またサラリしちまってるけど、ボス級召喚って難しいでしょ!」
「従わせる必要はない。喚ぶだけなら難しくないから、足止めしている間にのせてしまえばいい」
「それでも難しいわ!」
ギゼラと長い付き合いのあるシェルティオンと違いギゼラの常識がわかっていないエディンドルが地面に手をつき嘆く。難しいことに挑むことについて嘆いているのではなく、自分自身の信じていた基準に照らし合わせ、ギゼラの非常識さを嘆いていることは明白である。
シェルティオンはエディンドルを憐れみながらギゼラの肩にもたれ、やはりできることの確認だけした。
「たってなぁ、どうやってのせんだよ。たぶんお前しか召喚術つかえねぇし、なんとか召喚したとしてお前動ける?」
「動けない」
ギゼラは計画段階で『なんとかできる』といった曖昧なことをいわない。はっきりとシェルティオンの確認に答え、首を振る。
「だからボス部屋の加工とアイテムの作成もしていた」
「うん?」
そうしてシェルティオンにとっての最重要事項がギゼラの口から飛び出した。計画段階で曖昧なことをいわない上に、やってしまったことや現状の話もする。ギゼラはいい冒険者だった。
「ここから出る努力はしていたという話だ」
シェルティオンは何度も瞬きをしたあと、現在留まっている部屋を見渡し、地面に並んでいるタイルを見て小さく声を上げる。
「……神職人プロデュースの部屋とボス……」
うっとりと目を細め、何かを想像しているシェルティオンに呼応するように地面に並んでいるタイルがゆるりと光り出した。
「やめろやめろ! なんか光ってんぞ!」
エディンドルが手で地面を押し返し、勢いよく上半身を置き上げ手を大げさに振る。
そうするとすぐにギゼラが耳を押さえた。
「……期待されている」
ギゼラの様子を見て、シェルティオンはハッと我に返り遠くを見つめるのはやめた。
「光った上で気軽に天啓してんじゃねぇよ、泥棒猫……いや盗まれてねぇ俺のギゼラだ」
ギゼラの腰に手を回し、ぐいっと引き寄せるのも忘れずギゼラはどこにいるのかわからない神を睨みつけ宙を見つめる。
「どうしたら愛情は伝わるんだろうか。やはり金だろうか……」
「ものにこめるなら違うもんがいい。グラスコートとか。壊れちまったし」
隙あらばギゼラが浮かれるのをいいことに、シェルティオンはちゃっかりとお願いをしてぎゅっとシェルティオンに抱き着く。
「だから、いちゃつくのやめてくんねぇーかな!」
やはりエディンドルのつっこみが虚しく響いた。
「……で、本当に時間が稼げたとして、この辺にはいねぇだろ、お前より強いモンスター」
現在、商業都市ユーセルにはダンジョンが溢れた関係からダンジョン区間が広がっている上に、瘴気が濃すぎて地上に出たモンスター、ダンジョンが迫り上がったことによって住まいから追い出されたモンスターがいる。しかし、これらのダンジョン暮らしをしていたモンスターたちは元ボスより弱く、元ボスより強いギゼラより弱い。
また、ユーセル付近のモンスターの生息地に強い個体はいない。少しでも強い個体がいれば、吸い寄せられるように都市外のダンジョン出入り口に向かうからである。
「ある程度は強さをのせることはできる。だが、素体が必要で……キメラはもちが悪いとかで作っても仕方がない」
「誰に聞いた?」
間髪入れずギゼラに問うたシェルティオンの顔は真剣そのものだ。ギゼラは淡々とことばを返した。
「昔会った神子殿だ」
「なら良し」
ギゼラは神が愛人にしたいというほどの男だ。油断せずしっかり嫉妬して、シェルティオンはギゼラの腕に抱きつく。
「その昔会った神子殿も気になるとこだが……キメラねぇ。確かに生きづらそうだもんな」
「いやそういうことじゃねぇだろ? キメラ作るとか、訳あり研究所壊滅しそうな話、さらりとすることじゃねぇから!」
シェルティオンはギゼラ・オルドーという冒険者を知っている。魔術国の出身で国の基準にあわず魔術具師の資格を得ることを断念しているが、商業都市ユーセルの基準ではかなりレベルの高い魔術師だ。キメラの一匹二匹は鼻歌を歌いながら作れる。
ギゼラはユーセルに留まるような男ではなく、もっと高レベルなダンジョンに潜っては帰ってくる冒険者だ。シェルティオンと恋人になってから商業都市を拠点として他所のダンジョンに行き来している。
知っているからシェルティオンはギゼラの強さや、技術力について『呆れる』『つっこむ』ことをしない。可能か不可能か他の情報が引き出せるか無理をいっていないか……それらを知るためだけにことばを重ねる。
「適当にでっちあげたらどうだ?」
「のせるにしても永続させるためには素体の強さと適性が必要なんだ」
「そんなん探してたらお前がボスになっちまうわ」
ボス化を止めるために必要なのはギゼラより強い、あるいは前のボスと同等の力を持ちギゼラよりダンジョンボスの適性がある怪物を見つけることだ。元神子を邪魔しても少しボス化の時間が遅くなるだけで、ボスにならないわけではない。
シェルティオンが嫌そうな顔をすると、ギゼラが顎に手を当て首を傾げた。
「なら、遠くから喚ぶ」
「またサラリしちまってるけど、ボス級召喚って難しいでしょ!」
「従わせる必要はない。喚ぶだけなら難しくないから、足止めしている間にのせてしまえばいい」
「それでも難しいわ!」
ギゼラと長い付き合いのあるシェルティオンと違いギゼラの常識がわかっていないエディンドルが地面に手をつき嘆く。難しいことに挑むことについて嘆いているのではなく、自分自身の信じていた基準に照らし合わせ、ギゼラの非常識さを嘆いていることは明白である。
シェルティオンはエディンドルを憐れみながらギゼラの肩にもたれ、やはりできることの確認だけした。
「たってなぁ、どうやってのせんだよ。たぶんお前しか召喚術つかえねぇし、なんとか召喚したとしてお前動ける?」
「動けない」
ギゼラは計画段階で『なんとかできる』といった曖昧なことをいわない。はっきりとシェルティオンの確認に答え、首を振る。
「だからボス部屋の加工とアイテムの作成もしていた」
「うん?」
そうしてシェルティオンにとっての最重要事項がギゼラの口から飛び出した。計画段階で曖昧なことをいわない上に、やってしまったことや現状の話もする。ギゼラはいい冒険者だった。
「ここから出る努力はしていたという話だ」
シェルティオンは何度も瞬きをしたあと、現在留まっている部屋を見渡し、地面に並んでいるタイルを見て小さく声を上げる。
「……神職人プロデュースの部屋とボス……」
うっとりと目を細め、何かを想像しているシェルティオンに呼応するように地面に並んでいるタイルがゆるりと光り出した。
「やめろやめろ! なんか光ってんぞ!」
エディンドルが手で地面を押し返し、勢いよく上半身を置き上げ手を大げさに振る。
そうするとすぐにギゼラが耳を押さえた。
「……期待されている」
ギゼラの様子を見て、シェルティオンはハッと我に返り遠くを見つめるのはやめた。
「光った上で気軽に天啓してんじゃねぇよ、泥棒猫……いや盗まれてねぇ俺のギゼラだ」
ギゼラの腰に手を回し、ぐいっと引き寄せるのも忘れずギゼラはどこにいるのかわからない神を睨みつけ宙を見つめる。
「どうしたら愛情は伝わるんだろうか。やはり金だろうか……」
「ものにこめるなら違うもんがいい。グラスコートとか。壊れちまったし」
隙あらばギゼラが浮かれるのをいいことに、シェルティオンはちゃっかりとお願いをしてぎゅっとシェルティオンに抱き着く。
「だから、いちゃつくのやめてくんねぇーかな!」
やはりエディンドルのつっこみが虚しく響いた。
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